9月27日・下北沢CLUB Queでのツアー初日以降、各会場によってそれこそアメーバのように曲目と構成を変えてきた今回の『TOUR 2011“αβ+1”』。最新作『still a Sigure virgin?』から披露されたのは“I was music”“a symmetry”“illusion is mine”の3曲のみ、というこの日のセットリストからも、内なる叫びと暗黒の中から引きずり出したこれまでの楽曲群をもう一度カオスの中に投げ込み、その音のマグマの中から新たなる時雨像を築き上げようとする試みであることが窺える……が。何より壮絶なのはその1つ1つの音と声の強度だ。神経を切り刻むような“COOL J”のリフ、345の極太ベースとピエール中野のツイン・ペダルでフロアを激震させた“DISCO FLIGHT”、熾烈なカッティングの果てに激情の極点を描き出す“a symmetry”、触れる者すべてを音でなぎ倒すような“テレキャスターの真実”のコードストローク……突き上がる拳とダンスとクラウドサーファーひしめく熱狂空間へと満場のフロアを変えてみせるその1つ1つのプレイが、音が、あまりにも破壊的で強靭で美しいアートそのものとしてこの場に存在していた。
ギター/ベース/ドラムという、ロックンロールの基本中の基本である3ピースのフォーマットでありながら、凛として時雨というバンドが提示した音楽はどこまでも「異物」だったし、悲鳴と警告を音楽に編み上げたようなサウンドスケープは決定的な「異世界」として僕らを魅了し続けてきた。その音像が、昨年にはさいたまスーパーアリーナの、そして今年は国際フォーラム ホールAの巨大な空間を舞台に、モンスター級の壮絶な破壊力を伴った「ロックという名の異世界」を描き出してきた。しかし……その爆心地で時雨の3人が見せていたのは、スーサイダルでブルータルなロックの支配者……ではなく、むしろ魂の痛みや軋みと真っ向から向き合うからこそ、それをスーサイダルでブルータルなロックに変えざるを得なかった3人の「人間」としての表情そのものだった。時雨の描いてきた壮絶なロックは、「ここではないどこかの異世界」などではなく、「今、ここ」に渦巻いている僕らの心の音である――ということを、3人の音楽世界の核心にオーディエンスを招き入れるような距離感のこの日のアクトが、そして自らの混沌をよりクリアに鳴らし切るように炸裂した新曲が、すべてを如実に物語っていた。
蒼きイメージの湖底で響くような345の歌声が印象的な“illusion is mine”、「久々にアコースティック・ギターの曲をやります」というTKの言葉から流れ込んだ超絶アコギ・ストロークの宝庫“Tremolo+A”、聴く者のありとあらゆるセンチメントとルサンチマンを燃やし尽くすように真っ白にスパークする“夕景の記憶”のサウンドとTKの咆哮……ストイシズムの極致の如きシリアスな演奏の後、「こんばんは! 恵比寿リキッドルームへようこそ!」というピエール中野の絶叫から一転、男気と悪ノリあふれまくるコール&レスポンス大会へ突入するギャップがまた心地好い。「無事にツアー・ファイナルを迎えることができました! 記念にギター弾き語りを……」と言って嵐“A・RA・SHI”や湘南乃風“純恋歌”を歌い上げ(“純恋歌”ではご丁寧にミラーボールまで回してみせる念の入れようだ)、「みんな調子はどうだい! 『セイ、バイブス!』って言ったら『バイブス!』って言ってくれよ! しばらくコール&レスポンスできないからな!」と「バイブス!」「タマスジ!」「リキッドルーム!(これはB'z“ultra soul”調で)」「チョコレイト!/ディスコ!」「We are!/X!」と次々にコール&レスポンスをキめ、極めつけは子供番組でお馴染みの“ぐるぐるどっかーん”大合唱でリキッドルームを埋め尽くす亜空間DJぶり。さすがとしか言いようがない。そのまま流れ込んだピエールの爆裂ドラム・ソロから、再び“JPOP Xfile”でフロアを瞬間沸騰させ、“Telecastic fake show”“感覚UFO”を連続投下!
[SET LIST]
01.nakano kill you
02.想像のSecurity
03.COOL J
04.DISCO FLIGHT
05.I was music
06.knife vacation
07.a symmetry
08.テレキャスターの真実
09.ハカイヨノユメ
10.新曲
11.illusion is mine
12.Tremolo+A
13.夕景の記憶
[P'S CORNER ~DRUM SOLO]
14.JPOP Xfile
15.Telecastic fake show
16.感覚UFO
17.傍観