エレファントカシマシ@日本武道館

エレファントカシマシ@日本武道館
エレファントカシマシ@日本武道館
エレファントカシマシ@日本武道館
エレファントカシマシ@日本武道館
ドビュッシー“月の光”を奏でるストリングス・サウンドと、キーボード:蔦谷好位置の奏でるベートーヴェン“月光”の悲壮なピアノ・アルペジオが描き出す、緊迫の音のモワレ模様。そんな音世界の余韻を切り裂くように走り出すビートは“奴隷天国”! しかも、曲が始まるやいなや後方の幕が大きく開き、金原千恵子ストリングス14名が登場、メンバー4人+レギュラー・サポートの2人(蔦谷好位置&ヒラマミキオ)と一体になってあのリフをユニゾンで壮麗に弾きまくる!……という開幕の場面だけでも最高だったが、前回の武道館公演『桜の花、舞い上がる武道館』から約1年9ヵ月ぶり、新春武道館としては実に10年ぶりとなるエレファントカシマシのワンマン・ライブ『エレファントカシマシ 日本武道館 新春公演』はまさに、結成30周年の壮絶な歩みと「今」の凄みを1つのセットリストの中に極限圧縮して炸裂させたようなーー同時に、いわゆる「30年のキャリアの集大成」という平和なニュアンスとは明らかに異なるーーエレカシ唯一無二の迫力に満ちたロック・アクトだった。

「たくさん曲用意してきました!」という宮本の言葉通り、2度のアンコールまで含めて約3時間・全30曲に及んだこの日のアクト。“脱コミュニケーション”“moonlight magic”“旅”“九月の雨”など、リリースしたばかりの最新アルバム『悪魔のささやき~そして、心に火を灯す旅~』12曲を本編23曲の中にすべて盛り込み、“今はここが真ん中さ!”やユーミンの“翳りゆく部屋”カバーなど、現在まで続くユニバーサル在籍期からの選曲を中心とした内容だけでも、宮本のメロディメイカーとしての深化ぶり&ロック・シンガーとしての磨き上げられぶりが十二分に窺える内容だった。「お正月はどうですかエヴリバディ!」と叫び上げ「今は武道館がど真ん中!」と歌詞をアレンジしては武道館満員のオーディエンスの熱気をさらにぐいぐい上げまくっていたし、ストリングス・チーム抜きで歌い上げた“幸せよ、この指にとまれ”や“ハナウタ~遠い昔からの物語~”で見せた力強く晴れやかなロック・オーケストラ感も、蔦谷&ミッキーを擁したチーム・エレカシのタイトな充実感をこの上なくダイナミックに証明していた。

が、「みんなもそうだと思うけど、俺も楽しみにしてきました! 最高ですエヴリバディ!…………なんちゃって」と会場の笑いを誘いつつ、目をひん剥きながら絶唱し始めた中盤の“珍奇男”を聴いた時、身体が震えた。エレカシが、宮本が、一貫して自らを「少しでも気の抜けたことをやったら自分を蔑んでもらって構わない」というポジションに置き続けてきたこと、そしてその「ロック・アーティストという名の珍奇男」としての覚悟がバンド結成から30年にわたって微塵も揺らいでいないどころかさらに研ぎ澄まされていることが、喉も裂けよとばかりの咆哮からびりびりと伝わってきたからだ。常に自分の楽曲に全存在を懸け、全身全霊を傾けて歌い演奏し、圧倒的なエモーションとエネルギーをロック・アクトとして具現化することによってのみ、己はここに立ち得ている……そんな凄絶な姿勢を、特殊なこととしてではなく、宮本はじめエレカシの4人は「日常」として血肉化してしまっている、ということだ。

「高緑成治! 今日に備えておニューのベース!」「頼れるアニキ、冨永義之!」「石くん! いつも一緒。合宿ではお風呂も一緒に入りました(笑)」と軽やかにメンバー紹介したり、石くんこと石森敏行に耳打ちして「ライブハウス武道館へようこそ!」と言わせて怒濤の苦笑失笑を巻き起こしてみたり、この日の宮本は至ってアグレッシブで、快活と言ってもいいくらいのポジティビティに満ちていた。そんな前向きなモードと、バンドの最高のコンディションと、触れた途端に感電必至なくらいに奮い立つ宮本のバイタリティが一体となったところに、金原千恵子ストリングスの響きがさらに彩りを加えて、“ネヴァーエンディングストーリー”“シャララ”“明日への記憶”“笑顔の未来へ”“いつか見た夢を”連射で武道館を七色に燃え上がらせる! さらに続けて「じゃあ、みんな盛り上がって生きてこうぜ! 舞い上がって……」という言葉とともに、ストリングスの旋律をまとって華麗に咲き誇った“桜の花、舞い上がる道を”は、もはやロック・バンドとかストリングス・チームとかいうフォーマットすら越え、1つの生命を持った音楽として圧倒的なヴァイブを放っていた。

“桜の花~”で持てるエネルギーを出し尽くし、堂々のフィナーレ&暗転……かと思いきや、この日のエレカシはここからがすごい! 『悪魔のささやき~』の終盤を飾るインタールード“朝”とともにステージ左右のヴィジョンには不穏な日食の映像が。そしてそのまま“悪魔メフィスト”の超ハードコア・サウンドに突入、もはや声というよりは雷鳴とか地鳴りとかいったスケールの轟音としか思えない鮮烈なスクリームが武道館を震撼させる(宮本の言うところの「ちゃぶ台を引っくり返す」)! さらに、再びストリングス14人を迎えてのアンコールの“平成理想主義”では平和ボケの日本丸ごと揺さぶる勢いで「行け! お正月行け! 2011年行け!」と絶叫し、《どの道俺は道半ばに命燃やし尽くす その日まで咲きつづける 花となれ。》と“シグナル”でさらなる闘争への決意を畳み掛け、“四月の風”“俺たちの明日”で大団円!……的な空気を醸し出しつつ、“ガストロンジャー”で再び闘争モードに満場のオーディエンスを引きずり戻し、“ファイティングマン”をエネルギー全部絞り尽くす勢いでドロップ! 「全員ファイティングマン!」という祝砲のような宮本の絶叫を残し、4人+2人が再びステージを後にした。それでもまだ終わらない。もう一度ステージに姿を見せた6人が披露した真のラスト・ナンバーは“待つ男”! 最後の力で放った《そら ちょっと見りゃ 富士に太陽ちゃんとある》の気迫の咆哮が、そして「また会おう! いい1年がやってくるぜエヴリバディ!」という宮本の言葉が、始まったばかりの2011年への最大の福音として武道館中に降り注いだ。ロックにしか描けない、ロック以外の何物でもない風景が、2011年1月9日、間違いなくそこにはあった。4月から6月にかけて全国25都市27公演をサーキットするライブハウス・ツアー『エレファントカシマシCONCERT TOUR 2011 悪魔のささやき~そして、心に火を灯す旅~』もいよいよ発表。エレカシの、ロックの「今」は、まだまだ未曾有の勢いで転がり続ける。(高橋智樹)


[SET LIST]
01.奴隷天国
02.今はここが真ん中さ!
03.脱コミュニケーション
04.moonlight magic
05.旅
06.九月の雨
07.翳りゆく部屋
08.歩く男
09.珍奇男
10.赤き空よ!
11.夜の道
12.赤い薔薇
13.幸せよ、この指にとまれ
14.ハナウタ~遠い昔からの物語~
15.彼女は買い物の帰り道
16.ネヴァーエンディングストーリー
17.シャララ
18.明日への記憶
19.笑顔の未来へ
20.いつか見た夢を
21.桜の花、舞い上がる道を
22.朝
23.悪魔メフィスト
EC1-1.平成理想主義
EC1-2.シグナル
EC1-3.四月の風
EC1-4.俺たちの明日
EC1-5.ガストロンジャー
EC1-6.ファイティングマン
EC2.待つ男
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする