ガールズ @ 渋谷duo Music Exchange

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ガールズ @ 渋谷duo Music Exchange
ガールズが、全く違うバンドになっていた。いや、ガールズが「初めてバンドになった」と言ったほうが正確かもしれない。2年前の初来日公演、昨年のサマーソニック出演を経てガールズにとって3度目の来日となった今回のステージ、最大の変化はクリスとJRがついにパーマネントなバンドを手に入れたということだ。

JRがかき集めたガジェットな機材でレコーディングされ、「デモ・テープのようだ」と評されたデビュー・アルバム『ALBUM』時代の彼らはもちろん、ステージ上においてもそのローファイな世界観を完遂していて、初来日の原宿アストロホール公演も喩えるならヘロヘロヨレヨレな演奏の隙間から零れ落ちるラフダイアモンド、みたいなものだった。続くEP『BROKEN DREAMS CLUB』で彼らは初めてスタジオ・レコーディングを経験し、サウンドは飛躍的にハイファイ化したわけだが、その時点においてもガールズは未だにクリスとJRのふたりだけのプロジェクトだった。しかし、彼らは最新作『FATHER,SUN,HOLY GHOST』において初めて一枚まるごと同じメンバー、ひとつのバンドでのレコーディングを実現した。これはスタジオ・レコーディングという環境の整備よりもさらにドラマティックな効果をガールズにもたらしたようで、その成果を問う場となったのが今回のduo Music Exchange公演だったのだ。

開演前のステージに目をやると、赤と白を基調とした花(バラやガーベラ、ひな菊等)がマイクスタンドやアンプの上に無造作に飾られている。その花々を柔らかな黄金色の照明がぼんやりと浮かび上がらせ、ノスタルジックでどこか切ないガールズの世界が生まれている。そんなステージに登場するのはクリスとJRを含む総勢5人。ギタリスト、ドラマー、キーボードの3人が新たなガールズのメンバーということになる。そうして始まった一曲目は“Laura”。繰り返しになるが、のっけからガールズがちゃんと「バンドやってる」ことに驚かされてしまった。“Heartbreraker”、“Love Like A River”とメロディ主体でビートが跳ねるナンバーが続いたこともあって、バンドのタイトなアンサンブルを十二分にアピールするスターターだ。続く“Alex”に至ってはクリスの歌メロをまんまギターが並走する、という荒技まで披露する。

ガールズ @ 渋谷duo Music Exchange
ガールズ @ 渋谷duo Music Exchange
クリスの歌声が演奏の中で徐々に孤独を深めていく、その美しさと寂しさを肝としていたかつてのガールズのライヴとは全く異なり、クリスの歌をあらゆるアプローチで支えるバンドが常に傍らにいる、クリスの歌が秘めた美しさと寂しさを内包し許容する逞しい肉体がある、この意味はあまりにも大きかった。ガールズはバンドを得たことで楽曲のレンジを一気に広げただけでなく、メランコリィの所在を具体化させて昇華するという、『ALBUM』時代の彼らには考えられなかった境地に立っていた。ステージ上のクリスも未だかつてないほど楽しそうで、まるでセッションするようにドラマーやキーボードと向かい合って弾いたり、バンドのいちギタリストみたいにギターをちょっと格好つけて弾いてみたり、存分に新ガールズの「バンドっぽさ」を謳歌しているように見えた。

中盤のハイライトになった“Die”、レッド・ツェッペリンとブラック・サバスを足して2で割らないようなヘヴィリフを、クリスが彼の代名詞でもある超ハイポジで三味線みたいな手つきで弾きまくる様はシュールなモダン・アートを見ているようだったけれど、このバンドの現時点における最大出力を「どうだ!」といわんばかりに見せつけられる展開が頼もしすぎた。そんな“Die”が新生ガールズのフィジカルの強度を証明したナンバーだったとしたら、本編ラストの“Vomit”と“Morning Light”は新生ガールズのより内的な逞しさを証明するナンバーだったと言っていいだろう。ハイ&ロウの落差、絶望の淵から立ち上がり希望へと歩き出すメタファーのようだったこの2曲のパフォーマンスは、「愛とは与えられるものじゃない。自ら勝ち取るものだ」とついに語った直近のクリスの心境とまんまリンクしていたように思う。

ガールズ @ 渋谷duo Music Exchange
アンコール1曲目の“Summertime”はクリスの弾き語りナンバーで、轟音がウォッシュアウトされたそこに響く彼の歌声は変わらずか細く危うげで、これはこれでもちろん素晴らしかった(というかもちろん感涙でした)。そしてラストは“Hellhole Ratrace”。「泣きたくない、死にたくない」という悲痛な叫びが何度も何度もリフレインしていく、初期ガールズの孤独の魂を象徴するこのナンバーが、かつては厭世と絶望の色を帯びてダウンスパイラルしていったこの壮大なサイケデリック・ナンバーが、確かな胎動、鼓動を演出するリズム隊に導かれて光のカタルシスの中へと突き進んでいく様は、あまりにも感動的だった。(粉川しの)


セットリスト

1.Laura
2.Heartbreaker
3.Love Like A River
4.Alex
5.Darling
6.My Ma
7.Die
8.Honey Bunny
9.Saying I Love You
10.Broken Dreams Club
11.Lust For Life
12.Vomit
13.Morning Light
- encore -
14.Summertime
15.Jamie Marie
16.Magic
17.Hellhole Ratrace
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