灼熱の2日間、大盛況のうちにその幕を閉じた2011年のサマーソニックだが、昨日は「サマソニEXTRA」と題されたサマソニ出演者による後夜祭ジョイント・ライブが都内随所で行われていて、中でも大注目のカードとなったのがディアハンターとモーニング・ベンダーズの対バンである。スミス・ウェスタンズ、モーニング・ベンダーズ、そしてディアハンターが立て続けに登場した東京2日目(大阪初日)のSONIC STAGEは2010年代USオルタナティヴ・シーンの最旬事情をまるっとコンパイルした注目のステージだったが、この日の恵比寿リキッドルームはそのムードをさらに濃縮して体感できる貴重な一夜だったと言っていいだろう。
トップバッターで登場したのはカリフォルニア出身のモーニング・ベンダーズ。3ピース。最新作『BIG ECHO』で一気に評価を上げ、いわゆる「ポスト・ヴァンパイア・ウィークエンド」「MGMT以降のネオ・サーフ・リヴァイヴァル」の先頭ランナーとして注目を集めている若手である。サマソニのステージでは力みが感じられて本領発揮とはいかなかった彼らだが、この日のリキッドルームのサイズ感は今の彼らにジャストで、モーニング・ベンダーズというバンドのポテンシャルが一気に太文字で立証されていくような素晴らしい内容のパフォーマンスとなった。
モーニング・ベンダーズ「らしさ」、たとえばオープニングを飾った“Promises”のようにシンプルかつギタポ風味の跳ねるロック・ナンバーと、新曲“I Wanna Be A Man”のようにミニマムでエクスペリメンタルなノイズ・チューン、そして本編のクライマックスとなった“Stitches”のように轟音系スペクタクル・ナンバーという、彼らの3つの側面がそれぞれにアルバム以上にアピールされつつも、最終的には絶妙の調和を取って3つが屹立しすぎることなく丸く収まって40分のライブを終えるという、そのピースフルな空気が新しいと思った。あるひとつの嗜好性にどっぷり耽溺することなく、どこか客観的で醒めた視点を感じさせると言うか。そこが彼らのような2010年代の新星と彼らが先達と仰ぐ80年代のネオ・サイケ・バンド達との差のような気がした。ヘルシーかつ清廉なサイケデリックという語義矛盾すら感じさせるライブだった。
そして20分の転換の後にいよいよディアハンターが登場!……する前に日本人の女性スタッフがステージに現れ「バンドからのメッセージがあります」と言って恒例の前説が始まる。これから始まるのはロックンロール・ショウであること、とにかく盛り上がってほしい、ステージ上の彼らをブン殴るぐらいの勢いでお願いします云々とオーディエンスにアナウンスされる。
ブラッドフォードも登場するなり「イッツ・タイム・トゥ・ロック!」と絶叫、明らかにサマソニとテンションが違う。開かれたサマソニとは真逆の、この日の密室の企みをファンと共に完璧なものにしたいという熱意をひしひしと感じるそんな幕開けと共に始まった1曲目は“Desire Lines”でいきなりのトップギア! 恐ろしくシンフォニックでアウトロに向かってどんどんサイケが膨張していくというディアハンター得意のパターンがさらに強調された出だしで、今夜のショウが助走なしの着火型であることを予感させる。
続く“Don’t Cry”、“Revival”はアルバム・バージョンより3割増しくらいストレートなロック色を強め、ブラッドフォードのボーカルもパンクのそれに近くなっている。ネオ・サイケデリックの旗手、エクスペリメンタル・ロックの最新形を牽引する賢者――そんな頭でっかちなイメージで語られることも多いディアハンターだが、彼らの根っこは極めてロックだし、ブラッドフォードという人は自身のパンクの原体験をことさらにリスペクトしている。その点においては彼は原理主義者と呼んでもおかしくないくらいの男でもある。あの異様に細長い身体のどこにそんなバイタリティを秘めているのかっていうくらい、ステージ上のブラッドフォードは熱血で白熱なプレイを見せてくれる。
そして最初のクライマックスになったのが続く“Earthquake”だ。音波につぐ音波、そのレイヤーの多様さと分厚さで聞かせるタイプの陶酔型サイケデリック、ディアハンターが最も得意とするタイプの楽曲が連打されたこの中盤戦は、この夜最もトリッピーで多幸感に溢れた数十分だったと思う。超絶ソリッドなイントロからは想像がつかないほど複雑で壮大な物語が続いていく “Spring”といい、ディアハンターのこの手のタイプの楽曲は入口の簡潔さ、アクセスしやすさと裏腹に、一度からめとられた後には出口を見失うほどの渦が待っている。
そして本編ラスト、ボーカル・イントロで始まったこれは……“Green Fuzz”だ!クランプスのカバー! 時計を見るとまだ1時間も経っていないというのが信じられないくらい濃密な本編だったが、もちろんオーディエンスのアンコールは鳴りやまない。そして再び登場した彼らが演奏するのは“Hericopter”。これまた完璧なラスト・ソングだったと思うけれど、どうしても気持ちをフィナーレに持っていきづらい、もっと、ずっと、永遠にこの音渦に浸っていたいと思う名残惜しさがいつまでも付きまとうような不思議な一夜だった。(粉川しの)
ザ・モーニング・ベンダーズ&ディアハンター @ 恵比寿リキッドルーム
2011.08.15