4月5日:名古屋・中京大学文化市民会館 オーロラホール、7日:大阪・グランキューブ大阪、8日:兵庫・アルカイックホール、10日:東京・JCBホール、12日&13日:東京国際フォーラム ホールA……という4都市6公演から成るジャパン・ツアーの4日目。なので、セットリストの詳細はネタバレ防止のために割愛するが、“コーパス・クライスティ・キャロル”“ハンマーヘッド”“虹の彼方に”“誰も寝てはならぬ”といった『エモーション~』収録曲も交えつつ、70年代の名盤『ワイアード』以来の共演(しかもライブでの共演はこのツアーが初めて!)となるナラダ・マイケル・ウォルデン(Dr)とともに叩き出す“レッド・ブーツ”で大喝采を巻き起こしたり、“ビッグ・ブロック”のド迫力サウンドでフロアを圧倒したり、ビートルズの“ア・デイ・イン・ザ・ライフ”をさらに豊潤かつカオティックに蘇らせたり……ロックのみならずジャズ/ブルース/フュージョン/クラシック/オペラなど剛軟自在な音楽的要素を盛り込んだ音楽性を、ナラダ・マイケル・ウォルデン、ロンダ・スミス(B)、ジェイソン・リベロ(Key)といった名手揃いのバンド編成でもってダイナミックに、しかしあくまで洗練されたアンサンブル重視モードでもって再現していく。それでも、時に御大のソロが狂おしくむせび泣くたびに、あるいはタイトなリズムを切り裂く勢いでリフや速弾きが炸裂するたびに、固唾を呑んで見守るオーディエンスの脳内麻薬が大量分泌されているのが、その心地好い緊迫感から伝わってくる。そして“誰も寝てはならぬ”で聴かせた壮絶なギター・ロック・オーケストレーション! 最高だ。
それにしても。「シンセ・サウンドを多用し、ブラック・ミュージック系に長けたリズム隊を迎えたアンサンブルで、ロックのみならずジャズやクラシックなども消化した音楽をプレイし云々」というと、普通なら「それってプログレかフュージョンじゃん」となるのが関の山だ。が、彼のソロがどんなに難解な音階をなぞり、どんなに緻密な音像を構築していても、今のジェフ・ベックの音楽をプログレとかフュージョンと呼ぶ人はまずいない。それは単に、「UK三大ロック・ギタリスト」としての圧倒的プレイアビリティとか存在感によるものではない。というか、彼にとってはロックもジャズもフュージョンもプログレも、もはや広大な音楽の荒野の一部なのだろう。音楽的スタイルではなくて「その先」だけを見ている感じ、とでも言えば少しは近いかもしれない。その求道的な超絶ギター・テクだけでも僕らは十分酔いしれてしまうが、彼にとってはそれはあくまで「手段」であり「目的」ではないのだ。65歳になってなお燃え盛る音楽開拓精神にこそ、彼のロックは宿っている……ということを、この日のプレイを観て改めて感じた。
さすが世界に名だたる指弾きの名手だけあって、あの白のストラトをいくら激しくかき鳴らしてもチューニングは必要なし。そんな彼はこの日、2曲だけギターを持ち替えた。1曲は99年『フー・エルス!』収録の“ブラッシュ・ウィズ・ザ・ブルース”でテレキャスを弾いた時。そしてもう1曲は、「偉大なるレス・ポールに捧げる」とギブソン・レスポールを構えて“ハウ・ハイ・ザ・ムーン”カバーを演奏した時。本編終了時にメンバー紹介しつつ「アイシテマス、アリガト!」と言ったくらいでほぼMCもなかったが、何より彼のプレイが饒舌にそのエモーションを物語っていた。1回目のアンコール終了時、ナラダが「ジェフ・ベック!」と改めて紹介すると、会場から割れんばかりの大歓声! 客席にスティックを投げてあげるナラダに続いて、指先の滑り止め用の粉を客席にぱっぱっと撒いてみせるいたずらっぽい御大の姿に、さらに大きな拍手が沸き上がった。いくら本人は歌わないとはいえ、2度のアンコールまで含め1時間40分のステージを水やドリンク類一切なしで余裕綽々演奏しきってみせた御大。世界中のギタリストがジェフ・ベックぐらい弾けてくれたら楽しいのに!と妄想するくらい、ロック・ギターの可能性と面白さを思い知らせてくれる一夜だった。(高橋智樹)