「初日です。恐らく、今回のツアー会場で今日が一番狭いです。言い方を変えると一番近いです」とオーディエンスを沸かせて、ここからは志磨もアコギを抱えてのミディアム~スロウなナンバーを披露してゆく。ソリッドでグラマラスなロックンロールもいいが、ブルースの本質を歌詞の物語性と素朴なメロディによって紐解いてゆく“悲しい男”のような楽曲もまた、マリーズの大きな武器だ。まるで派手さはないのに、どうしてこんなにも琴線に触れるメロディなんだろう。そして、志磨が再び語り出した。
「えー。デビューしました。自分が気になることだけを、やってきました。……そのね、音楽は一体なんのためにあるのか、ということなんです。音楽やってもお腹は空くしさ、眠くもなるし。例えば今、戦争やってる国に行って“イマジン”歌うか? 戦争止まるか? たぶん、無理。つまり、音楽は《余分》で《余裕》なものなんです。だから、人のためにやる。今回のアルバムは、あなたがたのために作りました。どんなふうに使ってもらっても、お好きなようにして頂いて結構。全部わかってから作ったから。次の曲は、今回のアルバムの中で、最初に出来た曲です」。
“それすらできない”。スロウなメンフィス・ソウル風の、厳しいほどの視線で己の立ち位置をドライに見定め、それを表明する歌だ。イッツ・オンリー、バット・ロックンロール。その後のルーズでズブズブなグルーヴが決まりまくる“金がなけりゃ”の割り切ったような視点と、“それすらできない”のシリアスに思いを馳せる視点は、マリーズにとって、ロックンロールにとって表裏一体のものであり、どちらも欠けてはいけない両輪なのだ。どちらかに特化できれば分かり易いのかもしれないけれど、それではリアルじゃなくなってしまうし、走れなくなってしまうのだ。マリーズはそのことを知っている。肩を露出させたセクシーなドレスを身に纏うヒロTも、速いベース・ラインを弾きつつ“すてきなモリー”を歌った。ここでの大きなシンガロングには、彼女も半ば驚きつつ笑みを零していた。
「私たちは将来的に、幸せになるよね? きっとなるよね。でもその後死ぬよね。間違いなく。だから、死ぬ歌を歌います。その後、生きる歌を歌います」。“BABYDOLL”から、マリーズのインディー時代に生まれたアンセムと言っていいだろう、“ビューティフル”へと連なる。この日、新作収録曲以外で初めてプレイされたのはこの曲だった。そしてステージは怒濤の、パンキッシュに攻め立てる終盤へと向かう。本編ラストは“愛する or die”で爆発的なエネルギーを放出したまま幕となったが、演奏曲の大半は新作からのものとなった。
アンコールではいきなり新曲が披露される。これがまたグラマラスで華々しい、そしてロマンチックな決意にも満ちた素晴らしいロックンロール・ナンバーであった。「(新作で)あと一曲やってないのなーんだ? 最高の曲、聴いてください。古い曲やって欲しい? 私たちは生まれ変わったんです。新しい曲でやらな。だから短いのごめんね。東京ドームでお会いしましょう、毛皮のマリーズでした」。夢をみて進化発達を続ける人類のロックンロール。マリーズは、生きることの苦しみを直視してそれを憂いながら、同時に人生を愛し、強く抱きしめることが出来るロックンロール・バンドである。これは絶対に素晴らしいツアーになる。そう確信した。完璧な覚悟をもって新しい一歩を踏み出した彼らを、しっかりと見届けて欲しい。(小池宏和)