5月に2作目となるフル・アルバム『シー・オブ・カワーズ』のリリー スを控えたザ・デッド・ウェザー、なんとこのタイミングでの初来日公演である。アーティスト側の希望で当初の予定より開場・開演時刻がそ れぞれ1時間後に変更されていたのだが、開場前のZepp Tokyo前に着くとそこは早くも黒山の人だかり(筆者は単に、時間変更の告知を見落としていただけ)。尋常ではない期待と、少々の緊張がひしひしと感じられる光景だ。
古いブルースのオープニングSEとともに、黒ずくめの衣装を身に纏ったメンバー4人がステージ上に姿を現し、大きな歓声を受ける。そして大音量の試音が一発。それだけで場内が一気にロックなムードへと様変わりする。これだ。あの開演前の期待と緊張は、この瞬間を待ち望むことによって募らされていたものだ。デビュー・アルバム『狂おしき薫り』のオープニング同様、“60フィート・トール”のディーンによるブルージーなギター・フレーズでショウの幕が開ける。ジャック・ホワイトがフィルを刻んで徐々に放熱してゆくバンド・サウンドの中、モニターの上にすらりとした足で仁王立ちになったヴィヴィことアリソン・モシャートの歌声が闇の中に浮かび上がっていった。
“ユー・ジャスト・キャント・ウィン”では、ドラムレスの編成でジャック・ホワイトが前面に立ち、リード・ボーカルを務める。ボーカリストと、ギタリスト兼キーボード・プレイヤーと、ベーシストと、ドラマー。デッド・ウェザーは実にロック・バンド然とした佇まいの4ピースであり、当然のことど真ん中のロックンロールを披露するバンドでもあるのだが、しかし同時に、ロックンロールへの依存や甘えからは最も程遠いバンドである。かつてホワイト・ストライプスが牽引したロック史上最大規模のあのガレージ・ロックンロール・リバイバルという「流行」は、残念ながらロックンロールへの依存や甘えをも生み出し、その「流行」の沈静化とともに名前が聞かれなくなったバンドも少なくない。その中でジャック・ホワイトは自らのイマジネーションから弾き出されるロックンロールを更新し続け、また複数のバンド・プロジェクトを立ち上げ、そのすべてを成功させてきた。ただバンドの中の一人としてロックンロールの一部を担っているだけなのに、溢れ出るイマジネーション(それによって培われた演奏能力も含め)が嫌が応にも存在感を際立たせてしまう。それが超人ジャック・ホワイトの、超人たる所以である。
そして、ディーンの鋭いギター・リフから転がり出す“ノー・ホース”、大きな抑揚のある物語性に支えられた先行シングル“ダイ・バイ・ザ・ドロップ”、ヴィヴィとジャック・ホワイトのツイン・ボーカルによる16ビートのダーティー・ロックンロール“ブルー・ブラッド・ブルース”と、新作『シー・オブ・カワーズ』からの曲群が畳み掛けられる。キャッチーさと豊かなイマジネーションを両輪に爆走する、もの凄い曲ばかりだ。この後にも高速シャッフル・ビートに乗ってヴィヴィがボルテージを上げてゆく“ジョウブレイカー”、軽快なファンク・ビートでディーンのリフが決まる“ハッスル・アンド・カス”など、サービス精神旺盛に新作収録曲が披露されていった。やたら豪華なプレビュー・ライブのようである。それにしても、これは凄いアルバムだぞ。ラカンターズもそうだったが、ツアーを通してメンバーの関係がこなれるからか、またそれによってイマジネーションが広がるからか、2作目のアルバムの方が風通しが良い気がする。今回の新曲群は、まさにそんな印象だ。
ギターの必殺リフで盛り上がる“ニュー・ポニー”の後、ディーンがステージ上で一人、哀しげなキーボードの旋律を奏でる。そこにベースを離れたジャック・ローレンスがドラムを加え、そしてジュピター・サンダーバードを抱えたジャック・ホワイトがフロントに立った。1本のスタンド・マイクでヴィヴィと寄り添って歌われるその“ウィル・ゼア・ビー・イナフ・ウォーター?”は、紛れもなくブルージーでロックなのに、まるでオペラのようにシアトリカルで、美しいパフォーマンスであった。
アンコールでもたっぷり、ペンタグラムのカバーであるレパートリー“フォーエヴァー・マイ・クイーン”など4曲を披露したデッド・ウェザーは、満足げな表情で全員が肩を組み、礼をして去っていった。正直言って、またすぐにでも観たいというような、そんなステージであった。『シー・オブ・カワーズ』リリース後の一刻も早い再来日を、心から切望している。(小池宏和)
1.60 Feet Tall
2.Hang You From The Heavens
3.You Just Can’t Win
4.So Far From Your Weapon
5.No Horse
6.Die By The Drop
7.Blue Blood Blues
8.Rocking Horse
9.A Child of a Few Hours
10.Jawbreaker
11.Hustle and Cuss
12.New Pony
13.No Hassle Night
14.Will There Be Enough Water?
encore
15.Forever My Queen
16.I Cut Like A Buffalo
17.I Can’t Hear You
18.Treat Me Like Your Mother