音楽が一時停止した日。音楽シーンが、ブラック・アーティスト&コミュニティへの差別を考え行動する日に。レディー・ガガも新譜のプロモを一時停止し、大統領を「人種差別主義者」と批判

音楽が一時停止した日。音楽シーンが、ブラック・アーティスト&コミュニティへの差別を考え行動する日に。レディー・ガガも新譜のプロモを一時停止し、大統領を「人種差別主義者」と批判

海外のアーティストが、6月2日火曜日に、一斉に黒の四角のみの投稿をしていたのに気付いた人は多かったのではないか。レッド・ホット・チリ・ペッパーズからレディオヘッドリアーナに、フリート・フォクシーズまで、ありとあらゆるジャンルのアーティストたちに加え、サミュエル・L・ジャクソンやティモシー・シャラメ、ナタリー・ポートマンなど俳優達も同様の投稿をしていた。





これは、ミネアポリスで白人警官がジョージ・フロイドを殺したことに始まった全米でのBlack Lives Matter運動を受けて、アトランティック・レコーズの役員と元役員の黒人女性2人が、6月2日に「The Show Must Be Posed」(ショーを一時停止)することを提案して広まった。彼女達は、あえて火曜日を選び、通常の業務を止めて、音楽の配信もプロモも一時停止。長年莫大な利益を黒人のアーティストから得て来た巨大産業である音楽産業は、この日、「役員室からストリートに至るまで」黒人アーティストや黒人の従業員、コミュニティのために何ができるのかを考え、行動するべきだ、と訴えたのだ。


それを受けて、ユニバーサル、ソニー、ワーナーなどのメジャー・レーベルは即それに同意し、6月2日火曜日は通常業務を停止すると宣言した。その他の放送局やSpotifyなど音楽ストリーミングサービスも同意。多くの白人アーティスト達は、その前後にどんなサポートができるのかをリツイなどしまくっていた。ビリー・アイリッシュも様々な情報を発信しまくっている。

1)レディー・ガガ
レディー・ガガは、今回の事件が起きる前に新作『クロマティカ』の発売を5月29日と発表していた。偶然にもこの事件の最中に当たってしまったわけだ。これまでのガガは、こういう不平等に関しては先頭に立って異議を唱えてきたので、新作とこの事件の間で、きっと苦しいんじゃないかと思っていたら、やはり。本来世界的に行なわれるはずだったリスニングパーティを延期にした。新作の発売は当然アーティストにとっては何より大事な日なので、それを延期してまで、この事件に重きを置くガガは彼女らしくて素晴らしいと思った。延期を発表した後に、長いコメントを発表している。


私は、今回の件に関して言いたいことはたくさんあるのだけど、最初に言っておきたいのは、私の発言が、怒りがさらに増す様なことになってしまうのが怖いということ。でもそれこそが今の気持ちをまさに表現しているのだと思う。これ以上暴力に繋がるようなことはしたくない。私は解決策に繋がるようなことがしたい。私はジョージ・フロイドの死に憤慨している。それは、制度化された人種差別とそれをサポートする腐敗した制度によってこの国で何百年にもわたって黒人が殺されてきたことへの怒りに匹敵するものだ


そして、ブラック・コミュニティがどれだけプロテストしても、「彼らを守るべきリーダーが同情を寄せようとしない。つまりアメリカの人々は人種差別主義者だということ。それが事実だ」。だから、その他のコミュニティもブラック・コミュニティを支援すべきだと。さらに、現大統領に言及し、

トランプ大統領がそれに失敗していることは長年にわたり周知の事実だ。彼は世界でも最も力のある任務を預かっていながら、黒人の命が奪われているのに、無視と偏見しか提示していない。私達は、彼が愚か者であり、人種差別主義者だということはもう分かっている。彼は人種差別主義的であるシステムや人種差別者的行動を煽り、私達はその結果起きていることを目の当たりにしているわけだから。

変化の時がきた。

ブラック・コミュニティに愛を表さなくてはいけない。私は白人として特権のある女性としてそうすると誓う。私達、特権のあるコミュニティは、人種差別のためにまだ十分に闘っていない。それで殺されている人達のためにしっかりと立ち上がっていない

私は悲しいし怒っている。だけど効果的に、非暴力的に変化が訪れるように人とコミュニケーションが取れる言葉を選んで発していきたい


今回のムーブメントは、白人コミュニティが、自分達に与えられた特権を認めること、自分達が変化のために闘っていないということに、これまで以上に意識的だと思う。

ちなみにガガとアリアナ・グランデの“Rain On Me”はビルボードのシングルチャートで1位になっている。


2)リゾ
ミネアポリスにも住んでいたリゾは、黒人には「白人の人達に人種差別について教えなくていい。グーグルがあるんだから、本当に知りたかったから学べるはずだから」と言い、白人には「もし黙っているだけだったら、あなたも問題の一部である」と訴えている。さらに「プロテストは始まりでしかない。このバカげた状況に逆戻りしないためにも、次のステップをいかに踏めばいいのか考えなくてはいけない」と訴えている。


また、「音楽一時停止」の日には、選挙がいかに大事かも訴えていた。


3)リル・ナズ・X
今回の「音楽一時停止」が大きく広がりすぎてしまったことで、本来の目的が曖昧になったとリル・ナズ・Xは嘆いていた。「一時停止している場合じゃなくて、可能な限り突き進むべきだ」と。


4)エリカ・バドゥ
エリカ・バドゥはさらに痛烈で、「音楽産業が黒人の命を支援すると言うなら、レーベルやプラットホームは、ブラック・アーティストとの契約書や著作権料を改正するべきだし、役員会にもっと他の人種を迎えるべきだし、ブラック・アーティストと家族に、さかのぼって支払いをするべきだ。そのおかげで巨大企業が築けたわけだから」と言っている。


5)ザ・ウィークエンド
ザ・ウィークエンドはより現実的で、レーベルが実際にブラック・コミュニティのために何をしたのか明確にするために、寄付をしてそれを発表するべきだと言っている。


レーベルや役員に対して、「レーベルやストリーミングサービス以上にブラック・ミュージックから利益を得た人達はいない。僕は昨日寄付をした。あなた達にも今週中に大きな寄付をするように要請する。もしそれに参加してくれたら、僕とコミュニティにとってすごく大きな意味があるから」と。

ザ・ウィークエンドは、Black Lives Matterなどの団体に50万ドル(約5千万円)の寄付をしている。これを受けて、ワーナー・ミュージック・グループは、1億ドルの寄付をした。具体的にどの団体なのかは明かされていないが、暴力と人種差別に反対する音楽産業、社会正義に関わる団体だということ。

https://www.vulture.com/2020/06/~

6)ジェイ・Z
ジェイ・Zとロック・ネイションはこの日、NYタイムズなどの各都市のメジャー紙に一面広告を出した。ここでキング牧師が1965年にアラバマ州セルマで行なったスピーチを引用している。「我々は催涙ガスの中でも立ち上がる! 彼らがかき集めたもの何の中でも立ち上がる! 我々が自由になる決意をしたことを世界に知らせるために!」


エンタメ産業は、これまで困難があってもむしろそんな時だからこそ“The Show Must Go On”(ショーは続けなくてはいけない)という精神を示してきたが、今回の「一時停止」はこれまでと同じではいけない、という意識があることを象徴していると思う。
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