1.森山直太朗
アコースティック・ギター、ウッドベース、バイオリン、ドラム、ピアノと、アコギ&歌の本人、というバンド編成で4曲を演奏。最後の1曲はメンバーが退場してひとりになって、「一番新しい曲です」という前置きをして、そして「歌詞にいろいろ賛否両論がある」とも前置きして、その歌詞を全文画面に映しながら“生きていることが辛いなら”を歌う。確かに≪生きていることが辛いなら いっそ小さく死ねばいい≫という歌いだしで始まる、物議をかもすのもわかる、だけど森山直太朗ってそもそもそういう歌ばかり歌う厄介で危険なアーティストなんだってことを思い出させるような、へヴィーでシリアスな歌。1万数千人がじいっと画面を見つめながら聴いているさまが、重たくてよかった。
2.青山テルマ
すいません、初めてライブ観ました。大ヒット曲“そばにいるね”や“何度も”など全5曲。歌うまいとか、テンション高いとか、陽性の楽しいパフォーマンスだったというのもよかったが、それ以上の収穫だったのがMC。2曲やったところで、「今日はもう、朝起きたら心臓が止まりませんでしたー。いつも二度寝するんだけど、そのまま起きちゃいましたー」。「心臓のドキドキが止まりませんでした」と言いたかったんだろうけど、「心臓が止まったら死ぬがな」という声にならないツッコミが体育館中に満ちていたように感じたのは私だけだろうか。さらに続いて、「次で最後の曲です……(客席ザワザワ)……あ、違う違う違う!」。ワザとボケたようには見えない訂正のしかただった。……もしかして天然? でも天然を装う人と天然の人では、歌を歌う人としては圧倒的に後者の方がすばらしいことを、我々は知っている。誰だ「我々」って。とにかく、好ましいステージでした。
3.くるり
7月22日Zepp Tokyoのレポートでもお知らせした、ドラム=BOBO/鍵盤=三柴理/ギター=「ギターをギターとして弾かない男」内橋和久の新編成によるライブ。岸田はベートーベンの顔がプリントされたTシャツで、「くるりとは、イタリア語で音楽という意味です。嘘です」などとよくわからないMCをする。“ワンダーフォーゲル”“飴色の部屋”“ロックンロール”そしてニュー・シングルの“さよならリグレット”(いい曲!)など7曲をプレイ。なお、7曲目はシークレット・ゲストで、小田和正が登場、“ばらの花”をプレイ。去年共演して、今年も共に出演することになっている、くるりプレゼンツのフェス『京都音楽博覧会』が3週間後に迫っているのと、“さよならリグレット”のカップリングにその時一緒にやった“ばらの花”のライブ・テイクが収録されることなどがその理由と予想されるが、何にせよ岸田と小田和正が声を重ねる“ばらの花”、今度はじっくり味わえてよかった。1年前の『京都音博』の時は、ちょうどそのタイミングで大雨が降ってきて「ああっ二人が歌ってる! でもカッパ着なきゃ! ガサガサガサ(会場中でカッパを取り出す音)」という感じで、今いち集中できなかったのでした。
4.アンジェラ・アキ
ピアノ弾き語りだけど、このあとに出てきた平井堅も思わずネタにしたほどの、そして「いや、これはリスペクトですよ?」と言い訳しながら思わず真似までしたほどの、大熱演。というか、前に観た時もそうだったので、いつもこういう人なんだろう。ほんとに、そんな、インパクト大な全7曲だった。とにかくもう、声でかっ! そしてテンション高っ! ってことに尽きる。バックホーンの将司&栄純は時々二人でアコースティック・ギターの弾き語りをやる時、それを「弾き叫び」と称しているが、正にそれ、ピアノの弾き叫び。で、弾き叫びながら、お客をどんどんあおって巻き込んでいく。ラストの“たしかに”では、あの「♪ララララーラー」の大合唱を巻き起こした上、エンディングは肘や拳で鍵盤を乱れ打ちしてステージを下りた。
5.平井堅
ピアノ、ウッドベース、アコースティック・ギター、パーカッション、本人の、「Ken’s Bar」スタイル。“POP STAR”“瞳をとじて”とヒット・シングルを2連発したあと、ゲストでKANが登場。KANがプロデュースして平井堅が歌った、J-WAVE開局20周年ソング“Twenty! Twenty! Twenty!”をピアノで一緒にやるためなんだけど、それはJ-WAVEのイベントなんだからそれはうなずけるんだけど、うなずけなかったのがKANのいでたち。赤いタータンチェックのスコットランドの民族衣裳、バグパイプまで抱えて登場。平井堅とのコラボが、実は初のプロデューサー経験であったと。なので今日はプロデューサーらしい、威厳ある格好で来たと。そんなようなことを言っていたが、それが何故バグパイプ。
あと、いきなり“Twenty! Twenty! Twenty!”ではない曲を弾きだして、平井堅に「リハーサルにないことやらないでください」と注意されていたが、これもまた、わざとボケたふうではなかった。ここでも、天然の変わり者を見ました。これもたいがい変わり者な平井堅が、普通に見えたほどでした。「夏も終わりですが……みなさん、悩みはありますか? ないですか。そうですか。では、次の曲です」なんて、わけのわからないMCしてたけど、平井堅も。
続いてさらにゲスト。J-WAVEで番組をやっている清水ミチ子&三谷幸喜のコンビが登場、前者はピアノ、後者はリコーダーで参加して“君の好きなとこ”をプレイ。清水ミチ子は、平井堅のフリに応じて得意ネタ=桃井かおり・綾戸千絵などの物真似を披露するなど余裕だったが、大笑いだったのが三谷幸喜の緊張っぷり。最初は笑っていた客席も、曲が始まってからは「がんばれ! 音外れてもいいから、最後までちゃんと!」という感じで、固唾を飲んで見守っていました。1万数千人が小林聡美の気持ちになった、と言ってもいいと思います。
あと、最後にもう一回KANも出てきて、4人のハモリで「♪81.3、J-WAVE〜」という例のジングルを歌ったんだけど(録音してあとで使うんだと思う)、その時清水ミチ子がKANに言ったひとことが印象的でした。「ほんとに変わった人て、きちんとしてるんだよね」。
6.スガシカオ
「平井堅ちゃん終わったらみんな帰っちゃうんじゃないかと思ってすごい心配してたけど……こんなに残ってくれて! ありがとうございます!」と感謝しながら、その感謝をそのまま音と歌にしたみたいな、ハイテンションなステージをやってくれた。アンコールまで含めて全8曲。ファンキーでグルーヴィーなライブだったけど、ギターを置いてスタンドマイクで、しっとりかつねっとりと歌った“progress”が特によかった。6曲目“奇跡”と7曲目“午後のパレード”の、「最近ちょっと明るくなったスガシカオ」を示す名曲2連発もよかった。
あと、アルバムが完成したそうで、9月10日に出るそうで、『FUNKAHOLIC』というタイトルだそうで、ものすごく自信あるそうで、「もう、すっっっごいいいから! 聴いてダメだったら、もう、返しに来ていいから! どんどん中古盤屋に売ってもいいし。でも、絶対そうならない自信ある!」とまで言い切っておられました。その中から披露された新曲“コノユビトマレ”は、確かにその言葉通りの、ポップかつ涼やかかつ、でもやっぱり濃密な、すばらしい曲でした。(兵庫慎司)