オープニングの“ウユニの恋人”から、4人は浮遊感に満ちたアンサンブルと美しいコーラス・ワークをBLITZに共鳴させる。青白いライトの中、そのエーテルのようなアンサンブルに聴き入っていると、重力から解放されたような心地良い陶酔感に包まれる(つまり早くもNOVEMBERSマジックの術中に陥っているというわけ)。続けて“pilica”、“she lab luck”、“Figure 0”と畳み掛ける4人。吉木の躁的な4つ打ちとハイハットの連打がライブの熱量を乗算し、ギター・ケンゴは倒れこむようにしてフィードバック・ノイズを掻き鳴らすなど、曲を追うごとにアグレッシブに“こわれて”いくNOVEMBERS。ふとフロアに目をやると、満場のお客さん、何人かがかすかに揺れている程度で、ほとんど動かない。傍観? 引いてる?? いや、違う。彼らは、ただ動けないのだ。そうなるのもまぁ仕方がない。聴く者の脳裏にはひとつの完結した世界――この世のものとは思えないほど美しく、そして醜悪な世界だ――が立ち上がり、その繊細で情景的なサウンドが照射する脳内イメージから目が離せなくなってしまうのだ。そこには「鑑賞する」と言うより「耽溺する」といったニュアンスの深い感情移入が伴われていて、演奏中は金縛りにあったように聴き入り、ブレイクとなると「フォー!」という歓声と共に大きな拍手が湧き上がるという、親密なコミュニケーションがなされていた。一曲ごとに意匠を凝らした照明も、実に効果的で美しい。
十分にエンジンの温まった中盤以降は特に圧倒的で、“パラダイス”では構築と破壊の鮮やかなコントラストで誰しもを魅了し、深海のようなSEとライティングのなかプレイされた“philia”では、強烈なバックライトを浴びてフルスロットルの爆音でパフォーム。LOSTAGEばりの鬼気迫るプレイに戦慄が走った。さらに“Gilmore guilt more”では、おもむろにギターを置いた小林がハンド・マイクでステージ袖のスピーカーに駆けのぼり、目を剥いて幾度もシャウト。マイクを垂れてオーディエンスに叫ばせ、ステージを降りてフロア前でさらにシャウトと半狂乱のパフォーマンスを展開。ゾクゾクするような緊迫感は、この夜のハイライトと言えるものだった。
終盤になって、ようやく小林がMCらしいMCを披露――「すごいですね、たくさん人がいますね。目が点ですよ(笑)。3月にアルバムを出して全国を回ってきたんですけど……ホントにたくさんの人が関わってくれたんだなって感じてます。何より、この瞬間にすごく感謝してます。ホントにどうもありがとう!」。続けてベース・高松もボソボソとなにがしかをしゃべり出すのだけど、ほとんど判別不可能でオーディエンスはノー・リアクション。すると、「レスポンスを求めるときはね、もうちょっと間口の広い話をしないと。それがツアーで学んだこと」と小林による公開レクチャーが開講。元気よく「こんばんわ!」と仕切り直して物販の案内をする、飲み込みの早い高松くんだったのでした(笑)。
本編ラストでは、アルバムのオープニングを飾る象徴的ナンバー“Misstopia”を披露。あらゆる罪に恩赦を与えるような優しくも温かなサウンドは、危ういくらいの純血さでもって観る者を魅了した。4人はダブル・アンコールにも応え、最後はすべてを燃やし尽くすような爆音でフィナーレ。演奏面以外ではまだ不器用さが感じられたり、少々自己陶酔的にすぎる場面もあったけれど、なによりロック・バンドとしての芯の強さが際だった、記念的なステージだったと思う。次なる一手、期待してます!(奥村明裕)
<SET LIST>
01 ウユニの恋人
02 pilica
03 she lab luck
04 Figure 0
05 アマレット
06 BROOKLYN
07 Exit
08 僕らの悲鳴
09 パラダイス
10 keep me keep me keep me
11 philia
12 sea’s sweep
13 Gilmore guilt more
14 dysphoria
15 こわれる
16 dnim
17 バースデイ
18 Misstopia
ENCORE 1
19 marble
20 tu m’
ENCORE 2
21 白痴