UKネオ・メタル&エモーショナル・ハードコアの雄、ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインの2年ぶりの来日公演に、スペシャル・ゲストとしてブリング・ミー・ザ・ホライズン、そしてサポート・アクトとしてキャンサー・バッツがエントリーしたこの日のショウ。同事務所に所属する重量級の3アクトが揃い踏むということもあって、オーディエンスも濃い面子が大集結している。黒バンドT着用率8割以上、しかも暴れる気満々の若者かつ女子率も高いというヘルシーな客層で、メイン・アクトが始まるまでバーエリアでまったり酒でも飲んでダベってますか……みたいなお客は限りなく少なく、初っ端のキャンサー・バッツからしっかり場内は埋め尽くされている。
パンク、ハードコア、そしてメタルと様々な側面をのぞかせつつも、究極ロックンロールのシンプルな快感原則で突っ走るキャンサー・バッツの段階で早くも場内はヘッド・バンギングの嵐(ビースティ・ボーイズ“サボタージュ”のカバーは鉄板)、終演間際にはアリーナの柵がオーディエンスの手によって速やかに取っ払われ、続くブリング・ミー・ザ・ホライズンでは2つの巨大なサークル・モッシュが出現した。その細身な身体に似合わぬオリヴァーのデス声と高速で撃ち込まれるどこかデジタルにすら感じるビートに煽られ、ズカドコバカスカとアリーナは揺れに揺れ、ダイバーがひっきりなしに飛び交う(オリヴァー自身も何度も客席ダイヴ)。BFMVのオン・ステージを前にして皆そんな汗だくになってて大丈夫か?と心配するも、なるほどBMTH終演後には速やかに物販でゲットしたBFMVのバンドTシャツに着替える輩が続出なのである。ちなみにBFMVのバンドTはユニオンジャックをピストルが囲むというデザイン。そう、彼らは数少ないUK産ネオ・メタルの星にして、アメリカでも成功を収めた数少ない新世代UKバンドの星なのである。その誇りをまさに体現したTシャツと言っていいだろう。
この日の開演から既に2時間近くが経過した時点で遂にBFMVが登場。のっけから最新作『フィーヴァー』収録の“Your Betrayal”、“Fever”が2連発で畳みかけるようにプレイされる。ステージ上のボーカルのマット、なんだか2年前と比べると異様に二の腕が太くなっている。そしてキューティクルさらさらな黒髪ロン毛は健在。つまり、相変わらずのカリスマっぷりである。このバンドの美点は正統派&王道のメタル・マナーに加えてUK特有(というかウェールズ特有か?)のエモーショナルでビッグな歌心を感じさせるメロディの美しさ、声質をぱっきり分けるツイン・ボーカルの快感、新世代ならではのフットワークの軽い曲調スイッチングの妙、ドラマティックな(それこそクイーンのような)展開とストーリーテリング……と数多いわけだが、それらを統合してさらに分かりやすくプレゼンする原動力となっているのが、このマットのカリスマではないかと思う。
前述のBFMVの美点がいくつも、何度も、途切れなく繰り出される圧巻のパフォーマンスだったと思う。オーディエンスのどんぴしゃなコール&レスポンスも決まった“Waking The Demon”、「美しいシンガロングを聞かせてくれ!」とマットが叫んでまさにその通りになった“All These Things I Hate”、イントロで手拍子とoiコールが巻き起こり、雪崩打つようにして怒涛のカタルシスを生んでいく“Tear’s Don’t Fall”と、オーディエンスもまた局面毎に最大最上級のスタンスで彼らを迎え撃つ。
私はこのバンドのツイン・ボーカルが理屈でなく体感として好きでたまらないのだが、「歌」と言うか「言葉」を大切にするマットの良い意味でどこか繊細な歌声と、ジェイ(B)の徹頭徹尾効果音的デス声に徹した歌声がクロスする時、それがBFMVの両輪となって彼らの物語性を一気に加速させていく感じがとにかく良いのだ。“Tear’s Don’t Fall”なんてその最良の例ではないだろうか。
“Bittersweet Memories”のようなバラッドでチルダウンの時間も挟みつつも、終盤に向けてどんどんヒートアップしていくステージ。途中からは2つのサークルモッシュが巨大なひとつの円に合体したり(「合体させろ」とステージ上からマットが指示)、前列がダイヴで大渋滞を起こしたりと場内はさらに凄まじい状態になっていく。最後の数曲は1階フロアの最後尾で観ていたのだが、後ろの後ろのほうまで皆汗だくで湿度90%超か!?という空気。最新アンセムの“The Last Fight”、そしてBFMVのクラシック・アンセムの“Scream Aim Fire”で迎えた本編最終コーナーでは最後の力を振り絞るかのような合唱をブチかますオーディエンスの前でツイン・ギターがこちらも最後の力の限りを叩きつけんばかりの爆発を見せる。
いやあ、凄かった。このバンドはやっぱり、ライブだ。地道なライブ・サーキットでのし上がって来たメタル・バンドの伝統と誇りと正しさみたいなものを感じさせてくれたライブだった。(粉川しの)
ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタイン @ 新木場 STUDIO COAST
2010.09.01