スティング@日本武道館

スティング@日本武道館
イギリスのロイヤル・フィルハーモニック・コンサート・オーケストラと共に、ポリスもソロも含めた過去の代表曲たちをリアレンジしたアルバム『シンフォニシティ』を制作、2010年8月にリリース。そして、そのスティング+バンド+オーケストラという編成によるワールド・ツアーが、2010年6月からスタート。で、そのツアーの、9月21日のベルリン公演を収録したライブ・アルバム『ライヴ・イン・ベルリン』を、今年1月12日に発表。というタイミングでの来日公演で、大阪と名古屋を1日ずつやって、東京は日本武道館3デイズ。その1日目を観ました。なお、そのツアー、北米・ヨーロッパ・韓国と回って、日本にきて、このあと1月2月でオーストラリアとニュージーランドで計11本やって、おしまいです。ちなみに、北米とヨーロッパはロイヤル・フィルハーモニック・コンサート・オーケストラと共に回り、それ以外はそれぞれの国のオーケストラと共にプレイ、という方式です。日本は「東京ニューシティ管弦楽団」との共演でした。
というわけで、アルバムに加えてライブ盤も出ているし、ツアーパンフには「今夜のセットリストはこれらの曲の中から演奏されます」っていう曲の一覧が載ってるし、そもそもこの来日公演の広告ポスターに曲名ばんばん載ってたし、スタッフから書いていいって許可もいただいたので、東京公演まだ2日残っていますが、セットリスト、書いちゃいます。知りたくない方は、ここで読むのをやめてください。
2部構成になっていて、1部と2部の間に、20分間の休憩がありました。

第1部
1.If Ever Lose My Faith You
2.Every Little Thing She Does Is Magic
3.Englishman In New York
4.Roxanne
5.Straight To My Heart
6.When We Dance
7.Russians
8.I Hung My Head
9.Shape Of My Heart
10.Why Should I Cry For You?
11.Whenever I Say Your Name
12.Fields Of Gold
13.Next To You

第2部
14.A Thousand Years
15.This Cowboy Song
16.Tomorrow We’ll See
17.MOON Over Vourbon Street
18.End Of The Game
19.You Will Be My Ain True Love
20.All Would Envy
21.Mad About You
22.King Of Pain
23.Every Breath You Take
アンコール1
24.Desert Rose
アンコール2
25.She’s Too Good For Me
26.Fragile
アンコール3
27. I Was Brought To My Senses

以上です。言うまでもないですが、2、4、13、22、23がポリスの曲、それ以外がソロ曲ですね。あともうひとつ言うまでもないですが、『シンフォニシティ』ってポリスのラスト・アルバム『シンクロニシティー』とかけたタイトルですね。
それから、いちばん最後の27曲目は、スティングがひとりで、アカペラで歌いました。この曲、関係者受付でいただいたセットリストには入っていなかったので、そこは毎日ひとりで歌う、何を歌うかはわからない、ということになっているようで、ここまでの各国のツアーでは、そこで「I Was Brought To My Senses」ではなく、ポリスの「Message In A Bottle」を歌う、という日もあったようです。ああああ! だから、武道館、2日目の今日か3日目の明日が、それかもしれません。いいなあ。

ステージは、後方に、東京ニューシティ管弦楽団のみなさん。弦や管はもちろん、ティンパニやマリンバや、ハープ(ブルースハープじゃなくて「竪琴」のハープね)まで入った、超大所帯のフルオーケストラです。で、そのオーケストラの前の位置に、横に広がるような形で、スティング・バンドの面々。そしてステージ前方中央にスティング。そのすぐ背後に指揮者(これは東京ニューシティの方ではなく、このツアー全箇所、スティングと帯同しているスティーヴン・マーキュリオという人です)。
という形で、曲によって、スティングとバンド・メンバーである女性コーラス(JO LAWRYというアーティスト)のデュエットになったり、スティングとアコースティック・ギターの2人になったり、時にはバンドとスティングだけになったり、逆にバンドははけてオーケストラとスティングだけになったりしながら、ステージが進んでいく。時々、オーケストラの中の、管楽器のメンバーが前に出てきてソロをとったりするんだけど、その後でスティング、ちゃんとその人の名前を言って紹介していて、ちょっと感心したりもしました。
ステージ上方には、画面が3つ。スティングが好きだと思われる写真家の作品や、ビデオ・アーティストの作品が映ったり、ステージ上のスティングやオーケストラの様子が映ったり、何にも映らない時間があったり、というふうに活用されていました。

というようなライブでした。さて。スティングが、オーケストラと共に、ポリスもソロも含めた自身の全キャリアを代表する曲たちをリアレンジして、歌う。そしてワールド・ツアーを行う。スティングのようなキャリアとポジションと存在感のアーティストが、そういうことをやる、っていう企画を知った時、自分がどう思ったかというと、正直言って、興味わきませんでした。そんな、いかにも「あがり」みたいなことされても。というのが、嘘偽りない気持ちでした。ただ、「ポリスが再結成して日本に来る、そしてそれを観る」という長年の悲願が、2008年2月にかなってしまったので(ライブレポはこちら → http://ro69.jp/live/detail/113)、もうあとはなんでもいいというか、その後スティングが何をしようが「ああ、まあ、いいんじゃないの?」というようなスタンスでもありました。
そんな奴が観に行くなよ。という話だと、自分でも思います。要は、「ポリスの曲もやる」というのに惹かれて、のこのこ足を運んだわけなんですが。

すごかった。始まった瞬間、そんな己のスタンスを改めざるをえないくらい、もう、えらいもんだった。オーケストラとの共演、ロックとクラシックのミクスチャーを、「楽しみ」ではなく「挑戦」として行っているのがもう1曲目からわかる、そういうライブだった。このオーケストラ共演企画が、「クラシックの要素を入れてみました」とか「クラシックと混ぜてみました」ではなく、「新しいポップスとしてこういう方法にトライしてみました」というものだということが明らかだった。この方がラジカルかも。この方が実験的かも。この方がポップかも。どの曲もそういうリアレンジがなされていたし、そういう楽器の鳴らされ方だったし、そういう歌われ方だった。
そのスティング+バンド+フルオーケストラの演奏そのものが、何か、すんごいスリリングなのだ。今聴いているこの曲に、次はどんな展開が待っていてそこで音にどんな表情が浮かぶのかわからない、そういう予測のつかなさが、どの曲にも、どの瞬間にもあるのだ。そもそもそういうアレンジがなされている、というのもあると思うが、前述したように、その国々のオーケストラと演奏している、つまりこれ、限りなくセッションに近いからだと思う。だから、観ているこっちだけでなく、演奏して歌っている側も、スリリングだったのではないかと思う。
それから、その音を受けるスティングの歌そのもの。明らかに、その3年前のポリス来日の時よりもよかった。声がよく出ている、つまりコンディションがいい。あと、緩急、抑揚、高低、いろんな面において、表現力も全然アップしている。まあ、楽曲そのものが、ポリスほど性急なビートだったりめまぐるしいコード転換だったりしないので歌いやすい、というのもあるとは思うが。

というわけで、とてもラジカルなものを感じたライブでした。ステージ上にはフルオーケストラ、客席は40代以上の往年のファン(俺もだ)が中心、朗々と歌うはスティング御年59歳(今年10月で還暦)、というのはまあ「いかにも」な光景だったけど、現在進行形のロック・ファンにもこれは届く、と思いました。今からでもぜひ。(兵庫慎司)
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