ライブは、まずマット(Dr)が1人で登場して軽快なドラム・ソロを叩き出し、ニーク(B)、レインハード(G)、ベント(Vo)の順にオン・ステージ。オーバーオールにヒゲてんこ盛りの巨漢・レインハードとグリーンの鮮やかなタータンチェックシャツをハイウエスト気味にビシッとシャツ・インしたベント(フランツのアレックスにけっこう似ていると思う)の好対照なルックスに目を奪われていると、ベントが「コンニチワートキオーウ!」と第一声を。ライブのオープニングは“フール・フォー・ラブ”だ。アンサンブルは、CDで聴いたよりもずっとエッジが立っていてグルーヴィなのだけど、その上に甘酸っぱくも無邪気なベントのボーカルがのると、あっという間にバンド名が体現する「ポップ」に塗り替えられていく。
4曲目には、レインハードが見た目に反した繊細でやわらかいギターアルぺジオを鳴らし、今宵、唯一プレイされた過去の楽曲“ユー”を披露するが、次の“フィールグッド・ファクターズ”の途中ではベースにトラブルが起こり、ニークが一度袖に引っ込んでしまう。こういう時にはスペアのベースが出てくるものだが、しかし、ニークが引っ張り出してきたのはなんとギター。ベースなしのツインギターで乗り切ってしまうのであった。もちろんタイムラグはあったし、若干ピリッとした空気が漂うものの、ベント&レインハードのでこぼこコンビが寄り添って“レット・ミー・イン”(これがまた予定調和のようなアコースティック・バラッド!)を爽快に歌い上げるものだから、場の空気は冷めるどころかラストに向かって分厚い熱気を帯びていくのだった。
レインハードのギターがグイグイとドライヴする“サタデー・ナイト (パート2)”に続いてプレイされたのは“ウィングス”。CDでチャーミングに響いていたヴィブラフォンはベントの躍動的な電子ピアノに差し替えられ、曲終わりにはカントリー・フレーバーなジャム・セッションまで披露。意外な一面かもしれないが、彼らは今回のアルバムをシーケンサーやDATの類を一切使わず、ほぼ一発録りのライブ録音で仕上げたと語っているように、彼らのポップで軽やかなイメージとは裏腹に屈強なライブ・バンドの側面も持っているのである。
本編ラストは怒涛のシングル2連発“アンダーグラウンド”と“ネヴァー・ゲット・イナフ”をフロアに投下! 跳ねるようなスウィング・ビートでクアトロの熱を一気に高め、この日一番のクライマックスを迎えるのだけど、とにかく圧倒的だったのはベントのパフォーマンスだった。「お酒飲みすぎだよ!」とマットを叱って曲がスタートすると、ステージを泳ぐようにステップを踏み、タンバリン、カウベル、電子ピアノを交互に操り、手馴れた仕切りでオーディエンスをエスコート。ばっちりコール&レスポンスをキメていた。アンコールのフランク・シナトラのカバー“イット・ワズ・ア・ベリー・グッド・イヤー”が終わるころには彼の手は流血していたけど、ベントはとてもうれしそうだった。(古川純基)
1.フール・フォー・ラブ
2.サタデー・ナイト (パート1)
3.タイアード
4.ユー
5.フィールグッド・ファクターズ
6.レット・ミー・イン
7.サタデー・ナイト (パート2)
8.ウィングス
9.トライ・アゲイン
10.アンダーグラウンド
11.ネヴァー・ゲット・イナフ
アンコール
12.イット・ワズ・ア・ベリー・グッド・イヤー