1981年に設立され、今年で30周年という節目を迎える音楽/映像ソフト制作会社VAPのアニバーサリー企画。抽選で招待されたオーディエンスが無料で入場できるというスペシャルなイベントだ。LAST ALLIANCEの安斉は出演中に「『電撃バップ』って、いい名前だよね。昔から大好きだった3コード・パンク・バンド、ラモーンズの名曲(原題:“Blitzkrieg Bop”)です」と語っていたが、確かにヒネリが効いている上にキャッチーで、最高のイベント・タイトルである。で、そんなロックなタイトルが示すように、出演者もVAPから作品を発表しているロック系アクトがずらりと揃い踏み。以下出演順に、
99RadioService(オープニング・アクト)
忘れらんねえよ(オープニング・アクト)
Fear,and Loathing in Las Vegas
LAST ALLIANCE
GALNERYUS
eastern youth
coldrain
OGRE YOU ASSHOLE
Pay money To my Pain
となっていた。やや重量級ロック成分が高め。それにしても、これだけ強力なライブ・アクトたちをまとめて無料で観ることが出来てしまう機会というのは滅多にない。オープニング・アクトの2組はそれぞれ20分、その後の出演者はそれぞれ30分という持ち時間ではあったけれども、素晴らしい半日を満喫させてもらった。
まずは今年メジャー・デビューを果たした99RadioServiceと忘れらんねえよのオープニング・アクト。今月からアニメのテーマ曲としてオンエアされている新曲“YOUTHFUL”などカラフルで伸びやかなサウンドを披露した99RadioServiceがトップバッターを務めたが、何しろ忘れらんねえよが出演者すべてを見渡しても余りに浮きまくった存在感を放ちまくっていて最高だった。「負け続けた男」のみが纏うことの出来るブルースをドタメシャに思うさまぶち撒け、また下世話さゆえのリアルと赤裸々ぶりが泣ける。逆恨み節全開の“慶應ボーイ”を披露すると柴田(Vo./G.)は、「どういうわけか今度、慶応大学の学園祭に出ることになりました。“慶應ボーイ”をぶちかましてやりますよ!」と語っていた。大笑いだなそれ。音楽性ではなく雰囲気が、まったく逃げ場のないブルースと丸裸のパンクが、どこかTheピーズと近いものを感じるバンドだ。
この日最初にフロア一面を沸騰させたのは、オートチューン使いのハイトーン・ボーカル=Soと、スクリーム&キーボード担当には飽き足らず暴れ回っているMinamiの2連砲が強力なFear,and Loathing in Las Vegasだった。トランシーなシンセ・サウンドとダンス・ミュージック混じりのスクリーモ・サウンドが実に現代的だ。そしてツイン・ボーカルのバンドが続きLAST ALLIANCE。2ビートの爆走モードからスタートして30分でエモ/パンクの神話へと到達してしまうようなパフォーマンスを見事に展開してみせた。全出演者の中で最もクラシカルなメロディック・メタル色を発揮していたのは10/5にニュー・アルバムを発表したばかりのGALNERYUSだ。テクニカルなプレイでは随一。ギタリストSyuはアニメタルにもいた人で、実は個人的にこの人が参加した『V』が好き(VAP作品じゃないけど)。そしてボーカリストはMasatoshi“SHO”Onoこと小野正利である。衰え知らずな芯の強いハイトーン・ボイスにはつくづく頭が下がる。
「おじさんですよ。はじめのきっかけってのが掴めないんだよな。やっていいんですか?」と吉野(Vo./G.)がトボケたことを言いながら、直後に放たれる“ドッコイ生キテル街ノ中”のファンファーレのような爆音イントロで観る者を吹き飛ばすeastern youth。今年のアルバム『心ノ底ニ灯火トモセ』収録曲をはじめVAP移籍後の楽曲を中心にした5曲だったけれど、今のイースタンは何も飾らないロックが気高く鳴るという点で更に極まっている。そしてラスベガスに負けず劣らず、オーディエンスを巻き込んだ狂騒を生み出していたのはcoldrainである。美メロありスクリームありのハイブリッドなヘヴィ・ロックを、スケルトン・マイクに齧りつくようにして激しいヘッド・バンギングを交えながら乗りこなしてゆくMasato(Vo.)。モッシュサークルやクラウドサーフといったフィジカルなリアクションで応えてゆくオーディエンスの熱狂ぶりも凄かった。
ところがそういった重量級アクトとはまったく趣の異なる轟音で、オーディエンスを呑み込んでしまったのがOgre You Assholeである。かつてのオルタナティブなポップ・センスが強靭なグルーヴの中に落とし込まれ、とりわけミニマルに展開しながら凄まじい音の壁を構築してゆく“ロープ(Long Version)”の恍惚としてしまうような美しさには震えた。なんかますます孤高の道を歩んでいるのだけれど、目を離すことが出来ない。そんなバンドへと成長を遂げているオウガである。
この日、トリを務めたのはPay money To my Painであった。このバンド名にして無料イベントのトリなわけだが、そんなことはどうでも良くてこの日のPTP、中でもKの鬼気迫るようなパフォーマンスには度肝を抜かれた。いくら短めのセットとは言えそんなに飛ばして大丈夫か、と観ている側がハラハラしてしまうほどのスクリームを轟かせ、かと思えば力強く伸びやかな歌もきっちり届けてくれる。「平日なのにこんなに集まってくれてありがとうございます。VAP一同嬉しいです。恥ずかしいことのないように最後まで頑張ります」。そんな堂々とした引き受けっぷりに、フロアも大シンガロングを巻き起こしながら最高潮へと上り詰める。アンコールに応えて披露した“This life”まで、この上ないほど見事なクライマックスを描き出していた。
そんな頼もしいまでのPTPの引き受けっぷりを観て、思ったのだ。なぜ、企業の30周年を記念するイベントに、例えばポップスの大物シンガーではなく、これからの時代を担う若手グループが、とりわけロックという若者文化を代表するようなアクトが集められたのか、と。『電撃バップ』の公式HPには、VAP社長・平井氏による「創業30周年を迎えて」という言葉が寄せられている。そこでは今日の状況の厳しさが率直に述べられた上で、《今年を“変革の年”と位置づけました》と語られていた。つまり『電撃バップ』もまた、未来に向けて、これからを生き変革を担う人々に広かれたイベントだったのだろう。素晴らしい企画だった。今後も多くの素晴らしい作品が紹介されまた、『電撃バップ』がvol.2、vol.3と開催されることも期待していたい。(小池宏和)
セット・リスト
■99RadioService
1:know-it-all
2:parallel hearts
3:YOUTHFUL
4:RADIO
■忘れらんねえよ
1:僕らチェンジザワールド
2:ドストエフスキーを読んだと嘘をついた
3:慶應ボーイになりたい
4:北極星
5:忘れらんねえよ
6:CからはじまるABC
■Fear,and Loathing in Las Vegas
1:Chase the Light!
2:Jump Around
3:Believe Yourself
4:Love at First Sight
5:Stray in Chaos
6:Shake Your Body
■LAST ALLIANCE
1:LAST ALLIANCE
2:Everything is evanescent
3:WEDGE
4:HEKIREKI
5:疾走
6:WING
7:剣戟の響き
8:片膝の汚れ
■GALNERYUS
1:TEAR OFF YOUR CHAIN
2:FUTURE NEVER DIES
3:A FAR-OFF DISTANCE
4:DESTINY
■eastern youth
1:ドッコイ生キテル街ノ中
2:靴紐直して走る
3:尻を端折ってひと踊り
4:一切合切太陽みたいに輝く
5:荒野に進路を取れ
■coldrain
1:Final Destination
2:To Be Alive
3:Die Tomorrow
4:Maze
5:Rescue Me
6:We're not alone
■OGRE YOU ASSHOLE
1:フェンスのある家
2:二つの段階
3:ロープ(Long Version)
■Pay money To my Pain
1:Wallow in self pity
2:Against the pill
3:Paralyzed ocean
4:From here to somewhere
5:Another day comes
6:Pictures
7:Weight of my pride
EN:This life