スコット・マーフィー @ 原宿アストロホール

おそらくこのサイトの読者の中には、このところの『めざましテレビ』や『HEY! HEY! HEY!』などを観ていて思わずコーヒー吹きそうになった方も少なくないと思う。“乾杯”や“ドラえもんのうた”といった日本の定番曲のパンク・バージョンを歌い上げているスコット・マーフィー……シカゴ発のエモ/パンクの雄=ALLiSTER活動休止後、新バンド=THE GET GOを結成して5月には来日も果たしていたあのスコットの姿に。

もちろん伏線はあった。それこそ2007年、ALLiSTERがELLEGARDEN幕張メッセ公演のフロント・アクトで登場した際にも、スコットは“ドラえもんのうた”やスピッツの“チェリー”を3万人の前で嬉々として歌っていたし、1年半前にALLiSTER名義で日本語カバー・アルバム『Guilty Pleasures』を出すだけでは足りず、先頃ソロ名義でリリースしたばかりの続編『Guilty Pleasures II』でも浜崎あゆみから平原綾香まで幅広く日本の楽曲をパンク・アレンジして聴かせてもいた。とはいえ、ここまで連日メディアにフィーチャーされたり、元メガデスのマーティ・フリードマンと同様にお茶の間的に美味しい存在になるとは、当のスコット本人も思っていなかったに違いない。

というわけで、前日の大阪公演に続き、ここ原宿アストロホールで行なわれた東京公演。オープニング・アクト=大阪発ジャパニーズ・パンク精鋭部隊:GOOD 4 NOTHINGの時から、アストロホールはアルバム・タイトル通りの「密かな愉しみ」を楽しもうとする異様なテンションで満たされている。それにしても、アメリカからJ-POPにラブコールを送ってほぼ全編日本語で歌っているアメリカ人=スコットのフロント・アクトを、全曲英語で歌う日本のバンド=G4Nが務めているのも、なんだか面白い。

そして……20時を少し過ぎた頃、スコット・マーフィー・スペシャル・バンド(自称「ザ・スコッツ」が登場! ギター=GONGON(from B-DASH)、ベース=フミ(from POLYSICS)、ドラム=高橋宏貴(from ELLEGARDEN)といった強者をバックに登場したスコット、「盛り上がっていこうぜ!」と日本語で威勢よくぶち上げると、いきなり“ドラえもんのうた”でフロア中が大ジャンプ大会に! 続く“Jupiter”を終えたところで「元気そうだな!」と、フロアを見回した早くもスコットは満足そうだ。

「フミはこのツアーで初めて(POLYSICSの)コスチュームなしで恥ずかしいって」とか「スコット・マーフィー・スペシャル・バンド、今日が解散ライブです……いや、活動休止かな」といった妙に気の利いた日本語MCでひとしきりウケをとったり、フロアからの「日本語うまいよー!」の声にGONGONが「英語もうまいよ!」と返したり、とてもこの東京・大阪公演だけのためのバンドとは思えない一体感。そして何より、4人の爆音ゴリゴリのアンサンブルの爽快さ! いくら名手を集めたバンドとはいえ、単に爆音だったりBPM上げたりするだけのアレンジでは、こうはいかない(スコットは「サバで食中毒になって、2日しかないリハが丸1日できなかった」と言っていたが)。そして、「先月書いた曲です」といって披露した自身の新曲“Falling Apart”でも日本語曲に負けない盛り上がりを見せていたことからも、スコットの愛されっぷりがよくわかる。

「2日前に『あ、これできる』と思った。みんなも歌えると思うよ」と“六本木〜GIROPPON〜”の「ぽーぽぽぽぽぽ」で爆笑を誘ったり、「4人の誰がいちばん絵が下手か」と4人でピカチュウの絵を描いてみせたり(ちなみに敗者は高橋。罰ゲームで日本酒イッキしてた)、ALLiSTER時代の曲“Couflage”にオーディエンスがこぞって熱い拳を突き上げたり……と剛軟自在の展開を見せた1時間。「……ほんとに解散しちゃうよー!」という自分たちの心残りを吹き飛ばすような“乾杯”で本編終了。アンコールでは“チェリー”をありったけの力と笑っちゃうくらいの轟音で鳴らしてみせた。

「またやりたいね」とスコットも言っていたし、この日のライブの完成度を目の当たりにするにつけ、『III』もあながち絵空事ではないと思う。何より、彼が日本のシーンに溢れているメロディにまったく別種の輝きを与えて、もう1回僕らの前に提示してくれる貴重な存在であることは間違いない。(高橋智樹)

1.ドラえもんのうた
2.Jupiter
3.さくら
4.涙そうそう
5.Falling Apart
6.Hanging by a Thread
7.六本木“GIROPPON”
8.Swallowtail Butterfly
9.島唄
10.I Will Always Love You
11.Couflage
12.乾杯

アンコール
13.チェリー
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