People In The Box @ SHIBUYA-AX

People In The Box @ SHIBUYA-AX
People In The Box @ SHIBUYA-AX
People In The Box @ SHIBUYA-AX
People In The Box @ SHIBUYA-AX
昨年10月にリリースされたミニアルバム『Ghost Apple』を携え、11月、12月と2ヶ月間にわたってライブハウスツアーを回り、その合間に作業しながら完成させた初のシングル『Sky Mouth』を2月にリリースしたPeople In The Box。3月5日(金)札幌COLONYから始まった全国ワンマンツアーの最終日はピープルにとって一番大きな会場となったSHIBUYA-AXでのワンマンだ。

静寂の中、チクタクとリズムを刻む秒針の音が鳴り響いた。早くなったり、遅くなったりするその不規則な音からしてもうピープルの世界。ゆっくりとステージに現れた3人。山口は「今日はファイナルだ!」と意気揚々の様子。波多野は「People In The Boxです。宜しくお願いします」と律儀に挨拶をし、静かに朗読を始めた。朗読に合わせて、福井はトライアングル、山口は打楽器を鳴らす。波多野の声に耳をじっと集中させると、どうやら『Sky Mouth』というタイトルから生まれたようなストーリーだ。ライブが終わった今、考えてみると“Sky Mouth”という曲がないのは、きっと今日の日のこのライブ自体が『Sky Mouth』と名づけられた夜だからなのだと勝手に想像してみる。

“生物学”から“天使の胃袋”というシングルの流れで堰を切ったように彼らの音楽が自分の中に怒涛の勢いで流れ込んでくるのが分かる。歪に捻くれたバンドアンサンブルがじわりと脳内を刺激して、People In The Boxの世界へと引き込まれる。オーディエンスは小刻みに揺れながら思い思いに心酔し、それぞれの楽しみ方をしている。場の一体感を求めるのではなく、それぞれが胸の内に秘めた想いを彼らの音像に投影し、それぞれに解釈して納得して帰っていく。会場が揺れることはないけれど、そこに居合わせた1500人分の想像がどこまでも複雑怪奇なサウンドと繋がれていることをそれぞれが確信する。

波多野は「みんな本当にもの好きだよね」とか「変わってるって言われるでしょう」とか、自分たちのライブを観に来てくれたオーディエンスをしきりに変わり者扱いしていたけど、彼らがどんなに複雑な変拍子を奏でようが、不可思議な音楽性を貫こうが、もうそれが極当たり前のことで、だからこそどこにでもいける無限の可能性があって楽しいわけで、そこがPeople In The Boxに魅かれる理由なんだと改めて思わせてくれた。そこを理解して集まってきた人間が1500人もいるのだから、People In The Boxのスタンダードは本当にスタンダードなものとして受け入れられていることを証明している。どこまでも澄んだ歌声で《ずぶずぶずぶ 蝕んで 蝕んでいく》と唄う“月曜日 /無菌室”が生み出す異物感も、清冽さとカオスが入り乱れた“火曜日/空室”のアンバランスな感覚もどれもが美しく響いていた。

非日常的な音世界に身を投げ込んだかと思えば、一気に日常の世界へと目覚めさせてくれる、山口のMCも相変わらず面白い。このネタも今日で最後だからと会場全員で『Ghost Apple ヒーハー!』コールをやらせてみたり。「残りわずかとなってしまいましたが、全力でぶっ飛ばしていくんでよろしくー!」と超ハイテンション。

『Ghost Apple』というミニアルバムはあの曲順でひとつの繋がりを生み出していた作品だったけど、今日のライブで旧曲を挟みながら順番を入れ替えることで、また別の世界観を生み出していて、1曲1曲がアルバムとはまた違う輝きを放っているのがすごく良かった。特に疾走感に溢れる“はじまりの国”から雪崩れ込んだ“金曜日 /集中治療室”のドラマティックな展開は息を呑むような素晴らしい瞬間だった。途中に山口のドラムソロを挟みつつ、突如“一度だけ”をカットインさせるというニクいアレンジを見せて、再び天まで駆け上るような“金曜日 /集中治療室”の息をもつかせない劇的な流れで押さえ込む。こんなにも聞こえ方が違うのかと驚かされた瞬間だった。

アンコールに応えて、ステージに現れた3人は本当に清々しい表情をしていた。波多野は「みんな、違う表情してるね。それぞれの価値観で楽しんでくれているみたいで嬉しいです」「感謝の言葉しか思い浮かびません。本当に変な人たち(笑)。でも、 People In The Boxは絶対君たちを裏切らないから」と宣言。ダブルアンコールの最後に演奏された“ヨーロッパ”で、全てを吐き出し声にならない声で大絶叫を繰り広げると同時に3人のバンドアンサンブルが怒号のように、そして幻想的に昇華されていった様は圧巻だった。

こんなライブを見せ付けられると、やっぱり次が楽しみになる。きっと彼らのことだから、宣言どおりにこれからも変わり者を裏切らない彼ららしいものを届けてくれるに違いない。今から楽しみだ。(阿部英理子)


1.生物学
2.天使の胃袋
3.水曜日 /密室
4.見えない警察のための
5.月曜日 /無菌室
6.火曜日 /空室
7.6月の空を照らす
8.犬猫芝居
9.木曜日 /寝室
10.She Hates December
11.ブリキの夜明け
12.土曜日 /待合室
13.サイレン
14.はじまりの国
15.金曜日 /集中治療室
16.ペーパトリップ
17.日曜日 /浴室

アンコール1
1.失業クイーン
2.冷血と作法

アンコール2
1.(新曲)
2.完璧な庭
3.ヨーロッパ
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