アーティスト

    テレヴィジョン・パーソナリティーズ/ロータス・イーターズ @下北沢GARDEN

    ポスト・パンク~UKニュー・ウェイヴの時代から今日までを生き抜く伝説的バンド、テレヴィジョン・パーソナリティーズとロータス・イーターズがまさかのジョイント・ツアーを敢行。今回の企画はそもそも、ザ・モノクローム・セットとロータス・イーターズとの帯同ツアーとなる予定だったのだが、7月にモノクローム・セットのボーカリストであるビドが急病で倒れ入院。急遽、モノクローム・セットとともに初期ラフ・トレードから作品をリリースしていたこともあるテレヴィジョン・パーソナリティーズに白羽の矢が立った、という経緯がある。まずはビドの順調な回復を願いたい。さて、今回レポートをお届けするのは、ツアー初日の下北沢GARDEN公演。以下は多少のネタバレを含むレポートになるので、今後の26日の東京・高田馬場公演、及び27日の大阪公演に出掛ける予定の方は、どうぞご注意下さい。

    ステージにはまず、東京のギター・ポップ・4ピース、sloppy joeが登場。爽やかで心地よい、80’sギター・ポップ直系のサウンドと歌がフロアを満たしていた。ライブ・バンドとしての実力もかなりのもので、カラフルなフレーズとそれを支える強靭なグルーヴによってオーディエンスを沸かせていた。最高のオープニング・アクトだ。この後の彼らは当然、ロータス・イーターズとテレヴィジョン・パーソナリティーズのステージを、フロアから熱心に見入っていたのであった。

    さあ、いよいよロータス・イーターズの登場だ。80年代にはメランコリックなメロディとシンセ・サウンドでニュー・ロマンティックス路線の好盤『青春のアルバム』を残した彼らだが、今回のステージはその「歌」の核に迫るようなメンバー3名によるアコースティック・セットである。ボーカリストのピーターもギタリストのジェムも、見目麗しい当時の面影は無惨にも消えてすっかりおじさんなのだが、そのパフォーマンスはググッと一気に注意を引きつけるものだった。ピーターの透明感のある伸びやかな歌、そしてジェムのテクニカルで情感豊かなギター。ピーターがとにかく楽しそうに、オーディエンス一人一人に語りかけるようにして歌う姿もいい。序盤から“ジャーマン・ガール”“イット・ハーツ”と80年代当時のシングル曲を連発する。「日本語を話すのは難しいんだ。ごめんね。次はサード・シングルの“セット・ミー・アパート”だよ」と、シンプル極まりないパフォーマンスの中から音楽のコミュニケーション機能を存分に引き出して、言葉の壁を乗り越えてゆくのだ。

    熱を帯びながらも静謐な演奏の中に、ステージ袖から子供の泣き声が聴こえてくると、ジェムとともにギターを担当していたスティーヴンが「うちの子が泣いてるのかな? ごめんね。あの泣き声は世界中の、戦争や紛争で亡くなってしまった人に捧げられているんだ」などと気の利いたことを言っている。スパニッシュ風の異国情緒溢れるジェムのカッティングではオーディエンスがうねり、ハンド・クラップを誘いながらの眩いメロディ“アウト・オン・ユア・オウン”の後には名曲“ザ・ファースト・ピクチャー・オブ・ユー”の歌をフロアに預けてしまった。見事なステージだ。ポスト・パンク世代のアーティストが見せるこの現役感、当時のスタイルには捕われず、常に新しいスタイルを求め続けてキャリアを磨く姿には本当に頭が下がる。懐メロだけれども懐古趣味には陥らない、今のロータス・イーターズの歌があった。なお、彼らは今回のツアーに、出来上がったばかりの新作を持ってきてくれている。

    そして遂に、テレヴィジョン・パーソナリティーズがステージに立った。先にメンバーの3人がポジションにつき、オーディエンスの喝采の中で迎え入れられるのはニット帽を被ったダン・トレイシーだ。若い読者には、MGMTの歌に登場する人と紹介すれば良いだろうか。ほとんどホームレスのような風体(失礼)だが、眼光は鋭い。ダークでサイケな音像をそのギターから繰り出し、嗄れた声で歌い出す。バンドの演奏も非常にソリッドであり、パンキッシュなロック・ナンバーの数々はとてもエネルギッシュなものになっていた。今年リリースされた新作の楽曲も絡めながら、“シリー・ガール”や《俺はジョン・レノンが死んだ日を覚えてる/気付いたら一週間も泣いていたんだ》と歌われる“オール・マイ・ドリームス・アー・デッド”などをプレイしてゆく。この詩情と吐き捨てるようなヘナヘナの歌こそが、ダン・トレイシーなのだ。

    しかし、“アイ・ノウ・ホエア・シド・バレット・リヴス”の最後に、ダンが「みんな騒いでくれ、何か音を立ててくれ」とオーディエンスに告げたのだが反応が今ひとつだった(あの《シャラップ!》をやりたかったのだろうか)のをはじめとして、言葉の壁には戸惑っているようだった。あと、ダンは結構酔っている様子で、ジョークなども含めて何を言っているのか分からない場面もしばしばあった。今回のステージは、次第に様々なすれ違いを孕んでしまうライブになっていった。ファンはTVPの、初期シングルやラフトレからのデビュー・アルバムを始めとする曲群を望んでいるのだが(正直、僕もそうだった)、この世代のアーティストは強い現役感を帯びたアティテュードを抱えていたりもする。フロアから「“パートタイム・パンクス”をやってくれ」と声が飛んでも、「ノー!」と頑に拒否するぐらいである。甘美なサイケ・ポップやエモーショナルなパンク・ナンバーと、今度は楽曲に没入しようとするのだが、他のメンバーとうまく呼吸が合わなかったりすると露骨に苛立ちを露にする。残念ながら、諸々のストレスがダンを追いつめてしまったようだった。

    遂にはフロアに背を向けてギターを演奏してしまうダンであり、バンドの演奏も序盤とは打って変わって集中力を欠いたものになってしまったのだが、このままではマズイと一念発起したのか、ラスト・ナンバーの“シーズ・マイ・ヨーコ”では、ダンはハンド・マイクでオーディエンスに向き合い、右手のカメラでオーディエンスの姿を収めながら歌っていた。最後には「アリガトウ」と笑みも零れる。ピースフルなステージなど最初から期待していなかったが、まさに一触即発のタフなライブだった。それでもTVTは、実に25曲もの楽曲を披露したのだが。残りの公演は一体どうなるだろう。個人的には、26日の公演をもう一度観ようかと、真剣に考えている。(小池宏和)
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