『I’M JUST A DOG TOUR ‘11』の赤坂ブリッツにおける追加公演『“Blitzkrieg Bop”』ということで、客入れSEにはラモーンズのナンバーが並べ立てられる。まさにロックンロールど真ん中。あ、これ、そもそもチバユウスケが昔から使っている決め台詞だった。立ち込める熱気の中に鳴り響くのは、お馴染みの開演SE“シックスティーン・キャンドルズ”である。安っぽい煽り文句をすべて振り切って、いきなりケツを蹴り上げられてしまうようなオープニングが凄い。“6つ数えて火をつけろ”の豪快なアンサンブルをフジイケンジのギターが更に引っ掻き回し、パーティの幕開けを告げる“Buddy”ではチバでしかありえないロックンロール・スポークンワーズが、フロアに向けてショットガンのように撃ち込まれる。前置き無用の狂騒を思うさま叩き付けることで、瞬く間にThe Birthdayが掌握する時間と空間を作り上げてしまった。
アルバム『I’M JUST A DOG』のオープニング・ナンバーである“ホロスコープ”は、フジイのタイトなこと極まりないリフにヒライハルキのベースが食らいつくようにして鳴り始める。そしてルーズなロックンロールの“カレンダーガール”と以降は過去作をちりばめたセット・リストが展開されてゆくわけだが、フジイ加入前のThe Birthdayには、当時の顔ぶれだったからこそ生まれたであろう曲想の数々が、それゆえの名曲があった(だから、オリジナル・アルバム未収録曲をコンパイルした昨年の『WATCH YOUR BLINDSIDE』も改めて驚かされるほど奥行きのある素晴らしい作品になった)。新ギタリストであるフジイがそこに持ち込んだものは何かと言えば、グゥの音も出ないほどの100点満点のギター・フレーズ、ということになる。鼓膜に触れる瞬間に、「それしかない」という手応えがある。現実には音楽に得点をつけることは出来ないから、意外性のある70点とか、ブッ飛んだ30点が退屈な100点を越えてしまうこともある。でも、The Birthdayにおけるフジイの嵌り具合というのは、ちょっと尋常ならざるものがあるのだ。
そのタイトな音選びとタッチは、生き様として己に課して来た頑ななプレイスタイルというのとも違って、技術や経験を一撃の中に落とし込んでみせるようなものだ。それが例えば、“2秒”や“愛でぬりつぶせ”といった、大人びた視界を獲得しつつもワイルドな語り口を見失わないチバの歌とせめぎあう。音も言葉もアダルトなのに、鋭く突き刺さる。ブルージーなのにキレ良く転がってみせる“シャチ”の感触などは、往年のファンにとってもフレッシュに響くものだろう。長きに渡るファンから若いファンまで、等しくロックンロールの興奮をもたらし、ロック・キッズにしてしまう奥義のようなバンド・サウンドと歌が、ここにはある。
スケールの大きなアンサンブルでがっちりと届けられる“LUST -チェリーの入ったりんご酒を見て想うこと-”から、“爪痕”へと連なるエモーショナルな展開がまた素晴らしかった。記憶を重ねた分だけエモーションが濃くなってゆく。“SとR”はまるでキュウちゃんのテーマ・ソングのようだな。彼は今でもSRに跨がっているんだろうか。「レッドアイ、プリーズ!」とチバがオーダーを飛ばしてグラスが運び込まれ、個人的に『I’M JUST A DOG』の中でも特にお気に入りのナンバーのひとつである“Red Eye”だ。スウィンギンなジャンプ・ブルースが、混沌とした世界を我がままに切り裂いてゆく。フジイ→ヒライ→チバのブルース・ハープ→キュウちゃんとそれぞれにソロで見せ場を作ってゆくのも、この歌のテーマにフィットしている。その後に名曲“プレスファクトリー”が続くのだが、《サンドイッチに トマトはさ 入れないでほしいね》のくだりが“Red Eye”と連なっている感じでおもしろい。
オーディエンスのシンガロングを巻く“OWTLAW II”の後、今回のセットの中では“LUST~”と双璧を成すエモーショナルな心象風景“シルエット”である。新しい歌が差し出されるたびに幾度となく思い知らされてきたことだが、チバの言葉選びはつくづく凄い。たとえチバユウスケの喉を持っていたとしても、誰もチバユウスケにはなれないだろう。広大な言葉の大地に片手を突っ込んで埋蔵金を掘り当ててしまうような、自らの喉のための言葉選びのスキルをチバは持っている。“涙がこぼれそう”の歌い出しをそっくりオーディエンスに委ねたチバは《俺さ 今どこ?》に続いて「赤坂―!!」と叫ぼうとするのだが、「アサカ……間違えた! アサカサって言おうとしちゃった!」とあの声で正直申告するので、場内は爆笑と囃し声の渦に。むしろこれが盛り上がりに拍車を掛ける形となった。そして本編のクライマックスは、“なぜか今日は”と“READY STEADY GO”という、現行メンバーによる最もスリリングなアレンジを立て続けに披露してフィニッシュする。
2011年に響き渡る“ALRIGHT”から、《HAPPY BIRTHDAY TO YOU/どっかの誰かさんに》とThe Birthdayの行く道を照らし出す“BABY YOU CAN”のアンコールも感動的であった。更にはダブルアンコールでキュウちゃんが先行して登場し、賑々しいドラム・ソロで3人を迎え入れてコール&レスポンスで打ち上がる“ローリン”。まだ止まらない、トリプル・アンコールの“Nude Rider”では、曲中のブレイクでフジイが「トーキョー!! 『I’M JUST A DOG TOUR』24本目、みんな来てくれてありがとう! また遊びに来てね!」と景気良く挨拶をかまして、あっという間の2時間超ライヴは幕を閉じた。あれ、そう言えば新作タイトル曲の“I’m just a dog”だけやらなかったな、と会場を出るときに思ったが、大した問題ではない。最高のロックンロールが鳴っている場所は、ここに来た自分は絶対に間違っていない、と思わせてくれる。(小池宏和)
セット・リスト
1:6つ数えて火をつけろ
2:Buddy
3:ホロスコープ
4:カレンダーガール
5:シャチ
6:2秒
7:愛でぬりつぶせ
8:SATURDAY NIGHT KILLER KISS
9:LUST -チェリーの入ったりんご酒を見て想うこと-
10:爪痕
11:SとR
12:Red Eye
13:プレスファクトリー
14:OWTLAW II
15:シルエット
16:涙がこぼれそう
17:なぜか今日は
18:READY STEADY GO
EN1-1:ALRIGHT
EN1-2:BABY YOU CAN
EN2:ローリン
EN3:Nude Rider