清 竜人 @ SHIBUYA-AX

清 竜人の作品史上最高にポップで開放感溢れる仕上がりとなった3rdアルバム『PEOPLE』。これまでの2作に比べて圧倒的な「光」を感じるこのアルバムを携え、各地で歌うことの歓びを振りまいてきた彼が、6月21日(火)恵比寿リキッドルーム公演のソールドアウトを受けた追加公演として本日、東京・SHIBUYA-AXにてツアー・ファイナルを迎えた。

会場からの熱い拍手と大歓声に包まれる中、光沢のある淡いピンク色のスーツ姿で現れた清 竜人。本日のバンドメンバーは、山本タカシ(G)、TOKIE(B)、ASA-CHANG(Dr)というお馴染みのメンツに加え、山本隆二(Key)、清田敦(Key)の2名のキーボーディストを加えた6人編成で『PEOPLE』の世界を忠実に、そして、感情豊かに表現していく。リズミカルなASA-CHANGのドラムに導かれ、“ぼくらはつながってるんだな”でライブはスタート。清は終始笑みを浮かべながら歓びの歌をうたい、会場一丸となった手拍子が鮮やかなポップソングに彩を添えていけば、場内は一気に安穏な空気に包まれる。そして、これまで内に向いていた視点は、徐々に彼の周囲の人々へと向けられ、その人々に対する感謝の気持ちをどこまでも素直な言葉で表現していく。《そんなバカ正直なことばが結局一番大切なんだよ》と歌う“パパ&ママ愛してるよ!”のストレートすぎる表現も、これまでの繰り返される自問自答があってこその極自然なアプローチなのだと思う。

エレキギターに持ち替え、小気味よいピアノの伴奏に乗ってプレイされた“きみはディスティニーズガール”では、そんなことあるわけないと思いたくもなるような「奇跡」とか「偶然」といったものが急に信じられるような無邪気さに溢れていたし、“イザベラ”の淡いピンクやイエローの柔らかなライティングに映えるキュートなメロディラインとシンプルな言葉からは、小さな力でも世界を確実に変えるような生命力に漲っていた。そして、心の底から振り絞るように《歴史的な一歩をまさに今踏み出すんだ》と声を上げた“プリーズリピートアフターミー”は、まさに自らが光となって、オーディエンスを導いていくような前向きなパワーに溢れていた。

特に、ハンドマイクで力の限り歌い上げた“がんばろう”“うつくしい”の流れは圧巻だった。陰の部分としっかり向き合いながら物事の本質を見ようとしてきた彼が歌うからこそ、きれい事が全くきれい事に聞こえない。むしろ、祈りとなって私たちの心の奥深くに刻み込まれていくようだった。その歌の力は、過剰なまでのエゴイズムを晒して切実な想いを歌い切った“痛いよ”の悲喜を行き来するような紙一重な世界ですら、ポジティブに響かせるような大きな愛へと変化している。

後半はファイナルに相応しく、今作でデュエット参加しているメロディーチューバックを迎えて“おとなとこどものチャララ・ララ”を忠実に再現。子どもと大人の歌声がからまった、まるでおもちゃ箱をひっくり返したようなメルヘンチックな楽曲だが、歌詞は大人にも子どもにも通じるシンプルな言葉で綴られた「今を生きる意味を問う」という人間にとっての大命題。それを軽やかに爽やかに歌い上げ、会場を和やかなムードで包み込む。本編ラストは「最後にみんなで歌いたいと思います」とここでもCDでコーラス参加しているすずかけ合唱団の7人の子どもたちがステージに現れ、“がきんちょのうた”で締めくくられた。清と子どもたちの「1,2,3」のカウントで始まった希望に満ちた歌は、大人から子どもに手を差し伸べるような歌にも聞こえるし、自らを奮い立たせるための挑戦の歌のようにも聞こえる。今の清 竜人の音楽は、人と人のつながりを強めるようなコミュニケーション手段として成立していて、だからこそこのピースフルな空間が生まれているんだなと思った。

アンコールでは生の弦楽四重奏とピアノをバックに“ぼくが死んでしまっても”を大熱唱。憎しみと愛の狭間を彷徨う狂気のポップ・チューンを歌い上げ、続く“ボーイ・アンド・ガール・ラヴ・ソング”では、清自ら鍵盤を弾き鳴らしながら、狂おしいまでの純真無垢な恋心を全身全霊を捧げるように歌う。この2曲には彼の本質が浮き彫りになるような繊細さを感じた。そして、「本当に最後の曲です。最後にみんなで歌いたいと思います」と清が挨拶すると、バンドメンバーは楽器を下し、ステージ中央に集まった。山本タカシのアコースティックギターとASA-CHANGのタンバリン、そしてバンドメンバーのコーラスに合わせて、会場からはワルツを刻む手拍子と大合唱が沸き起こった。「生きること=歌うこと」という彼の日々の営みを堂々と宣言した“ホモ・サピエンスはうたを歌う”でラストを迎える。今回のアルバム、そしてこのツアーで目の前に立ちはだかる壁を一枚ぶち破ったかのような清々しさを手に入れた清 竜人。次なる展開への期待も膨らむ素敵な一夜となった。(阿部英理子)

1.ぼくらはつながってるんだな
2.パパ&ママ愛してるよ!
3.マドモアゼル
4.きみはディスティニーズガール
5.イザベラ
6.プリーズリピートアフターミー
7.がんばろう
8.うつくしい
9.痛いよ
10.ウェンディ
11.おとなとこどものチャララ・ララ
12.がきんちょのうた

アンコール
1.ぼくが死んでしまっても
2.ボーイ・アンド・ガール・ラヴ・ソング
3.ホモ・サピエンスはうたを歌う
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