2年9か月ぶりのアルバム『ケツメイシ7』を携えた3年ぶりの全国ツアーは、3月末にスタートしアルバム未収のニュー・シングル『こだま』も発表してこの6月後半からは追加公演を敢行中。『あれっ?このおじさん達見たことある!そうです!下の方でFes2011 テッテレー♪』なるツアー・タイトルのあまりにあんまりなエスカレートぶりは、今のケツメイシの好調ぶりを伝えるものとして前向きに解釈したいところだ。場内アナウンスを務めるお姉さんも、このツアー・タイトルの箇所だけは超ハイ・テンションで読み上げている。ファンが思い思いに着込んだKTM印のツアーTシャツには「HEY! I’VE SEEN THESE GENTLEMEN BEFORE! THAT’S RIGHT! IT’S THE PERVERTS’ FESTIVAL 2011」と英文に訳されてプリントされ、辛うじて「着れる」感じにしてあるのは抜け目ない。
今回の全国ツアーはほぼ週末毎に公演スケジュールが組まれていて、首都圏近郊だけでも既にさいたまスーパーアリーナ2デイズ、幕張イベントホール2デイズ、代々木第一体育館2デイズという大規模ステージが行われてきたのだが、追加公演の横浜アリーナ初日は、ド平日にも関わらず笑いと悲哀と下ネタと温かいメッセージを詰め込んだ怒濤の3時間半になった。昨年の夏フェス行脚からライブ現場への復帰は果たしていたとはいえ、エネルギーと更なる名曲群を溜め込んだケツメも、それを迎撃する飢えに飢えたファンもまったく容赦がない。翌日の横アリ2日目、そして7月の沖縄・宜野湾での屋外公演と静岡公演をまだ残しているので以下、なるべくネタバレを控えつつレポートを進めてゆくが、今後参加予定の方は閲覧にご注意を。
もちろん最新作『ケツメイシ7』からの楽曲が数多く披露されることになった今回の公演だが、前回のツアーが『ケツメイシ6』リリース前に行われたということもあってか、『6』の楽曲群もまた含まれてゆくことになる。必然的に00年代前半にケツメがヒットさせてきた楽曲は比較的、抑えめになるわけだが、全然関係なかった。大蔵が「3年分の元気を見せて貰いましょうかー!」と煽り立てて視界一面のオーディエンスが跳ねまくる序盤から、力強いダンス・トラックと小気味よいラップ/ラガマフィン・ボーカル、そして至高のメロディがだだ漏れになるパフォーマンスである。
年齢的にも生活環境においても既に大人である、というメンバー個々の現在地を踏まえて生み出されてゆく今のケツメの歌には、つまりやや(必ずしも下世話な意味だけではなくて)アダルトな哀愁と、その先で見つける新鮮な視界・価値観が盛り込まれることになる。“闘え!サラリーマン”の《頑張れオレ!(HEY!)/疲れは酒で流し込め(HEY!)/あえて言おう「会社はオレ達が支えてんだ!」》というブルースがバウンシーなリズムの上で爆発するとき、そこにはド平日の夜に鳴り響くべき生活者のリアルな感情の手応えが確かにある。或いは、“バラード”“君とつくる未来”の両A面シングル曲が見せてくれた、年月を踏み越えてゆくラブ・ソングならではの、記憶と綯い交ぜになった深い味わいをRyojiの美声がかつてないスケール感で紡ぎ上げてゆくメロディ。それらを日本中のファンと分かち合ってゆくことこそが、今回のツアーの大きなテーマになっているはずだ。
序盤に「1、《疲れたって言わない》。2、《MCではちゃんと笑う》。3、《1と2を守る》。4、《最後まで全力で楽しむ》」のライブ4か条を打ち立てていたRyoは、中盤早々に「疲れた~」と漏らした上で「約束と袋とじ、そして記録は破るためにあるんです!」と開き直っていたが、そんなふうにジョークや下ネタではぐらかしながらも、ケツメの音楽的成果は自身の「記録を破る」徹底的なストイシズムに裏打ちされていた。活動を再開して最初にヒットさせたナンバー、多くのオーディエンスがKTMタオルを掲げてみせた“仲間”ならどうだろう。《結果より気持ちだろ オレらに必要なのは》と歌われる、優しくも強い応援歌だ。そんな優しい応援歌が、しかし上っ面と口当たりだけが良い駄曲では誰の胸にも届かないことを、ケツメは良く知っている。その優しい言葉を届けるために何が何でも「名曲」にしなければならないという厳しさを、彼らは知っている。そんなふうに「名曲」という結果をひたむきに生み出し続けてきたことこそが、今日のケツメのアダルトな視界に繋がっていると言ってもいいだろう。
大蔵は「次のツアーまでは3年も待たせないようにします」と言っていたが、正直僕は今回の公演中に「そりゃあ充電期間も必要だわ」と感じる瞬間が何度もあった。それだけのことを、彼らはやってのけている。もちろん“さくら”のような懐メロもプレイされることはされるし、ケツメぐらい珠玉の懐メロを多く抱えたアーティストならば、例えばライブを増やすことで職業音楽家としての生活は成り立つだろう。でも彼らはそうしない。今、歌うべきメッセージを名曲に仕立て上げ、それを求めるリスナーに届けるということ。そんなポップ・ミュージックの本質とも言える行為をひたすら続けてゆくことが、彼らの活動の命題なのだ。笑いでも交えてはぐらかしていないと、保たないのだ。ストイック過ぎて。3時間半に渡ってシンガロングし、スウェイし、飛び跳ねていた満場のオーディエンスの中には、今回初めてケツメのライブに参加したという人もたくさんいた。「我々が意外とおじさんでびっくりしてるんじゃないかと思います」と、またそこでもはぐらかしているのだが。
名曲ばかり作り続けているから、オーディエンス一人一人の「聴きたい曲」の要望にすべて応えることは、当然ながら今のケツメにはもはや不可能だ。実は『7』収録曲で僕個人が最も好きな一曲もプレイされなくてちょっと残念だったのだが、そんな小さな不満を越えたところで、ケツメは今のケツメらしい、最高のパフォーマンスを見せてくれた。こうして歳を重ねながら、彼らは新しい視界を手に入れ、そしてまた名曲を生み出してくれるのだろう。(小池宏和)
ケツメイシ @ 横浜アリーナ
2011.06.29