back number@恵比寿リキッドルーム

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10/5にニュー・シングル『思い出せなくなるその日まで』を発表し、来る10/26にはメジャー初のフル・アルバム『スーパースター』リリースを控えたback numberのワンマン・ライブ『恵比寿でできるもん』。ソールド・アウトとなった恵比寿リキッドルームのフロアは、さすがの大盛況である。back numberの破竹の勢いと、彼らの置かれた今の状況を象徴するような光景だ。今回のワンマンには、『思い出せなくなるその日まで』のリリース・パーティ的意味合いはもちろん、アルバムの発表、そしてアルバムを引っ提げてのツアーと転がってゆくback numberの大きな未来を見据えた、新しい季節への試運転ライブ的意味合いも込められているような気がした。

back number@恵比寿リキッドルーム
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オープニング・チューン“こぼれ落ちて”によって、彼らの多くの歌詞の印象を鮮やかに裏切るようにロックなドライブ感を纏って幕を開けるライブ・パフォーマンス。続いての“半透明人間”の切々とした歌にしても、4つ打ちキックの推進力がオーディエンスのハンド・クラップを導いてグイグイと引っ張ってゆく。そしてインディーズ時代の2009年に発表した作品『逃した魚』から“重なり”と“海岸通り”を畳み掛ける。生々しい喪失感をそっくりそのままメロディに刻み付けた“重なり”のインパクトは強烈だ。清水依与吏(Vo./G.)というソングライターの原風景、back numberというバンド名に込められたエモーションの源泉は、例えばこんな形をしているという1曲だろう。 “海岸通り”のフィニッシュでは小島和也(B./Cho.)がジャンプ一閃、今年に入ってリリースしたシングル群の表題曲を温存しつつ、4曲でライブの導入部をがっちりと描き出してしまった。

「こんばんはー(めちゃくちゃ満面の笑顔)。えと、皆さまのお力で、かの有名な恵比寿リキッドルーム、満員御礼です! 1,000人! ありがとうっ! ありがとうっ! ありがとうっ! 一人一人のおかげだよホントに。ワンマンだからいろんなCDからやりたいと思ってるんだけど、大切な曲たちだし、大切にしてもらってる曲たちだから、か、かみ、噛み締めて! 噛み締めたんだよ! 大事に演奏するので、なんだろ……楽しもう!」と清水が語る。

そしてここから“はなびら”、或いは「大事な人を思い浮かべて聴いてください」と一言添えて放たれた“思い出せなくなるその日まで”といった満を持してのシングル表題曲群である。多彩なリズム・パターンでドラマティックに展開するメロディをブースト・アップする栗原寿のドラム・プレイと、ミディアム~スロウ・テンポのナンバーであるにもかかわらずやたらアタック感の強いベースを弾く小島、それに村田昭(Key.)、浜口高知(G.)、矢沢壮太(G.)といったサポート陣もズラリ顔を揃えて、奥行きのあるシンフォニックなバンド・アンサンブルが繰り広げられる。なんだろう、このスタジアム級ベテラン・ロック・バンドにも迫ろうとするスケール感は。実際の演奏がそういうレヴェルに到達しているわけではない。が、そこに必死で手を伸ばそうとする者達ならではの、狂おしいエモーションが迸っている。例えば清水の歌うメロディひとつとっても、安定した声域の中には収まろうとしない。「このメロディは、ここまでのキーを歌うのだ」という意志が先行してしまう。身の丈に合ったメロディを歌うだけでは済まされない切実さがある(もちろん本人は、きっちり歌いこなすつもりでいるのだろう)から、ときどき現実の力量が追いつかなくて負けてしまうのだけれど、そこには奇麗に歌いこなされるメロディとは別の感動が生まれているのだ。この後の“幸せ”にもそんな危ういアートの感動があった。

「もうすぐアルバムが出るね。自分が聴きたいアルバムが出来たと思う。ここにいる人たちは(自分と)似たところがあるから、きっと聴きたくなってもらえるんじゃないかと思います」と清水が告げ、来る新作『スーパースター』に収録された華やかな“リッツパーティー”が、そして「程遠いよ、スーパースターになるには」と大きなため息をついて“スーパースターになったら”が披露される。《スーパースターになったら 迎えに行くよ》(歌詞は筆者聞き取り)と、率直な想いを熱いメロディとダンス・ロック・グルーヴに乗せて解き放つキラー・チューンだ。なんて悲しくて強いラブ・ソングなのだろう。清水にとって、スーパースターの座は「目標」ではなく「条件」だ。「君」よりは幾らか近い距離にあるものだ。巨大な孤独と反骨精神が、とことん悲しいのになぜか力強いback numberのロックのドライブ感を支えている。その真打ちのようなナンバーである。「良かったぁ。新曲良かった!」と清水も勝手に自画自賛するのだった。

「忘れられない人がいる人、あと、忘れられない人がいるってことを認められない人へ」と郷愁を揺さぶる“春を歌にして”が、更には静謐なピアノが導くダイナミックなバンド・サウンドの“stay with me”が披露されると清水、「back numberは悲しい歌が多いじゃない。でも最近おれは、本当に悲しい歌なのかなって思って。悲しいこととか辛いこととかあっても、ちゃんと生きてる人の歌なんじゃないか、と思って。置いていかれた人だし、カッコ良くはないけど、そういう人のことをback numberって言うんじゃないかな、と。やってて良かったと思えるのはみんなのおかげだし、今日はちゃんとそれを言いたかった。人と別れたことのない人なんていないし、ちゃんと、いるから。大丈夫だよ。全部このためだったのか、って思わせてくれる人がいるから、大丈夫だよ」。そしてバンドは、まさにそんな言葉に続くべき、セカンド・シングルの“花束”へとなだれ込むのであった。

「日本はまだback numberを知らないよ! ああまだ知らない! いつか、みんなが自慢できるようにするからさ。あーアタシ、けっこう前から観てるよ、って言えるようにする! スーパースターになる!」おおっ、とどよめくフロア。「若干、時間がかかるかも知れないけど。武道館……」更にどよめきが大きく広がる。「ゴメン、今、ライトな気持ちで言っちゃった」。孤独と反骨精神を燃やし尽くした先の理想に、全速力で実力を追いつかせながら、それでももうひとつ押しが弱い清水であった。そうしてライブ本編は“いつか忘れてしまっても”でクライマックスを迎えてゆく。

この日のライブ限定販売の物販Tシャツで再登場しポーズを決めまくっていた清水。が、そんな彼を素通りして背後の栗原に「寿くんかっこいー」の歓声が飛ぶと、清水は「帰る!」とふてくされたりしている。サポートを含めたメンバー紹介ののちアンコールで披露されたのは、捻りのあるグッド・メロディ“はじまりはじまり”(清水は『スーパースター』に収録されなかったことが残念だったようだ)と、フロア一面のハンド・クラップで弾ける“そのドレスちょっと待った”の2曲。堂々の1時間45分であった。また終演後には、『スーパースター』予約者とメンバーが握手会を行うという企画も盛り込まれていた。うむ、スーパースターっぽい。

新作を携えてのワンマン・ツアーは、12/6の名古屋ell FITS ALLを皮切りに、12/8に大阪・心斎橋MUSE、12/17に東京・渋谷O-EAST、12/22には福岡DRUM Be-1というスケジュールで行われる予定。なお、年の瀬12/29には、千葉・幕張で行われるCOUNTDOWN JAPAN 11/12の2日目にも登場する予定だ。(小池宏和)
back number@恵比寿リキッドルーム

セット・リスト
1:こぼれ落ちて
2:半透明人間
3:重なり
4:海岸通り
5:はなびら
6:思い出せなくなるその日まで
7:幸せ
8:リッツパーティー
9:スーパースターになったら
10:春を歌にして
11:stay with me
12:花束
13:いつか忘れてしまっても
EN-1:はじまりはじまり
EN-2:そのドレスちょっと待った
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