いやあ、面白い。「カッコいい」とか「ノれる」とか「アガる」とか「笑える」とか音楽の快楽の尺度はいろいろあるけど、それら全部の基準で軽々とK点越えのハイスコアを叩き出しつつ、「楽器って面白い!」「バンドって面白い!」「歌を作るのって面白い!」という原始的なーーそれでいていちばん大切な興奮を、ポップかつラジカルなキーボード・トリオ・スタイルのバンド・サウンドとしてぶち込んでくる……つい3ヵ月ほど前にもここ「最速ライブレポート」で下北沢THREEワンマン公演の模様をお伝えした、京都発のポップ飛び道具バンド=モーモールルギャバンだが、全国15公演の『ノグチ IN BLACK your 2010』初日にして渋谷club asiaワンマン2デイズの1日目となるこの日のアクトでも、彼らの無軌道で無限大な魅力が十二分に炸裂しまくっていた。
アルバム『クロなら結構です』でメジャーデビューを果たしたばかりの彼ら。「お前ら、噂に聞いたけど、ロッピーの前で待機してないとチケット取れなかったらしいな! こっちはスタジオで呑気にお茶しながら『そろそろ練習しなきゃね』とか言ってました! ごめん!」というゲイリー・ビッチェの言葉通り、キャパ350人ほどのclub asiaのフロアはぎっちぎちの超満員!
ツアー初日なので曲順掲載は割愛するが、音響シューゲイザー・ディスコとでも言うべき音像の中で「最低! 君の汗、臭すぎる!」と連呼する“スメルズライクスルメ”ではフロアを驚愕と脱力のマーブル模様で包んでみせたかと思えば、「好きだったユキちゃんは早々と結婚して女の子ができちゃったので今度は同じ遺伝子を持つ娘狙いで!」と歌うストーカー(?)ソング“ユキちゃんの遺伝子”でフロア激震!のダンス天国を生み出したり、オルガンのリフがカラフルに弾け回る“ユキちゃん”あり、かつてのドラマーを血祭りに上げる恒例のハードコア・ディスコ“野口、久津川で爆死”あり、もちろんフロア一丸の「パンティー!」のコール&レスポンスもあり……と、自分たちの音楽の中から持てる武器とおもちゃを、アンコールまで含めて約1時間半の中でありったけぶちまけたようなステージだった。あまりの熱気とリアクションに気を良くしたゲイリーが間違って「アイ・ラブ・シンジュク!」と言ってしまって、「京都から見たら渋谷と新宿は近すぎるんだよ! 違った! 京都じゃなくて群馬でした!」(バンドは京都で結成だがゲイリーとマルガリータは群馬出身)とフロアのブーイングに応えたりするのは、ほんのご愛嬌だ。
エレピにオルガンにピコピコノイズに「どっから聴いてもディストーション・ギターにしか聴こえない」音色に……と鍵盤3台を駆使して鳴らしまくるユコ・カティ(Key・Vo・銅鑼)。パワフルなラインから幻想的コード・プレイまで自在に鳴らしていくT-マルガリータ(B・Cho)。そして、超・手数王なドラミングを鮮やかに披露し、ヘッドセット・マイクで終始絶唱しつつ、汗だくで何度も何度もドラム・セットの上に立ち上がったりキモいダンスを披露したりして唯一無二のアジテーターっぷりを見せつけていたゲイリー・ビッチェ(Dr・Vo)。もっともっと高尚だったりシリアスだったりする音楽も表現できたはずの超絶テクの持ち主の3人が、「結成のきっかけになった曲です」と言って披露していたのは“パンティー泥棒の唄”だった。《お姉さん貴方に興味はないけれど 僕に貴方のパンティーを下さい でも黒なら結構です》……普段だったら誰もが赤面必至のフレーズや、口にするのもはばかられるキモ男の所業を、類稀なるテクニックと怒濤のエモーションでもって、とめどないエンタテインメントへと昇華してしまう。モーモールルギャバンが「一度観たら忘れられない、また観たくて仕方がない」というオーラを放っているのは、ひとえに3人の「音楽と歌の力で、見たこともない楽しい世界へ行きたい」という冒険心/探究心の賜物だろう。最後にはパンツ一丁でドラム・セットの上でくねくね踊り出すゲイリーを観ていると、そんなことをクソ真面目に考えている自分が馬鹿みたいに思えてくるが、でも観れば観るほど「また観たくて仕方ない」のだから、こればっかりはしょうがない。
このツアーに向けた体力作りのため、水泳と長距離ランニングを1日おきにやっていたというゲイリーだが、張り切りすぎたのか序盤から「2曲で汗だくだっちゅーの!」と逆ギレしていたり、いよいよ本編ラスト!というところで両手が攣ってしまい「グーパーができない!」とテンパって「大丈夫?」(観客)「大丈夫じゃねえよ!(笑)」(ゲイリー)という一幕もあったが、それすらこの底抜けにハイパーでジャンクでお下劣で楽しい空間では最高にスリリングな舞台装置として機能していた。まだまだ楽しいことになるに違いない、このバンドは。そして今日はclub asiaの2日目。果たしてゲイリーのグーパーの調子やいかに?(高橋智樹)
モーモールルギャバン@渋谷club asia
2010.09.17