BOYZ OF SUMMER ’09 @ 新木場STUDIO COAST

BOYZ OF SUMMER ’09 @ 新木場STUDIO COAST
BOYZ OF SUMMER ’09 @ 新木場STUDIO COAST
今年で通算6回目を迎えたBEAT CRUSADERS企画『BOYZ OF SUMMER』。毎年、国内の様々な場所に会場を移しながら続く、ある意味では壮大なツアー・フェスと言えるボイサマ。今年はスタジオコーストという、首都圏のロック・ファンには慣れ親しんだ会場での開催である。が、多くの出演者も口々に言っていたように、そして開催告知にあたって誰もが即座にツッコんだこととも思うが、今回はまったくもってサマーではない。しかもド平日の日中スタート。なんの試練なんだこれは。にもかかわらず、チケットはソールドアウトである。企画も企画なら参加者も参加者だ。というわけで、立て続けに登場するライブの猛者たちのパフォーマンスに、終始熱醒めやらぬ、一種異様な盛り上がりを見せたオーディエンスたちであった。

ビークルによる開会宣言と呼び込みを受けて、まず登場したのはYacht.。彼らが立つのはRINKAI-SEN STAGEと呼ばれる、メインのKEIYO-SEN STAGE向かって右側に特設されたステージだ。更に会場内のロビーにはDJやアコースティック・ライブを中心に展開するYURAKUCHO-SEN STAGEがある。新木場を通る3本の路線の電車にちなんだネーミングも面白いが、中庭に特設ステージが設けられることも多いスタジオコーストで3ステージすべてが屋内、というのもこの季節には嬉しい。強引なところは強引だけど、こういう気遣いにビークル企画の「らしさ」を感じる。ボイサマ初登場のYacht.はフレッシュで風通しの良い4人がかりのコーラス・ワークをパンク・サウンドに乗せて、フロアのオーディエンスに火を点けてくれた。「BOYZ OF SUMMERなんで、僕らもサマーサマーで行きます!」とキャップ&Tシャツ姿のイド。サーフ・サウンドを踏まえた彼らのフック満載の楽曲は、確かに聴く者の胸の内に夏の風景を呼び覚ましてくれたのだった。

続いて、スタジオコースト本来のステージにあたるKEIYO-SEN STAGEには、11月にアルバム『BONDS』をドロップしたばかりのHAWAIIAN6。スピードと力強さを兼ね備えた、メロディック・パンクど真ん中の圧倒的パフォーマンスだ。安野が赤い照明の中で叙情的なメロディを歌い出し、即座に爆発的なエモーションとともに転がってゆく様がすこぶるかっこいい。「どうせあれだろ? 何時間かしたらここで、おーまんこー! とか言ってんだろ? お母さん泣きますよ? でもね、そんな掛け声もいいです。俺たちの曲、知らなくてもいいよ。曲知ってるから盛り上がるライブとか、ありえねえからな!? 体が動いたら、ついて来てくれよ!」という畑野の、ライブ・ハウス魂剥き出しのMCも最高であった。さて、ここで会場ロビーのYURAKUCHO-SEN STAGEを覗きに行ってみる。こちらではTERIYAKI BOYZのMCとしても知られるWISEと、DJチーム=Kat’s Crewのパフォーマンスが行われていた。DJがダンス・チューンをスピンしてMCがフリースタイルで煽る、というブロック・パーティ風スタイルなんだけど、トラックがUKのブレイクビーツものだったり、ロック・ナンバーだったりしてロック・ファンとの親和性が高い。こういう柔軟性もさすがである。

RINKAI-SEN STAGEのAVENGERS IN SCI-FIもボイサマ初登場。エレクトロニックなノイズを振りまきながら、しかもそれがギターの音でそれがベースの音なのか、みたいなエフェクター無限地獄スタイルは相変わらず。しかし、以前の彼らはこの音をロック・バンド編成でやる、ということに一種の回りくどいロックへのこだわりが感じられたというか、けたたましい爆音を鳴らしながらもロックへの醒めた批評がステージ上に滲み出ていたのだけど、今は放たれるメッセージ性がよりストレートになっている気がする。異形のダンス・ロック空間を、漂っていない。自らの意志でぶっ飛んでいる。このエモーションの放ち方はすごくいい。

そしてKEIYO-SEN STAGEには、我らがカジヒデキの登場である。忙しなくシルクハットとマントを身につけたり、サンタ帽を被ったりしながらニュー・アルバム『STRAWBERRIES AND CREAM』の楽曲中心にラブリー&パンキッシュなステージを構築してゆく。フルートやサックスの音色が、楽曲に彩りを添えるのもいい。好きな洋楽ロックの情報を堆く積み上げながら、そこにどキャッチーなメロディ・ラインを見つけてしまうという点で、カジ君とビークルの音楽性は意外にも共通しているのだな、と感じられた。クリスマス・ソングのメドレーも楽しかったし、終盤にはビークル/ヒダカを招き入れて“スウィーテスト・ラブ”をデュエットしたりもした。ていうかヒダカ氏、カジ君のステージが始まる直前まで、WISEのステージのエンディングに飛び入りしていたじゃないか。忙しく神出鬼没である。

お腹が空いたので中庭で釜揚げしらす丼を掻き込み(ショウガとシソが効いていて美味しかったです)、続いてはビークルの盟友・ASPARAGUSのステージ。メンバー個々の活動が活発化しているが、やはりボイサマには彼らのステージが欠かせない。タイトでエモーショナルな3ピースのアンサンブルが場内を満たし、しのっぴの伸びやかなファルセット・ボイスが届けられる。「いやー、やっぱり暑かったね! やっぱりまだ夏だったねここは! 長袖着て失敗した。あんまりこんなにたくさんの人に見つめられることないから、今日はしっかり見つめ返そうと思います。よろしくどーぞ!」としのっぴ。彼の超絶アルペジオから爆発的に転がり出した“HAPPINESS”では、フロアに大きな歓声が沸き立った。それにしても、こんな対バン・キラーの権化みたいなライブ・バンドを皆勤させる、しかもバンド主催のイベントって、つくづくなんなんだろうと思う。そのマゾヒズムと背中合わせの自信が凄いというか、やはりビークルなのである。

更に続いてはSCOOBIE DOの登場である。いつもどおりジェームス・ブラウン風のコヤマの煽り文句からスタート。黒煙が舞い上がるようなアッパーなファンク・グルーヴで“トラウマティック・ガール”を披露する。それにしてもカジ君→アスパラガス→スクービーというこの流れは、一見ジャンルがバラバラなようで実に美しい。DJ的視点というか、明らかにこだわりのブッキングである。「サマーなのに冬! ロック・フェスなのに平日木曜日! もはや常識に捕われない、非常識ゾーンと化しております!」というMCにも焚き付けられ、跳ね回るようなダンスがフロア一面に広がっていった。「2009年に溜まっちまったもんを全部吐き出してくれエビバディ。俺たちファンキー4が、それをグルーヴに換えてブルースにして鳴らしてやるぜ!」と畳み掛けるようにコヤマは言葉を投げ掛ける。終盤の“OH YEAH! OH YEAH! OH YEAH!”では、そのフレーズが大書された看板を掲げてシンガロングを求めるのであった。他人の土俵に土足で上がり込んで全取り、ついでに奇麗に掃き清めてきっちり次にバトンを繋ぐというような、何とも見事なフェス仕様のステージングであった。

RINKAI-SEN STAGE最後のアクトは、TROPICAL GORILLAである。もうこれは、ベーシストのCimが最前列のオーディエンスに飲み物のペットボトルを手渡すサービスから始まり、Oi-SKALL MATESのホーン隊を呼び込むわ、フロアのあちこちにサークルを作らせるわ、挙句の果てに何十人ものオーディエンスをステージ上に登らせて踊らせるわで、出演アクト最速のBPMによるパンク・ナンバー以上に、過剰でルール無用のパフォーマンスであった。つんのめりつつ走る爆音のアンサンブルの中から、MxTxRxの歌メロが突き抜けて来る。終わったときにはバンド・メンバーもオーディエンスも汗だくでシャツの色が変わり、まさに力技以外の何物でもないステージングだったけれど、ボイサマの祝祭空間に見事、花を添える形になったと思う。

さあ、いよいよトリのビークルが登場だ。ケイタイモはサンタ衣装、マシータはトナカイの着ぐるみというクリスマス・ムードのステージ上。1曲目“E.C.D.T”から、さすがに大きなシンガロングが広がってゆく。「今日、いろんなバンド観れたでしょ!? ジャンルはバラバラだけどしょうがない、全部好きなんだもん!」というヒダカのMCに続いて、平日の新木場に轟くおまんコールである。「こんな平日でね、仕事とか学校とか休んじゃダメだよ! 法律を犯さないレベルで楽しみましょう」とか言っていたが、この時点で既にギリギリアウトだと思う。ライブそのものは、“CUM ON FEEL THE NOIZE”や“BECAUSE”といった名曲目白押しの横綱相撲だったのだが。“BECAUSE”がプレイされる前の曲間に、女子オーディエンスの脱げてしまった靴が片方、フロアの真ん中で高く掲げられ、持ち主のもとに手渡されて温かい拍手が巻き起こったりしていた。音楽の鳴っていないこの光景こそが、ボイサマの素晴らしい雰囲気を象徴していたように思う。アンコールでは何と、クリスマス・シーズンという理由からヒダカの発案で出演者総出(全員ビークル風お面着用)のカラオケ“ウィー・アー・ザ・ワールド”が披露されたりもした。予想通りというか、しのっぴがその伸びやかなファルセット・ボイスでシンディ・ローパーのパートを歌いこなしていたのが可笑しかった。

やはり平日、しかもこれだけのキャパを埋めるということで、遠方からの熱心なファンも多くいただろうしハードルの高い開催だった。ビークルとしては、“ウィー・アー・ザ・ワールド”にも明らかなように「やってみたかった」ということなのだと思う。この「ロックを遊ぶ」感覚こそが、彼らにとってはバンド活動において、切実な意味で大きな原動力となっているのだ。そんなビークルのバンド運営論まで改めて浮き彫りになったことが、今回のボイサマの意味するところではないかと思う。(小池宏和)
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