さて、いよいよGIGのオープニング。いつの間にか行われていたという対バン・コンテスト『One Night Western Carnival』によってヤンク・ロック・バンドたちの激戦を勝ち抜いたグランプリ、黒船のペリーズが登場。というか明らかに輝矢(微熱DANJI)にしか見えないメンバーがいるのだが、ユニークなヘア・スタイル&ゴージャスな軍服姿のペリーさんによる《開国せよ!》というアジテーションで煽り立てる。まあ、確かに本来の意味でヤンキーではあるけれども。対バンというか1曲のみ演奏のオープニング・アクト的な役回りではあったが、ソリッドなハード・ロックとコール&レスポンスでしっかり場内を温めてくれた。
そして遂に氣志團が登場。約4時間にも及んだ今回のステージで、まずは“黒い太陽”から「花嫁どこだー!」「マブダチどこだー!」と翔やんが吠える“ゴッド・スピード・ユー!”、そして光が銅鑼を打ち鳴らす“キラ キラ!”と、初っ端から歴代のライブ必殺ロック・ナンバーを繰り出していった。熱を帯びたパンキッシュな音もさることながら、この規模の会場で振り付けが広がってゆくさまがやはり凄い。演奏が余りにタイトにスタイリッシュに決まり過ぎていて、氣志團のGIGとしてはむしろ観ていて調子が狂ってしまうほどだ。
で、ここで翔やんのMCタイム。「オーライ! オムラーイス! オムローン! 大村こーん!」と、恒例の無駄に長いコール&レスポンスによって、せっかく引き締まっていたムードを一発で台無しにしてくれる。「あけましておめでとう♪ 4年ぶりのホール・ツアー、帰ってきたぜー! もうどこにも行かねえからよ! まだちょっとギクシャクしてるけど大丈夫、俺たちが引っ張ってってやるから!」と、新年のおめでたさの中に放り込む“スウィンギン・ニッポン”、お馴染み光とのフレンチ・キスで盛り上げるグルーヴィな“恋人”、そしてステージの高台で光がドラムを打ち鳴らし、トミーの美しくサイケデリックなギター・フレーズが映える“You & Me Song”と楽曲を繰り出していった。やはり今日のGIGは、演奏自体はすこぶる力強くて良い。
ここで、活動休止後のメンバーそれぞれの足取りを映像で振り返りながら、個々の活動を一曲ずつパフォーマンスしてゆくというコーナーに突入。豪邸を手放し、妻子とも別れることになったトミー改めTOMMY BOLAN、バンド内の確執を暴露本にしたため(本人は暴露本じゃない、と言い張る)ながらバイトに勤しむマツと、新宿2丁目のオカマバーで働くユッキの白鳥兄弟によるS-BLOOD、ドーム公演欠席の後悔の中に生きるランマ改め星島蘭馬、そしてDJ PANCHOとして活躍する光はMDMA不法所持で逮捕(後に不起訴処分)。笑い泣きの、中途半端にリアルで中途半端にパクリなドラマの中で、彼らは氣志團の大切さに気づき、オフィス男闘呼塾に集まる。翔やんは活動再開の資金繰りのため、DJ OZMAに頭を下げる(!)のだった。
そしてここで舞台の時間は一気に現在へと戻される。前半、学ランとナチス・ドイツ軍服の折衷のようだった衣装は、メンバー・カラーをあしらったそれぞれ一色の鮮やかな上着に代わり、『木更津グラフィティ』のナンバーがようやく放たれる。これはドラマティックだ。“Rock’n’Roll Graffiti”、“Baby Baby Baby”、“木更津サリー”と、ロックへの、氣志團への果てしない飢えを感じる熱いパフォーマンスが畳み掛けられる。この後半戦になってとりわけ素晴らしかったのは、何よりも翔やんの熱唱ぶりであった。
「5年、って結構じゃん? お父さんが蒸発しちゃっても、5年経てば家族も気持ちの整理がつくぐらいのさ。……他のメンバーは違うかも知れないけど、おれは、もともとなんでも良かったんだよね。ただ、ダメだって言われなかったのが唯一、バンドだったってだけで。みんなが喜ぶようなことをするのが好きな子供だったの。サッカーでおれがシュート決めると、みんなが喜んでくれるからそれが快感、みたいなさ。正直、歌が好きとか、歌が大切だとか思ったこと、なくて。去年、初めて思ったんだ。歌うの楽しいなー、って、ライブやってて。それが昨日、突然声が出なくなって。もうパニックになりながら、いま口座に幾ら残ってんのかな? 交通費まで返したい!とか思ったり、どこかに拳銃とかないかな、もう死にてえな、とか思ったり。昨日来てた人には本当に申し訳なかったです。で、今日はどんな魔法を使ったんだ?って思われるかも知れないけど、お医者さんに行ってきました。声帯出血だって。年末から風邪をひいてて、気合だ!っつって歌ってたんだけど、そりゃあこうなるよ、って。で、昨日は《2日目♪》 今日は《6日目♪》 もう出来る! タオル敷けば(笑) 歌うぞー!」
なんともはや。そんな事態になっていたとは。ステージは眩いまでの『木更津グラフィティ』最終トラック、“オレたち”が披露されている。光のトランペットと翔やんの歌声が力強く交錯するこの壮大なバラードは、まるで氣志團にとっての“トゥモロー・ネヴァー・ノウズ”だ。そして今回のライブは“愛してナイト!”から“One Night Carnival”という怒濤のディスコ・ロック・チューン連打から“鉄のハート”へと連なり、素晴らしいクライマックスを迎えていったのだった。
翔やんは、余りにも長くなってしまうMCを後半、ずっと後悔していた。前日の喉のトラブルについても、「昨日はごめんな! で済ませればいいのは分かってるんだけど」とまた余計に弁解していた。でも、今回ばかりは、そのグダグダウジウジとした翔やんのMCが良かったのだ。まるで繰り返しx軸とy軸から座標を求めてグラフを描いてゆくような面倒臭い、極めて説明的なMCは、今回は特にトラブルを踏まえたものだったとは言え、翔やんの特性と人間味が改めてだだ漏れになったもので、とても感動的であった。「昨日のお客さんに作った借りは、一生掛けても返す!」という宣言に辿り着くまでの一日の葛藤すべてが、今回のステージ本編のドラマを形作っていたのだった。アンコールは、またゲストのパフォーマンスに始まって「年の初めの姫始め~♪」まで冗長なものになってしまったけれど、新年早々にたっぷりと味わう、氣志團のステージであった。(小池宏和)