「1曲1曲歌っていくとどんどん終わりが近づいていくから寂しいね」。ライブが始まったばかりの一番はじめのMCでこう話した木村カエラ。9月からスタートした全国ライブハウスツアー『HyPer39TOUR』の最終日、横浜BLITZ公演。全35ヵ所を回ったカエラ史上一番長いツアーだ。長かったけどあっという間だったんだろうな、つまりそれだけ充実したツアーだったんだろうな、というのは今夜のライブを観ても良く分かる。終わってしまうのが寂しくていつもより長くオーディエンスとのコミュニケーションを楽しんでみたり、全国での思い出を振り返ってみたり。『HyPer39』というツアータイトルからも分かるとおり、デビュー5周年を迎えて、今だから言える素直な感謝の気持ちや、今だから向き合える素直な木村カエラという存在を真っ直ぐ届けてくれたように思う。
壮大な行進曲のようなドラムロールが鳴り響き、スコティッシュな前奏で始まるアルバムの最初を飾る“Dear Jazzmaster '84”でライブはスタート! カエラは元気いっぱいに飛び跳ねては、腕を掲げてオーディエンスを煽る。間髪いれずに雪崩れ込んだ“マスタッシュ”では2曲目にしてマイクを向けてサビを会場に歌わせ、“Yellow”、“TREE CLIMBERS”の完全ロック・モードな展開で場内には溢れんばかりの熱気の渦が立ち込めた。しなやかに手足を動かしながらキレのあるアクションで歌い舞うカエラは、眩しいほどに大きな存在になっている。
「アルバム『HOCUS POCUS』から可愛らしい曲を」と言って“Jeepney”を演奏すると、ここからアルバムからの楽曲が続く。“Phone”では後半カエラがキーボードの方へ赴き、リズミカルなピアノをテリー(Key)とともに連弾。ホットペッパーのCM曲へと変化して終わってみせたり、“HOCUS POCUS”はしのっぴがリズムマシーンを叩いて、打ち込みのビートとともに魔法にかけられたようなカエラ・ワールドへと誘う。
本日の衣装は、ピンクの髪のトロール人形が真ん中にドンとプリントされた白Tシャツに黒のパンツというシンプルな出で立ち。ちなみに昨日はマイケル・ジャクソンのTシャツだったそうで、そのことをMCで話すと「ムーンウォークやって!」のリクエストが会場から飛び……。「出来ないから歌う」と次へ進もうとするカエラを遮り、しのっぴが“beat it”のイントロを弾くと、華麗なターンを披露してみたりという嬉しいサービスも。
そんな、和気藹々としたファンとのコミュニケーションの後で歌われた名曲バラード“どこ”や、「今回のツアーの中で特別な曲です」と言って披露された“Butterfly”など、ただ届けたいという一心でマイクを強く握り締めて歌う姿も、カエラの新たな表現方法の一つとしてしっかりと心に刻まれる感動的な場面だった。特に印象的だったのは“Another world”。しっかりと地に足をつけ、現実の世界を見つめる中で《Another world》とその先を見て高らかに歌い上げるカエラの強い意思が伝わってきた。
メンバー紹介を経て、ホットペッパーの唄、再び。今度はバンドの演奏とオーディエンスの手拍子に合わせてちゃんとダンス付きで披露。「もう1回!」のリクエストに、倍速ホットペッパーを披露して、ついには酸素補給で深呼吸。その後は、観客からの声でどんどんMCが進んでいく。
客:「紅白でホットペッパーやってね!」
カエラ:「紅白でまだ何歌うか分からないけど、ホットペッパーでお願いきたらアガるね!そしたらものすごい電飾ギラギラで行くわ!」
客:「打倒!小林幸子!」
カエラ:「ダメだよ!レコード会社の大先輩ですよ。みんな、他人事だと思ってー」……
とこんな具合でカエラはオーディエンスからの声を一つ一つ拾ってコミュニケーションをとっていく。その後もライブが終わりに近づくにつれて、終わりたくないから「時間稼ぎ!」といって喋り続ける。
そして、ついに迎えたラストブロックは“STARs”、4つ打ちビートに導かれキレのあるダンスで盛り上がった“Jasper”、パワー全開でフロアに無数に挙がったバンザイの手が壮観だった“BANZAI”の最強3曲が連続投入。《この先が 今よりマシな 世界に なるといいな》《飛び上がれ 僕らの未来》とその先に続く未来を強く歌うこの曲で、これからもまだまだ先へと進んでいくという思いが力強いメッセージとなって届いた。
そして、アンコールでは2つの重大発表が! 一つは来年2月に初のベスト・アルバム(しかも新曲入り!)が発売されること。そして、もう一つはこのベスト・アルバムを受けて、3月に日本武道館2Days公演が決定したこと。これには本当にわれんばかりの大歓声が会場に響き渡った! 新曲は「ほんと、かっこいいの~」と言っていたし、武道館公演は「いいライブするから遊びに来て!」と言っていたので、来年の木村カエラからも目が離せない!
これまでになく現実の世界と向き合って、素直な気持ちで外の世界へと繋がっていくような『HOCUS POCUS』というアルバムを引っ提げ、このツアーを回ってきた木村カエラ。たぶん、本人が一番このアルバムに助けられ、このツアーによって「木村カエラ」というアーティストの存在意義を心から信じることができたのではないかなと思う。このツアーについて「本当に意味のあるツアーだった。お客さんの顔を見て歌えるというのは本当に素晴らしいことだね」と言っていたけど、それは、人の存在によってかき乱されることもあれば、人の存在によって助けられることもあるということを強く知ったからこそ思えた当たり前の感情だったのだと思う。それは、“Magic Music”で《みんなの笑顔がみ・た・い!》と叫んだカエラの笑顔が証明していた。そして、最終日はやはり特別ということで、ダブルアンコールもあり、「このツアーでは初めてやります」という紹介の下、“happiness!!!”で最高にハッピーな空間と穏やかな気持ちでラストを締めくくってくれた。(阿部英理子)
1.Dear Jazzmaster '84
2.マスタッシュ
3.Yellow
4.TREE CLIMBERS
5.Jeepney
6.Phone
7.HOCUS POCUS
8.リルラ リルハ
9.どこ
10.ワニと小鳥
11.キミニアイタイ
12.Super girl
13.Butterfly
14.Circle
15.Another world
16.STARs
17.Jasper
18.BANZAI
Encore1
19.BEAT
20.You know you love me?
21.Magic Music
Encore2
22.happiness!!!
木村カエラ @ 横浜BLITZ
2009.12.06