te' @ 渋谷クラブクアトロ

te' @ 渋谷クラブクアトロ
te' @ 渋谷クラブクアトロ - 撮影=森久撮影=森久
ライブに求めるものは何か。それは「非日常性」だったり「興奮」だったり「感動」だったりと観る人によってさまざまで、ライブを届ける側であるバンドによっても、何を提示するかは大きく違ってくるものだ。観客との一体感を何よりも追求するバンドもいれば、観客ひとりひとりの心の中に蠢くどうしようもない孤独や憂いを炙り出すバンドもいるのは当然のことだけど、その多彩で複雑なエモーションの全てをひとつひとつの楽曲の中で、しかも一切の言葉がないインストゥルメンタル・ロックで表現しきっているのがte’だ。
今年6月にリリースされた4枚目のアルバム『敢えて、理解を望み縺れ尽く音声や文字の枠外での『約束』を。』のリリース・ツアー最終日。ギッチギチに埋め尽くされた渋谷クアトロでのアクトを目の当たりにして、それを確信せずにはいられなかった。

ほぼオンタイムで幕を開けたステージは、目前まで迫った嵐の到来を予感させるような“勝望美景を愛し、酒食音律の享楽を添え、画に写し『世』に喩え。”で静かにスタート。Tachibana(Dr)による繊細なスネアのリズムをベースに雄大な羽を広げたところで、“人々が個を偉人と称する時が来れば彼は既に『傀儡』へと変わる。”へと雪崩れ込む。1曲目とは一転して、観客に挑みかかるように激しくヘッドバンキングしながら爆音を叩きつけていくhiro(G)とmasa(B)。その後も“天涯万里、必然を起こすは人に在り、偶然を成すは『天』に在り。”や“性は危険と遊戯を、つまり異性を最も危険な『玩具』として欲す。”など、ニュー・アルバムからの攻撃的なナンバーがフロアを大きく揺らしていく。ノイズ・ギターとアルペジオ・ギターが交錯と正面衝突を繰り返しながら描いていく流線型の美しさに、全身をゾクゾクとした興奮が駆けめぐる。
約1年8ヶ月ぶりのリリースとなったこのアルバム、大きな特徴のひとつが、前作以上にシンプルでミニマルなサウンドのもとで溢れ出す感情がより剥き出しになっていることだ。音源を聴いただけでもその変化は伝わってきたけれど、ライブを観ると、その変化がメンバーの強い意志によって確信的にもたらされたものであることは歴然。あくまでもストイックなパフォーマンスを貫くことで、観客の心をダイレクトに突き動かし、より密度の濃いコミュニケーションを取ろうとしている気概がはっきりと伝わってきた。

しかし、masaが観客に背を向けながら行うMCはあくまでも脱力系。今回のアルバムを機に徳間ジャパンコミュニケーションズよりメジャー・デビューを果たしたことでレーベルメイトとなったPerfumeの“ポリリズム”を口ずさんでみたり、観客に促されて『となりのトトロ』の主題歌“さんぽ”を歌ってみたりと、終始フレンドリーな掛け合いが展開されていく。また、全13公演を巡った全国ツアーのファイナルということで、「このライブのために遠いところから来た人いる?」と観客に問いかけたmasa。「岡山!」という声に続いて「アメリカ!」という声が上がり、フロアが大きくどよめいた一幕も印象的だった。

カオティックな爆音とともにte’の音楽世界の中核を担う音である、アルペジオ・ギターの艶やかな響きが会場を魅了したのが中盤のセクション。アンビエントなフレーズが淡々とループする“闇に残る遅咲きは、艶やかな初花より愛らしく『夢』と共になり。”や、深い森に迷い込んだようなメランコリックなメロディが浮遊する“思想とは我々の選ぶものを見せず、我々の好むものを『見』せる。”など、te’のディープサイドを感じさせるような楽曲が次々とプレイされていく。ライブ序盤のような熱狂はないものの、どの曲にも共通しているのは、ミクロレベルから宇宙レベルまでを表現しつくすようなレンジの広さ。心の機微を繊細に描き出すような序盤から、湧き上がるエネルギーをまばゆい光に昇華させたサビへと雪崩れ込むドラマティックな展開が、身体の奥底から静かな興奮を呼び起こしていく。もはやインストであることをすっかり忘れさせてくれるような、歌声以上の雄弁さをもって聴く者の胸に迫る豊潤な音楽が、そこにはあった。

パーカッションをドシャメシャに叩くhiroのパフォーマンスが冴え渡る“秤を伴わない剣は暴走を、剣を伴わない秤は『無力』を意味する。”、「東京クアトロドーム、かかってこーい!」という大御所バンドばりのmasaのシャウトで再びフロアに熱狂の嵐を呼び戻した後は、クライマックスへ向けて待った無しのラストスパート! いつもはステージ後方でクールにバンドを支えているkono(G)もステージ前方へ乗り出し、笑顔で観客をアジテートする。フロアでは、ハンドクラップ、オイコール、果ては数名の観客によるダイブが堰を切ったように勃発!! スラッシュ・ハードコア・ナンバー“参弐零参壱壱壱弐伍壱九参壱伍九伍弐壱七伍伍伍四壱四壱六四”でフロアを完全掌握した後は、「インストのライブですが最後に皆で大合唱して終わりましょう!」というmasaの言葉に続いて「ラーララー」というシンガロングが会場を包み込んだ“自由と孤立と己とに充ちた時代に生きた犠牲として訪れる『未来』”をエモーショナルに響かせて怒涛の本編ラストを迎えた。

アンコールでは、ダブルアンコールにも応じてたっぷり6曲を披露。“他に寄せる信頼の大部分は、己の内に抱く自信から「生」まれる。”に始まり、ラスト“死闘、勇鋭、死憤、励鈍、倖用、待命、陥陳、勇力、必死、冒刃。”に至るまで、ハード・エッジなサウンドをこれでもかと叩きつけてステージを去った。まさに心の中に大きな爪痕が残されたような、強烈なラストだった。
体中にうごめくエネルギーというエネルギーの全て、エモーションというエモーションの全てを抽出し、それを精緻なサウンドに100%昇華させて解き放ち続けるte’。 インストゥルメンタルであるにもかかわらず、いや、インストゥルメンタルであるからこそ、今後も化け物のように巨大化していくであろう可能性を秘めたそのサウンドが、ロック・シーンのど真ん中で高らかな轟音を響かせる日も近いかもしれない。(齋藤美穂)
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