DJやフルートも含む7人のバンドと4人のボーカルをバックにエリカが登場すると、場内は総立ちに。“アメリカ・プロミス”、“ヒーラー”とニュー・アルバムからの新曲が続くが、誰もが歓声を上げて共に歌っている。そしてエリカは大地の鼓動と共鳴するような力強いビートを軸に、時に波間に漂うような、時に天を貫くような、または熱い炎のような歌声で、壮大な広がりを体感させるショウを展開して行った。彼女は観客を圧倒する一方で、電子ドラムを叩いている最中に自分のお尻をポンと叩いて見せたり、太極拳のような妙な踊りをしたり、お茶目で可笑しな一面も度々見せてくれる。そのパフォーマンスと存在感はあまりにユニークで、時折人間というよりもエリカ・バドゥという生き物を見ているような心地にさせられた。そんな彼女とバンドを介して放たれる有機的で斬新な音楽は、他のどこにも見られない空間を創出した。
後半デビュー・アルバムの“ネクスト・ライフタイム”でこの夜一番の大合唱を響かせた後、エリカは今回のツアー名である『ヴォルテックス』とは地球から出ている気の渦の事だと説明し、「ない所では作ればいい。誰でも作れるのよ。どうすればいいかって? ただ“自分自身”でいればいいの。そして、こうするの!」と、大樹のように両手を挙げて立った。まるで何か祝祭の儀式に参加しているような非現実的な神秘性を感じる瞬間もあると同時に、彼女がリズミカルに繰り出す鋭く真摯な歌詞の数々に自ずと現実を考えさせられる、とてもインスピレーショナルな体験だった。(鈴木美穂)