神聖かまってちゃん/七尾旅人@原宿アストロホール

神聖かまってちゃん/七尾旅人@原宿アストロホール - 七尾旅人 / pic by 雨宮 透貴七尾旅人 / pic by 雨宮 透貴
神聖かまってちゃん/七尾旅人@原宿アストロホール - 七尾旅人 / pic by 雨宮 透貴七尾旅人 / pic by 雨宮 透貴
神聖かまってちゃん/七尾旅人@原宿アストロホール - 神聖かまってちゃん / pic by 森リョータ(Ryota Mori)神聖かまってちゃん / pic by 森リョータ(Ryota Mori)
神聖かまってちゃん/七尾旅人@原宿アストロホール - 神聖かまってちゃん / pic by 森リョータ(Ryota Mori)神聖かまってちゃん / pic by 森リョータ(Ryota Mori)
この5月は原宿アストロホールのオープン10周年記念ということで多種多様なシリーズ・イベントが開催されていて、この日のライブはそのうち「Private Lesson」と銘打たれたイベントの一環。ついこの間、5月4日に代官山UNITで行われたイベント『REPUBLIC Vol.6 ~映像作家100人 2010 リリースパーティー~』でもiLL/ROVO/NATSUMENらとともに顔を揃えていた七尾旅人と神聖かまってちゃんだが、今日はまさしく、まったく別方向に尖りまくりながら「今」を象徴する2組の真っ向対バン。アストロホールのフロアの熱気は開演前から静かに、そして異様なほどに高ぶりを見せつつある。

19時オンタイムで登場したのは七尾旅人。1人でステージ中央によっこいしょと腰掛け、アコギ抱えて“ユニクロサンボ”をやっちゃあ「これ、しばらく2番が書けなかったんだけど、NYに行ったら書けた! 83年に佐野元春がNYに渡ってヒップホップに出会ったみたいに」と笑いを誘い(本人的には「ややうけ」だったようだが)、「16歳の時の曲です」と“八月”を静謐に歌い上げたかと思いきや「今はちょっと声変わりしちゃったんで(笑)」……と、MCともボヤキともつかない調子でつぶやき続ける。フロア、くすくす笑い混じりのリラックス・ムードに。しかし、「次はいきなり戦争の曲です。どんなやつが戦争に行くのかな?と思って調べてたことがあって。そしたらわりと普通の、自分と同じようなやつで……」と歌い始めた“戦闘機”の、《私を乗せて 飛行機よ舞い上がれ》のフレーズとともに、咆哮と言ってもいいほどの絶唱が堰を切ったようにあふれ出した瞬間、アストロホールの空気は一変する。爆撃の轟音ノイズと断末魔の叫びまで1人で表現しきって曲が終わる。誰もが呪術に囚われたような静寂。フロアが拍手で満たされたのは、少し間を置いて、会場全体が彼の魔法から醒めた後のことだった。

ルー・リードの“ワイルド・サイドを歩け”カバーを歌う前には「この曲にはトランスジェンダーの人がいっぱい出てくる。そのトランスジェンダーの人、平たく言えばオカマの人が、『迷った時にはワイルドなほうに行きなさい』って言うの。ロックでしょ? もう、ロックロック言う前に女装しろ!」と妙に熱く語ったかと思えば、ボイス・チェンジャーでゲイバーのママ風の野太い声になって「ここどこですか? ここ、私の店じゃないの? 『新宿アスホール』じゃないの?」とすっかりゲイキャラを楽しみきってしまう旅人。後半、七尾旅人×やけのはら名義のシングル“Rollin' Rollin'”でもお馴染みのトラックメイカー=ドリアンを招き入れる際も「ゲストがいるの! ドリエちゃん!」である。辛辣に世界を批評する視線と、珠玉のメロディメイキング&ボーカリゼーションと、観ているこっちがドキドキするほどの渾身のユーモアと、「お前、名前何て言うの? ミオちゃん? ♪ミオ〜ミオ〜」とか「未発表曲なんだけど、歌ってほしいんだよね!」と会場全体ポップ・ミュージック共犯者にしてしまうスリリングなコミュニケーションが渾然一体となった彼の表現の真骨頂とも言うべき時間だった。ドリアンと2人編成で“Rollin' Rollin'”など3曲やった後、配信楽曲“検索少年”のPVコンテストへの参加を呼びかけて終了。20:10頃。

そして20:35、神聖かまってちゃんの出番。みさこ(Dr・Cho)、ちばぎん(B・Cho)、mono(Key)がオン・ステージ。大歓声!……だが、肝心のの子(Vo・G)がいない。「ギリギリまでトイレ行ってまして……」と申し訳なさそうに言うmono。ほどなくして、さっきの七尾旅人に呼応するかのようにメイクをしてつけまつげしてウィッグをつけてワンピースを着た女装姿のの子が登場、「黒柳徹子?」とメンバーにいじられまくる(monoは♪るーるるー、と『徹子の部屋』のテーマを口ずさむ)が、本人はなぜかいきなりB'zを歌いまくったかと思えば「このクソギター、すぐチューニング狂うんだよ!」とギターに悪態をつく。“23才の夏休み”を披露しては「原宿なんて来ねえよ! お前ら原宿ピープルか! それとも七尾旅人さんピープルか!」とオーディエンスを失笑させ……という展開までさっきの七尾旅人のアクトと見事にシンクロしているのが可笑しい。まるっきり偶然だろうが。

たとえば“黒いたまご”の、宅録ハウス・オーケストラ的なサウンドをバックに踊るの子&monoの異形感。たとえば“学校に行きたくない”の途中でかましたの子の背面ダイブ。たとえば7月リリース予定のシングル曲“夕方のピアノ”で見せたの子の、少年少女の悲鳴とクラウス・ノミの奇声が足しっ放しになったような白目ひんむいた「死ねええええ!」の絶叫。mono「もうひと暴れしたほうが……」の子「盆踊り?」mono「もうひと暴れ!(怒)」といった具合に、終始monoの滑舌の悪さをいじって会場の笑いを誘うにこやかさでもって巧みにオブラートに包みながら、ひたすら自らの毒と棘を聴く者すべての脳裏に流し込んでいく。それ単体では強力なグルーブ感を持つちばぎん&みさこのビートをあえて調子っ外れのディストーション・ギターでずたずたに切り刻み、ファニーだったり壮麗だったりするキーボード・サウンドとハーモナイザーが生み出す神経質なポップ感を、最後にはの子の怒濤のテンションでもって地獄の底へと突き落とし、そんな姿がフロアを至上の狂騒へと誘っていく。ここ最近の「ライブ中にPCぶっ壊す」とかいう伝説級の事件こそ起きなかったものの、その「存在そのものが事件」というかまってちゃんの異物感が改めて浮き彫りになった一夜だった。

“夕方のピアノ”を終えた21:30、メンバー3人が舞台袖へ引っ込む……が、の子は退場しようとしない。スタッフがの子からギターをもぎ取っても「終わらねえぞ!」と舞台に居残り、そのまま他の3人が登場してアンコールだかなんだかよくわからない状態に。“あるてぃめっとレイザー!”“ちりとり”をやって、ギターの弦を口で切ってみせるの子。他の3人が引っ込みかける。の子、「熱くなってきましたね!」とまだまだやる気。結局、の子は1回も退場しないままWアンコールの“ぺんてる”へ突入。定型化したショウであることすら拒もうとするような、鉄壁のロックンロール・イノセンス。メジャー進出を決めた今なお、彼らの錯乱エモーションは留まるところを知らない……その証明のようなステージだった。(高橋智樹)
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