星野源 @ SHIBUYA-AX

星野源 @ SHIBUYA-AX - 撮影=菊池サトル撮影=菊池サトル
「まあ、みなさんもう分かってると思ってるんですけど、暗いんですよ。ずっと一人で歌を作っていて、でも自分の声が嫌いで、歌うのは無理だよなってずっと思ってたんです」ライヴ中、星野源は自分の歌をこんなふうに語っていた。昨年、ソロとして初めての作品を世に出し、温かくて人懐っこい歌声でソロとしての歩みを確実に浸透させている星野源。人間のどうしようもない部分を素のままに出して、それでも生きていることが素晴らしいと思えるような歌を飾らない言葉で歌ってくれた星野にこの日たくさんの拍手が送られた。

9月28日に発売されたばかりの2枚目のアルバム『エピソード』の発売を記念した今夜のライヴ『星野源の「エピソード1」』。今日のこの時点でアルバムを携えたライヴとして発表されていたのは今夜のSHIBUYA-AX公演だけだったため、きっと全国各地からオーディエンスが集まったのだろう。会場は超満員だ。星野がステージに現れるや否や「すごい顔! 顔、顔、顔。こんなにたくさんありがとうございます! 僕に向かって少しずつ前に来てもらえますか?」と言わなければならないほど、フロアは入りきれない人で溢れかえっていた。

星野源 @ SHIBUYA-AX
真紅のステージ幕に、スタンドランプ、星野の足元には絨毯が引いてあり、まるで個人の部屋のようでもあり、一つ一つの物語を演じるための特別な舞台のようでもある素敵なステージセットだ。本日はSAKEROCKの伊藤大地(Dr)、伊賀航(B)、横山裕章(ピアノ)をサポートメンバーのベースとし、曲によってゲストを迎えるという豪華編成でのライヴだった。まず1曲目は星野一人の弾き語りによる“歌を歌うときは”でスタート。《想いを伝えるには/真面目にやるのよ》と星野がしっかりとオーディエンスと向き合うと、聴く側も背筋がピンと伸びる思いでじっくりと耳を傾けて聴き入る。そして、伊藤のカウントから軽やかに流れるように“グー”“ステップ”と続いていく。和やかなムードにオーディエンスも自然と身体がほぐされたのか、“茶碗”で誰が促すともなく手拍子が沸き起こり、その温かさに星野は「ありがとう」と応えた。

星野源 @ SHIBUYA-AX
ライヴが進むにつれて、何気ない日常の中で忘れかけていた大事なことや、日々の中で感じるちょっとした喜怒哀楽の感情が一気に蘇ってくる。さらには近頃の秋めいた気候が手伝ってか、個人的には何度も涙腺が弛む瞬間が訪れてしまう。だけど、そこは星野源。今回のライヴタイトルは、発売して間もない時期だから本当は「エピソード0」にしたかったそうなのだが、スタッフから「Gacktさんが『Episode.0』という曲を出しました」と言われ、仕方なく「エピソード1」にしたという話をして、しっかり会場の笑いをとることも忘れない。そんな和気藹々とした雰囲気の中、一人目のゲスト、ペダルスティールギターの高田漣が登場し、ニュー・アルバムで一緒に演奏している“変わらないまま”をプレイした。時に伸びやかに、時に力強く鳴り響くスティールギターの音色は聴き手の郷愁を誘い、じわりと心を刺激する。特に3月の震災後、最初にできたという楽曲“未来”は一筋の光が見えてくるような温かさが滲み出ていた。

星野は「だいたい、しんどいことがあるときに発散のしようがないから歌を作るんです。そうするとすっきりした気がして。自分がこういう曲があったらいいのにとか、こんな曲が作れたらいいなっていうのが達成できたときに気持ちが良くて」と語ると、“子供”を一人弾き語る。こんなことがあったらいいなという妄想の世界を描ききることこそ星野源が得意とするところだと思うが、それがただの妄想ストーリーで終わらず、現実味の帯びた感情を呼び起こし、人間の生々しさを感じることに繋がっていくのが素晴らしい。誰しもが挫折したり、コンプレックスを抱えて生きているものだと思うけれど、そんなときに生まれた妄想の世界こそ、人間味に溢れていたりする。たった一人の弾き語りにより彼の本質的な部分が垣間見られた瞬間だったと思う。

星野源 @ SHIBUYA-AX
そしていよいよ後半へ。チェロ、バイオリン、さらにはクラリネット、トランペット、トローンボーン、ホルンのホーン隊を加えた10人編成での贅沢すぎるセットが彩りを与え、《日々は動き 今が生まれる 未知の日常 進む進む》と歌う“日常”の心が高鳴るような旋律がフロアに響き渡っていく。流麗なピアノの伴奏に鮮やかなホーンセクション、美しいストリングスが絡み合って、日々の中に生まれた小さな奇跡の集まりのようなキラキラとした世界観を生み出していた。ライヴの最初こそ「緊張するー!」と声を大にして叫んでいた星野だが、ラストには「終わりたくない! 楽しい!」とフロアからの盛大な拍手に多幸感を覚えているようだった。そして、「だいたい、世の中はしんどいもんじゃないですか。だけど、生きていれば生きている分だけいいことがあるなと思います」としんみり語ると最後に“くだらないの中に”を切々と歌い上げる。何でもない日々の歌にこれだけ愛を込めて歌えるのは、星野源が歌い手として堂々と愛を発信していけるようになった証拠なのだと思う。新たな決意表明のようなラストになった。

アンコールでは、アルバム『エピソード』を携えてのワンマンライヴツアー『エピソード2以降』を1月から行うことを発表。なんとファイナルとなる東京は2月20日(月)中野サンプラザ公演が決定しており、星野源にとって初のホールワンマンとなる。今日も贅沢三昧のセットだったが、次回はもっとキャパを広げたホールという場所で星野源の世界がどのように響き渡るのか、アルバム『エピソード』をもっと聴きこんで、地味で坦々とした日常に溢れる幸せを噛みしめながら楽しみに待っていたいと思った。(阿部英理子)


セットリスト
1.歌を歌うときは
2.グー
3.ステップ
4.茶碗
5.ばらばら
6.布団
7.キッチン
8.ひらめき
9.変わらないまま
10.穴を掘る
11.兄妹
12.未来
13.老夫婦
14.バイト
15.子供
16.ブランコ
17.ストーブ
18.エピソード
19.日常
20.予想
21.くだらないの中に

アンコール
1.湯気
2.くせのうた

アンコール2
1.ばかのうた
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