UA@日比谷野外大音楽堂

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UA@日比谷野外大音楽堂 - pics by 増子武志pics by 増子武志
「こんにちは。明るいね。今年も無事野音にて歌うことができます。ありがとう」

雨がまばらに降ったり止んだりする梅雨空の下、デビュー15周年を迎えたUAが今年も野音のステージに立った。いつもは9月の少し薄暗くなり始めた黄昏時、鈴虫の鳴き声に囲まれる中で行われているのだが、今年はデビュー15周年ということもあり、デビュー日である6月21日に近い日を選んだそう。空は今にも強く雨が降り出しそうな曇天とは言えども空はまだ明るい。

18:00を少し回り、手持ち太鼓を叩きながらステージに現れたのは、UAがお母さんと慕う奄美島唄唄者の朝崎郁恵。島唄特有の独特なビブラートがライブの始まりを告げる。引いては返す波音のように優しく耳に届く歌声。心がすっと撫で下ろされるような安心感に包み込まれた。2曲の奄美唄を披露し、UAへバトンタッチ。

バンドメンバーの内橋和久(ギター)、鈴木正人(ベース)、芳垣安洋(ドラム)、太田美帆(コーラス)、メグ(コーラス)塩谷博之(クラリネット)、青木タイセイ(トローンボーン)の7人がステージに現れ、セッティング。それに続いて、山吹色と紫色で斜めに切り替えられたワンピースに身を纏ったUAが登場。デビュー15周年企画として、今月23日にカバー・アルバム『KABA』をリリースしたばかりということもあり、ライブは薬師丸ひろ子のカバー“セーラー服と機関銃”で幕を開けた。独特のベースラインに導かれるように歌い始めるUA。これに続く、ピンクレディーの“モンスター”もそうだったが、今のUAが幼少時に魅了された70年代~80年代のなじみ深い歌謡曲を歌うことで、どんどん深遠な世界へと達する。それはUAが歌に興味を持ち始めたその原点を見ているようでもあった。そして、もちろん自身の歌も新旧バランスよく選曲。“そんな空には踊る馬”“TORO”では軽やかにステップを踏みながら力強く、開放的に、“Lightning”ではジャズ・ワルツのリズムに乗ってしなやかに舞うような歌声を届けてくれた。

「光陰矢のごとしとは言いますが、あっという間に15年も経ってしまい……朝崎さんは3歳の時から歌ってるから71年間も歌っているということで、(私は)まだまだですね……」と節目に立ってこの15年間を想う。そして、再びカバー・アルバムから披露。瑞々しい恋の歌、荒井由実の“きっと言える”、生粋の大阪人UAの関西弁が映える“買い物ブギ”、UAに多大な影響を与えたビョークの“Hyperballad”。まったく種類の異なる原曲が、UAの歌声ひとつで新たな形として生まれ変わる様は本当に驚かされるばかりだ。と同時、この幅の広い音楽体験が今のUAを作った要素でもあることを教えてくれる。

そして、再び朝崎郁恵をステージに呼び込んだ。UAが島唄の勉強を始めてから10年が経つそう。島唄を勉強することで「自分がこの時間の中で歌を発せられる喜びを感じられるようになりました」と語る。そして、朝崎は「UAの15周年記念のライブにたくさんのファンの方がおいでいただいて、その舞台に立たせていただいて大変光栄に思っています。これからもUAをどうぞよろしくお願いします」と娘を見守る母のように温かく送り出す。2人で歌ったのは“太陽ぬ落ちてぃまぐれ節”。メロディーというものとはまた違う、魂のこもった声が野音に共鳴する。「歌う」ではなく、まさに「発する」という動物的感覚で出された声がオーディエンスの心を揺さぶる。

15年の時が早く過ぎていくのと同じで、ライブも本当にあっという間に後半へと差しかかる。すっかり暗くなった野音に紫のライトがゆらゆらと揺れ、“閃光”が始まると、梅雨のじっとりした湿度高めの空気に涼やかな風が入り込み、レイドバックな心地良さが身体を包み込む。ラストは最新オリジナル・アルバム『ATTA』から“Familia”“TIDA”で締めくくられたのだが、バンドの演奏もUAの歌声もアーティストとして最大の表現力が発揮されたハイクオリティな音楽にもかかわらず、ちゃんと庶民にも手が届くようなみんなのものとして鳴っているのが素晴らしい。動物の鳴き声や赤ちゃんの泣き声、たとえば洗濯機が回る音とか、掃除機をかける音とか、そんな生活音みたいなものとして自然に溶け込んでいくようだった。

でも、本当に開放されていったのは、実はここからだったりする。1回目のアンコール。「デビュー曲を歌うわ! 歌謡曲みたいのもあるのよーー!!」とテンション高く、“HORIZON”をプレイ。再び、「お母さーん!!」と朝崎郁恵を呼び込んでの童謡“故郷”では、日本人として生まれてきたことのありがたみを心から感じられる素晴らしいメロディが心に染みる。そして、2回目のアンコール。「命をかけてリクエストー!!」とやってほしい曲のリクエストを会場から募る。あちこちからそれぞれのリクエスト曲を叫ぶ声が飛び交う中、UAが選んだのは“情熱”。セッション的に歌から始まり、リズムが重なり、ベース、ギターが一気になだれ込んでいった抜群のライブ感に、それまで座って聴いていたオーディエンスは堪らず立ち上がり、ステップを踏んで踊り出した。「みんな元気やなー、じゃあもう1曲!」といって、あちこちから沸き起こった曲名の中から2曲目は“太陽手に月は心の両手に”をセレクト。終わっても止まらないリクエストの嵐に「じゃあ、続きは2次会で」と冗談も飛び出した。

「息子が今年で13歳になるので、13年前の曲です。息子とともにこうしてUAをやってきました。もしかして、一番みんなに愛されている曲かもしれません。彼がおなかの中にいる時に書いた曲です」と最後の最後は“水色”をクラリネットとトローンボーンの音色に優しく折り重なるように歌い上げた。これまでの15年間の集大成というよりかは、歌うことの意味をしっかり噛みしめながら、今ファンが望むUAの歌をしっかり届けるという意味合いが強く出ていた今回のライブ。独自のスタイルを貫きとおしながら、こうして毎年野音のステージに立ち続けることができる類まれなる歌い手として今後もたくさんの人の心を揺さぶってくれるに違いない。最後にUAが突発的に「私が15年間こうしていられたのも彼女のおかげなんです。野音初公開。私のジャーマネ、大石ミッキー!」と15年間付れ添ったマネージャーを紹介し、ライブを締めくくったのも、UAにとってファンもスタッフも家族のように近い存在としてあるからなのだと思う。とにかく、素敵なライブだった。(阿部英理子)


1.セーラー服と機関銃
2.モンスター
3.そんな空には踊る馬
4.TORO
5.Lightning
6.きっと言える
7.買い物ブギ
8.Hyperballad
9.太陽ぬ落ちてぃまぐれ節
10.閃光
11.雲がちぎれる時
12.Familia
13.TIDA

アンコール1
1.HORIZON
2.わたしの赤ちゃん
3.ミルクティー
4.故郷

アンコール2
1.情熱
2.太陽手に月は心の両手に
3.水色
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