そんな彼らのために、今夜は3ピースバンドのuri gagarnがオープニング・アクトを務めた。反復する8ビートのリズムに、ゆったりとした言葉数の少ないボーカルを乗せるのはgroup_inouでもcpとして活動している威文橋。「本当セバドーやばいですよ」と興奮して繰り返し話す様子にフロアから笑いが上がった。
今回のツアーは「The bakesale / harmacy remembering time tour」と銘打たれているだけあって、続いて“On Fire”、“Skull”、“Rebound”といった『Bakesale』『Harmacy』期の人気曲が次々と披露される。7曲目からはルーとジェイソンが立ち位置を替えて“S. Soup”や“Mind Reader”などのヘヴィーな楽曲に移るのだが、特にこうしてジェイソンがボーカルを取ったときのステージングは第一線で活躍する若手バンドさながらの熱気に満ちていて驚かされる。この後もルーとジェイソンは何度か位置を替えながら各々が作曲した曲でメインボーカルを取った。
世間で最高傑作とみなされている『Bakesale』よりも、自分では『Sebadoh III』(1991年)、『Bubble and Scrape』(1993年)、『The Sebadoh』(1999年)の3枚のほうが気に入っていると過去に語ったことのあるルーは、今年行われたインタビューで「なんでみんなが『Bakesale』を僕らのベスト・アルバムだと考えているのかやっと分かったよ。あれは僕らの作品の中でいちばん一貫性があるレコードなんだね」と話している。
逆に言えば、音色そのものの美しさやヴァリエーションに頼ることのできないローファイという枠組みがあるからこそ、「いい曲を作ろう」というソングライターとしての基本的な姿勢に立ち返ることができたのかもしれない。そしてこのことは、ペイヴメントやガイデッド・バイ・ヴォイシズを始めとするローファイ勢の近年になっての再始動・再結成が期待を込めた眼差しで見守られている理由の1つなのではないだろうか。
もちろん、ローファイ・ミュージックが当時(80年代)のきらびやかで商業的なメインストリームの音楽に対する個人の側からの反抗であったことも忘れてはならないと思う。安価なレコーディング環境のために聴き手に元の音質のまま届けられることのないミュージシャンの声は、社会の表舞台に届けられることのない若者たちの声をそのまま表現していたはずだ。
時を経て現れた、インターネットによって「声が世界中に届けられる」ことを保証された世代のアーティストたち、特にグローファイまたはチルウェイヴと呼ばれる一群のアーティストたちも、リヴァーブやハーモニーを多用することによって「すでに届けられた声」をいかに世界や他人と調和させていくかを模索しているという意味では、ローファイ・バンドたちの課題の延長線上にいると言えるだろう。アンセム的なアレンジで演奏されたアンコールの“Willing to Wait”を聴きながら、セバドーが今もインディーロック界の良心のような存在として多くのファンやアーティストから絶大な支持を集めている当の根拠を身をもって体験できたような気がした。(高久聡明)
セットリスト
1. Too Pure
2. On Fire
3. Skull
4. Rebound
5. Ocean
6. Magnet's Coil
7. S. Soup
8. Mind Reader
9. Got it
10. Love to Fight
11. Drag Down
12. Dreams
13. The Freed Pig
14. License to Confuse
15. Sister
16. Drama Mine
17. Crystal Gypsy
18. Careful
19. Bird in the Hand
20. Soul and Fire
21. 2 Years, 2 Days
22. Beauty of the Ride
23. Not a Friend
24. Together or Alone
25. Forced Love
26. Sixteen
27. Give Up
28. New Worship
29. Brand New Love
-Encore-
30. Not Too Amused
31. Willing to Wait