GRAPEVINE @ Zepp Tokyo

GRAPEVINE @ Zepp Tokyo
GRAPEVINE @ Zepp Tokyo
足掛け2ヶ月に渡って展開してきたグレイプバインの最新ツアーも、いよいよ大詰め。今回のZepp Tokyoと、1週間後の沖縄公演の2公演を残すのみとなった。というわけでクライマックス気分は高まっているのだが、あと、土曜日ということもあって当然会場は賑わっているのだが、それにしたってバインはこの11月前半に既に横浜で1回、東京・赤坂で2回のツアー日程もこなしているのである。改めて驚かされる、このバインの支持基盤の頑強さ。ステージ上に登場した田中は「さあ最終日、気合入れて行きたいと思います」と告げていたが、バンドは余計な気負いも無く、まさにいつもどおりというふうに演奏をスタートさせていた。

オープニング・ナンバーは、田中によるアコギのコード・ストロークが穏やかに響いて始まる、最新アルバムのタイトル曲“Twang”だ。ロック・バンドが想いを込めて音を放つ瞬間を捉えた、オープニングに相応しいインパクトのある曲。さらに最新アルバム『Twang』からの楽曲が続けて放たれてゆく。あっという間に田中の歌声は、会場の空間を満たすように広がっていった。手にしたアコギと、西川のノイジーなエレクトリック・ギターとの音の対比もクリアに伝わる。

「沖縄が残ってますが、最終日のつもりで頑張っていきたいと思います。ご存知のようにウチのバンドには、盛り上がりだ、一体感だ、というものは一切ございません。忘れてしまった記憶とか、風景とか、そういったものを、音楽を通じて感じて頂ければと思います。心を込めて演奏しますので」。なんだ、この和やかなムードの中にバインの表現のエッジをとことん簡潔に説明するような、その親切設計のMCは。何年か前だったら、「嫌なことぜんぶ、思い出させてやるぜ!」とか吼えてたところである。言ってる意味は同じなんだけど。言葉の使い方って、大事だなあ。

最新アルバムの楽曲と、“空の向こうから”“SUN”などの懐かしいナンバーを織り交ぜてプレイしてゆくバイン。ライブとしての一体感は、無くはないのである。サラリと、もの凄いグルーヴが機能していたりするのである。ただ、バインの、田中の歌を聴いていれば、能天気にノリノリになることが憚られる、ということなのだ。どうしても拭い切れないブルースが、脳内で、また胸の中で、反響してしまうのだ。バンドのそれぞれの音が脈動のように存在を伝え、静かなのに心の琴線に触れる“hiatus”を歌い終えた田中は、「……寝た? 寝てもいいんだよ。……じゃあ、なんか見えた、逆に。俺は見えたね、一杯」と告げていた。

にしても、ユルい。一曲一曲の演奏には緊張感が保たれているのだが、それを凌ぐほどに曲間のバンド・メンバーのノリが、ユルい。11月は西川の誕生月ということでそれを祝いつつ、メンバー同士赤ワインで乾杯したりして緩やかに時が流れる。忙しいのは、田中のグラスにワインを注ぎ足しに出て来るスタッフだけである。そしてライブ本編では、田中とサポート・キーボード奏者の高野による特別コーナーが盛り込まれた。他のメンバーはステージから立ち去ってしまう。田中によればグレイプバインのモジャモジャ2人ということで、パーマネンツというユニット名なのだそうだ。でもこれが、音数は少ないのだけど深みのある演奏に田中の歌声が映えて、実に素晴らしかった。ここでは“遠くの君へ”や“会いにいく”などメロディアスな美曲が届けられる。

「えー、さっきも言ったように一体感とか無いんですが、ここだけ付き合ってください。自分で言うのもなんですけど、茶番もいいとこですよ? 茶番を本気でやるのがロック・スターですから。じゃあ、僕がせーの、と言ったら、グレイプバインを呼んであげてください。やりたくない人!……やれや! じゃあいきますよー」。熱心なバイン・ファンも渋々、といった感じで声を上げる。おもしろい。「ツアーも2か月やってるとね、新曲が、出来てしまうんですよ」。ここでは大きな歓声があがる。「なので新曲を、やります」。これが大陸的で少し熱を帯びたような、とても風通しの良いロックンロールであった。演奏後に田中はレコーディングするかどうかも分からない、と言っていたけど、ぜひリリースして欲しい。

そして後半は、バインのライブ・パフォーマンスの本領を一息に見せつけてゆくものになった。サポート・ベーシストの金戸が亀井とともにスティックを振るう“Darlin’from hell”を初め、まるで前半のユルさを払拭するようにバンドは演奏へと没入してゆく。シングル曲“疾走”が繰り出され、“指先”の終盤には田中の声にゾクリとさせられる瞬間があった。ロックの神秘性を掴む“CORE”を経て、ラストの“フラクタル”によって最新アルバムの曲はすべて演奏し切った。

「ツアーも2か月やってるとね、新曲が、出来てしまうんですよ」。アンコールに応じて登場した田中が言う。「なので新曲を、やります」。先ほどの大らかな情景とは違い、こちらはドラマティックな展開を見せる。これもいい曲だ。「ここにいる人は、年齢層がバラバラだねえ。男女の比率も、半々ぐらい? みんなの子供時代は、どんな感じだったの?」唐突な質問に、フロアからは失笑も漏れる。が。「…俺はわりと、早く大人になりたかったんよ」。静寂の中に響き渡ったパーマネンツ(ここでこの名前を書くの、なんか雰囲気台無しなんだけど)編成での“smalltown,superhero”は、そのノスタルジックな音の情景といい、余りに感動的であった。最後はもう一度バンドを呼び込んで“鳩”へ。18時に開演したステージが終了したのは、なんと21時であった。ユルユルな時間帯は心配したが、バイン、さすがの地力である。「2010年も、2010以降もよろしく!」と田中が告げて、バンドは去っていった。「一説によると、2012年に地球は滅びるらしいよ!」とも付け加えていったが、それはまあいいか。(小池宏和)

1 Twang
2 Pity on the boulevard
3 NOS
4 Reason
5 空の向こうから
6 SUN
7 VEX
8 hiatus
9 She comes (in colors)
10 Turd and swine
11 遠くの君へ
12 会いにいく
13 それでも
14 新曲
15 Darlin' from hell
16 Afterwards
17 ジュブナイル
18 疾走
19 それを魔法と呼ぶのなら
20 小宇宙
21 指先
22 CORE
23 フラクタル

EN-1-1 新曲
EN-1-2 BLUEBACK
EN-1-3 FLY

EN-2-1 smalltown,superhero
EN-2-2 鳩
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