藍坊主 @ 日本武道館

藍坊主 @ 日本武道館
藍坊主 @ 日本武道館 - all pics by 木村篤史all pics by 木村篤史
藍坊主キャリア初の、ライブ・アット・ザ・ブドーカン! 大仰なステージ・セットはない、スクリーンもない、直で藍坊主に、その歌に向き合ってくれ、という巨大な舞台の中央1/3ほどのスペースに、hozzy(Vo./G.)、藤森真一(B.)、田中ユウイチ(G.)、渡辺拓郎(Dr.)の4人とゲスト・キーボード奏者の津田直彦が寄り集まるようにして立っている。藍坊主はお互いがこの距離感で、ずっと変わらずステージに立ち、そしてこの場所にたどり着いたんだという、バンド結成から11年余、メジャー・デビューから約7年の、ベスト盤リリースに伴うワンマン公演『藍空大音楽祭~the very best of aobozu』である。

バンドが一丸となって走り出し、4作目のシングル曲だった“ハローグッバイ”によるステージの幕開けだ。hozzyの伸びやかな歌声が挨拶代わりとばかりに広がってゆく。続く“ラストソング”は赤い照明の中でエモーショナルに、hozzyは最初のブリッジを歌い切るところで手をかざしながら、押し寄せる大歓声の中を突き抜けんとするかのような姿を見せた。田中の情感に満ちたリード・ギターも火を噴く。「『藍空大音楽祭』へようこそー! みんな最後まで楽しんでいってくださいヨロシク!」と簡潔に最初のMCを纏めて、とにかく曲やろう曲、という風に演奏に向かうhozzyである。

一転しての七色に煌めくライトに包まれ、生活感に溢れた藍坊主特有のブルーの中から次第に音楽の魔法を導き出してゆく“ガーゼ”。そしてスピードの中でバラエティ豊かなメンバー個々のフレーズとリフが次々に繰り出されてゆく“鞄の中、心の中”と“春風”では、まるで武道館全体がひとつのステージと化したかのようなシンガロングを巻き起こすのだった。凄い。“春風”の終盤、転調後の大サビで、「イエー!! ブードウカーン!!」と声を昂らせるhozzyであった。

hozzy:「とうとう藍坊主、この日がやってきました。11年目、今までいろんな曲が出来て、ベスト盤も出させて貰うことが出来ました。その初回盤に、高校生のときに藤森が作った曲も入っててさ。《あ、コイツとやってたらプロになれるわ》って」
藤森:「MDにとって、チャリでみんなに届けたりしてたね」
田中:「次にやる曲は、たぶんデビュー前に八王子でやったときが最後だと思うのね。そのときはお客さん2人だけで。しかも2人とも対バンの人で(笑)。だから今日、この景色の中でいきなりやったら、曲の立場で考えたらびっくりすると思う」

というやりとりを経て披露されたのは“僕と同じ”だ。性急に転がる渡辺のビートに乗せて歌われる若々しいナンバー。でも、その時期の楽曲から既に、あの藍坊主ならではの和の情緒を汲み取らせるメロディの片鱗が覗いていることに驚く。そしてドラム・ロールと満場のハンド・クラップの中でhozzy、「今年はいろいろあって、花見が出来なかった人もたくさんいると思います。今から藍坊主と桜を降らせよう。花見しよう」と“桜の足あと”に導く。高く高く舞い上がってゆくこの歌は、ロック性を強く発揮するこの日の藍坊主のパフォーマンスと相まって、驚くほど大きなスケール感で情景を描き出してゆくのだった。

津田によるスペイシーなシンセ・サウンドから幻想的なボーカルのリフレインに連なる“シータムン”、歌に寄り添う田中のギター・フレーズや藤森のベース・ラインが次第にドラマティックに、そしてエキサイティングに展開してゆく“あさやけのうた”、とバンドの成長の足取りを見せつける楽曲群が並び、ここで田中「いっぱい人がいるように見えるけど、全国津々浦々からお集まり頂いた感じなんですかね? 北海道から来た人! けっこういるねえ。なまら楽しんでってね。九州からきた人! おお、よう来んしゃったね! 沖縄! どこ!? ハイサイ! あ、東北の人いる? 元気だねえ! ありがとうございます」と気の利いた挨拶。こうやって藍坊主は各地のファンと繋がり、信頼を築き上げてここまでやってきたのだな、と実感させられる一幕であった。

そして、昨年の日比谷野音公演でコラボレートしたストリングス隊=ミズカネ・フィルハーモニーをこの日もステージに迎え、それまで歓声を浴びせ続けシンガロングしていたオーディエンスが一心不乱に美しいハーモニーに聴き入る“すべては僕の中に、すべては心の中に”を、一転してダイナミックに響き渡るバンド・サウンドとともにhozzyがステージの淵にまで身を乗り出して歌い、そこにストリングスが加わってもの凄い迫力で届けられる“雨の強い日に”と、2曲が披露された。

藤森が拳を振り回してOIコールを誘った“ジムノペディック”、激しいジャムから走り出した“瞼の裏には”と、さすがベスト・オブ・藍坊主な容赦なしのセットリスト。hozzyがアコギを抱えて「知ってたら歌ってください」と歌い出したのは、来た、“ウズラ”だ。キラッキラなバンド・サウンドにシンガロングが映えてゆく。「さっき武道館でオニギリ食べてる奴(=渡辺)がいたけど、おれは、足元にブドウ糖を置いてあるのね……ブドウ糖……やっべえ、全然ウケてねえ……」とhozzy。まあ、ライブ中の栄養補給にまで気を配る心意気はわかった。

気を取り直して、ベスト盤と同時発売になった最新シングル“星のすみか”では、唐突にステージの背景一面に、無数の星屑が煌めく。それまでがシンプルなセットだっただけに、これは本当に目に鮮やかだった。テクニカルなフレーズをキャッチーなメロディの楽曲に盛り込む、最新型の、しかし間違いない藍坊主節が響き渡る。この美しい光景に煽られたオーディエンスは、続く“セブンスター”で預けられた歌を高らかに歌い上げた。「気づいたら最後の曲です。あっという間だね。武道館でどうしても最後にやりたい曲があって、それをミズカネ・フィルハーモニーと一緒にやらせてください」と辿り着いた本編ラストは“伝言”。自分たちの想いがどれだけ広く、遠く届くか。そのために数々の楽曲を練り上げ、実験的な進歩を経てもブレない藍坊主の活動が、そのまま武道館に鳴り渡る、堂々のステージであった。

くり返される藍坊主コールを受けてのアンコール。藤森は「今までで一番、人数の多い藍坊主コールで、ジン、ときました。けっこう切実な想いの歌を歌ってきて、これだけの人に受け止めて貰えて嬉しいです」と語る。そんなアンコールでまず披露されたのは、hozzy曰く「藤森が絶対新曲書くって言って、この1か月、修行僧みたいだった」という1曲。《ただ生きるなんてない》というメッセージをはじめ、一言一句をバンド・サウンドの迸るようなエネルギーがブーストするもの凄い曲であった。なんか、この1曲によって「ベスト盤的総括ライブ」だったはずの今回のステージの意味がひっくり返されてしまうほどだ。これが余程悔しかったのかhozzy、続く“忘れないで”を、荒ぶるような熱唱ぶりで浴びせかける。互いに切磋琢磨するライバル精神も含めて、つくづくいいバンドだ。藍坊主は。

ダブルアンコールの“マザー”を再びの歌詞丸投げと視界一杯のスウェイでフィニッシュすると、「いろんなことが3月に変わってしまって、まだ大変な思いをしている人もたくさんいると思うんだけど、いい事とか、素晴らしい事とかを俺が言おうとしても、中途半端になっちゃうんで言えません。でも、こうしてライブが出来たこととか、みんなと会えたことに感謝することは出来るな、と思って。本当に来てくれてありがとう」とhozzyが告げ、最後の“スプーン”を歌う。等身大であることを徹底的に見つめて、その中に広がる宇宙を描き出してきた藍坊主の、それ故に揺るぎない確かさが描き出された見事な武道館公演であった。(小池宏和)

セット・リスト
1:ハローグッバイ
2:ラストソング
3:ガーゼ
4:鞄の中、心の中
5:春風
6:僕と同じ
7:桜の足あと
8:シータムン
9:あさやけのうた
10:すべては僕の中に、すべては心の中に
11:雨の強い日に
12:ジムノペディック
13:瞼の裏には
14:ウズラ
15:星のすみか
16:セブンスター
17:伝言
EN1-1:新曲
EN1-2.忘れないで
EN2-1.マザー
EN2-2.スプーン
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