オープニングの“I Didn't See It Coming”はベルセバらしい静かな滑り出しだ。最初はちょっと出音が小さいかな?とも感じたが、続く“I’m A Cuckoo”で徐々にストリングスやホーンが乗っかり厚みと色艶を補っていく展開がスムーズでエレガント。ここで「こんばんは東京!今日はサタデーナイトだね」とスチュワートが言うも、すぐさま客席から「違うよ、フライデーナイトだよ!」と突っ込みが入り、会場の空気が一気に和やかになっていく(スチュワートさん、「時差ぼけしてるんだよ」と言い訳していました)。
新曲“Come On Sister”を挟んだこの日の前半戦の流れは内省の季節を終えたベルセバの最新形、最新作『ライト・アバウト・ラヴ~愛の手紙~』で彼らが到達したポップ・マイスターとしての技量が存分に発揮される内容だったと思う。アナログシンセの響きすらツヤツヤに磨きあげられてどこまでもクリアな音、全開で響き渡るハーモニー、そしてスチュワートのボーカルそれ自体もバート・バカラックみたいな朗々と歌い上げるスタイルに変貌を遂げていて、なんだか普通の「ポップ・バンド」のライブを観ているような錯覚に陥る。
スティーヴィーにボーカルをバトンタッチしての“I’m Not Living~”は、オーディエンスとの「ウーウウウーウー!」なコール&レスポンスから発展して曲中のコーラスまでオーディエンスが引き受けるという、なんともベルセバらしいフレンドリーな展開になる。続く“Pizza, New York Catcher”は「これは野球についての歌だよ。日本では野球ってメジャーなスポーツなんだよね。野球やってる人、手を挙げて?」とスチュワートが問いかけると次々に手が挙がり、中には広島カープのユニフォームを高々と掲げるファンも(スチュワートは「カープね……クール!」と)。
こういうステージ上の彼らとフロアの我々の近すぎる距離感は相変わらずで、ベルセバのライブならではの親密なコミュニケーションは彼らがいかにプロフェッショナルになろうとも不変の美点だ。
そして“Fox In The Snow”以降はヒット曲、ファン投票したら必ず上位に食い込むだろう鉄板曲が文字通り乱れ打ちされる展開で、こんなにもベルセバが過去と今をイコールで繋いで包括したライブは未だかつてなかったんじゃないかと思う。しかもそれらの曲が感傷に浸る契機として鳴るのではなく、「更新されるエバーグリーン」という語義矛盾すら孕みながら、『ライト・アバウト・ラヴ』以降の彼らとファンにちゃんと足並みを揃えて成長しているのが凄かった。「次は赤いアルバムからの曲だよ」「次は黄色いアルバムから演るよ」と、過去作を色で示しながら懐かしいナンバーを披露していく演出もチャーミングだ。
“Caught In Love”(スチュワートが客席後方まで爆走!)、“Judy And The DreamOf Horses”、そして“Sleep The Clock Around”で迎えた本編最終コーナーの圧倒的なポジティヴィティ、明日への活力すら漲るような前向きなエネルギーもまた、ベルセバのライブで未だかつて経験したことがない種類の感情だった。スティーヴィーが即興でビートルズとTレックスを弾き、それがいつしか会場を巻き込んだ合唱になるという幸せなハプニングや、ファンからのリクエストに答えた“Get Me Out Of Here~”もあったアンコールまで含めて全21曲、約2時間15分。個人的に過去数年に観たベルセバのライブ中でベストと断言できる一夜だった。(粉川しの)