サポート・ドラマーの福田洋子とともにステージに姿を現した川島と中野。長めのイントロから放たれたオープニング・ナンバーは、最新アルバムの冒頭を飾るシングル曲“BACK ON MY FEET”だ。いきなり福田の凄まじいブラスト・ビートが耳を貫く。音に同期する美しい映像や照明が視界を満たし、川島の甲高い歌声が抜けていった。中野もベースを弾きつつ早くもステージ前方に躍り出てくる。続く“MORNING AFTER”でも、長い4つ打ちのキックを打ち鳴らしながら抑揚のあるプレイで物語性に満ちたドラムを聴かせる福田が、強い存在感を放っている。“Moment I Count”のような同期シークェンスからスタートする楽曲では入りでモタったりもしてしまうのだが、今の即効性より物語性で聴かせるブンブンのパフォーマンスには、彼女のよりロック色が強く人力のヴァイブに溢れたドラム・プレイは映える場面が多い。
2010年のブンブンが見せてくれたものとは、ロックにおける「物語の復権」である。リマスターとミックス、そして練り込まれた曲順に多くの時間を割いて生み出されたベスト盤にしても、即効性の高いキャッチーなロック・ソング文体を離れて生み出されたドラマティックで深遠な『TO THE LOVELESS』の世界観にしても、そこで表現されていたのは極めて説明的で、誰一人置き去りにせずに抱きかかえて連れてゆくという、物語の力と大きな包容力がもたらすロック・ミュージックなのであった。
それがライブにおいても、とりわけ『TO THE LOVELESS』の楽曲群が固め撃ちされた中盤で明らかになっていた。パンキッシュなエネルギーが弾ける“DRAIN”、川島のラップ・ボーカルが映えるエレクトロ・ファンク“UNDERTAKER”、不穏なサウンドとパーカッションに彩られた“TO THE LOVELESS”と、様々な感情が溢れ出してそれが“STAY”という一点の曇りもない潔癖な祈りに集約されてゆく。2010年の彼らのライブにおけるこのハイライトは、ひたすら唯一無二のバンドであろうとしたかつてのブンブンとも、キャッチーな歌モノのダンス・ロックで「ついて来れる者はついて来い」とファン層を拡大しながらひた走ってきた『FULL OF ELEVATING PLEASURES』以降のブンブンとも、違っている。表現のエッジを損なうことなく、音楽の物語性によってコミュニケーションを成立させようとするのである。
今回の巨大な会場では、もうひとつの大きなギミックが仕掛けられていた。ステージが可動式になっていて、観客エリアに向かってせり出してくるのだ。前線のオーディエンスは、ちょうどステージを取り囲むようにして、ブンブンを見つめることになる。かつての彼らがこんなにも近しい、オープンな愛情をステージ上で描き出したことがあっただろうか。“STAY”を披露し終えると川島は、ライブ本編終了までの間に唯一、たった一言のMC「ありがとう」を、そこに残したのであった。
そしてライブ終盤では、過去の名曲群が一挙に繰り出されることになる。後に記載するセット・リストを観て頂ければ分かるとおり、2時間強のパフォーマンスにおける演奏曲数は、それほど多くはない。つまり、抑揚と物語性がたっぷり盛り込まれたアレンジで、楽曲群がロング・プレイされているわけだ。ベスト盤がそうだったように、2010年モードのブンブンは、物語によって過去の作品をも改めて問い直すものでもある。アルバム単位ではない、活動テーマとしての『TO THE LOVELESS』モードと言えば良いだろうか。中野の緻密なプログラミングも、福田の情感豊かなドラム・プレイも、そのために機能している。そして川島の歌。今の彼からは想像も及ばないが、そもそもブンブンは歌に重きを置くグループではなかった。物語によるコミュニケーションを追求した結果、彼はこれほどの求心力を発揮する歌に「辿り着いた」のである。
必殺ナンバーをこれでもかと畳み掛け、最後にプレイされたのは“Kick It Out”。フロアもスタンドも揉みくちゃである。アウトロが鳴り止んだ瞬間。一斉に掌がかざされる観客エリアに、照明があてられた。美しい光景だ。この巨大な会場で、こういう光景を生み出すことが出来てしまうというところが、キャリアを総括しながら新しい表現スタイルをものにした今のブンブンの実力であり、またそれを支えてきたファンの力そのものと言えるのではないだろうか。
「4ヶ月、やっとここに辿り着きました。今回のツアーは学ぶことがすごく多くて、また次のアルバムに繋げたいと思いますので、それまでは『TO THE LOVELESS』を聴いて待っていてください。今日は本当にありがとうございました」。結論というよりほとんど経過報告といった印象の、アンコールにおける川島の言葉である。でもそれで充分だった。余りにも多くの感情と、それを伝えるための雄弁な物語が、パフォーマンスの中に盛り込まれていたからだ。川島と中野が揃って、ステージを取り囲むあちらこちらのオーディエンスに礼をしてゆく姿も、実に印象深い。
さあ、この10月には全11公演のUSAツアーが控えている。この素晴らしいパフォーマンスが、海の向こうの人々にも届けられるのは喜ばしい限りだ。どうか気をつけて行ってきて欲しい。(小池宏和)
セット・リスト
1.BACK ON MY FEET
2.MORNING AFTER
3.Moment I Count
4.DRAIN
5.UNDERTAKER
6.TO THE LOVELESS
7.STAY
8.FOGBOUND
9.Rise and Fall
10.EASY ACTION
11.Kick It Out
EN 1-1.LOCK ME OUT
EN 1-2.Dive For You
EN 1-3.DIG THE NEW BREED
EN 2.DRESS LIKE AN ENGEL