凛として時雨 @ 恵比寿リキッドルーム

凛として時雨 @ 恵比寿リキッドルーム
凛として時雨 @ 恵比寿リキッドルーム
凛として時雨 @ 恵比寿リキッドルーム
凛として時雨 @ 恵比寿リキッドルーム
リキッドルームに渦巻く熱気を切り裂くように響く“nakano kill you”のギター・サウンドとTK&345の超高音スクリーム! そのまま“想像のSecurity”“COOL J”“DISCO FLIGHT”と1曲1曲焦燥感とノー・フューチャー感のカタマリの如き楽曲を塗り重ねながら、そこから聴く者すべての心にとめどない生への欲求を掻き立てていく3ピース・ロック・アンサンブルの爆発力!……初のホール・ツアー『VIRGIN KILLER SUICIDE』、福岡(w/ストレイテナー)・大阪(w/BOOM BOOM SATELLITES)・東京(w/CHARA)の3都市開催となった自主企画ツーマン・ライブ『トキニ雨#13~Tornado Edition~』に続く凛として時雨の今年3本目のツアーであり、オーディエンスとの超接近戦とも言える全国ライブハウス・ツアー『TOUR 2011“αβ+1”』ファイナル=恵比寿リキッドルーム公演は、巨大なスケール感と一撃必殺の切れ味を誇るその音の爆心地の風景をーーその正体をまざまざと見せつけるものだった。そして、だからこそこの日のアクトは、時雨の3人のミュージシャンとして/表現者としての必然性を改めて指し示すものでもあったのだ。

9月27日・下北沢CLUB Queでのツアー初日以降、各会場によってそれこそアメーバのように曲目と構成を変えてきた今回の『TOUR 2011“αβ+1”』。最新作『still a Sigure virgin?』から披露されたのは“I was music”“a symmetry”“illusion is mine”の3曲のみ、というこの日のセットリストからも、内なる叫びと暗黒の中から引きずり出したこれまでの楽曲群をもう一度カオスの中に投げ込み、その音のマグマの中から新たなる時雨像を築き上げようとする試みであることが窺える……が。何より壮絶なのはその1つ1つの音と声の強度だ。神経を切り刻むような“COOL J”のリフ、345の極太ベースとピエール中野のツイン・ペダルでフロアを激震させた“DISCO FLIGHT”、熾烈なカッティングの果てに激情の極点を描き出す“a symmetry”、触れる者すべてを音でなぎ倒すような“テレキャスターの真実”のコードストローク……突き上がる拳とダンスとクラウドサーファーひしめく熱狂空間へと満場のフロアを変えてみせるその1つ1つのプレイが、音が、あまりにも破壊的で強靭で美しいアートそのものとしてこの場に存在していた。

ギター/ベース/ドラムという、ロックンロールの基本中の基本である3ピースのフォーマットでありながら、凛として時雨というバンドが提示した音楽はどこまでも「異物」だったし、悲鳴と警告を音楽に編み上げたようなサウンドスケープは決定的な「異世界」として僕らを魅了し続けてきた。その音像が、昨年にはさいたまスーパーアリーナの、そして今年は国際フォーラム ホールAの巨大な空間を舞台に、モンスター級の壮絶な破壊力を伴った「ロックという名の異世界」を描き出してきた。しかし……その爆心地で時雨の3人が見せていたのは、スーサイダルでブルータルなロックの支配者……ではなく、むしろ魂の痛みや軋みと真っ向から向き合うからこそ、それをスーサイダルでブルータルなロックに変えざるを得なかった3人の「人間」としての表情そのものだった。時雨の描いてきた壮絶なロックは、「ここではないどこかの異世界」などではなく、「今、ここ」に渦巻いている僕らの心の音である――ということを、3人の音楽世界の核心にオーディエンスを招き入れるような距離感のこの日のアクトが、そして自らの混沌をよりクリアに鳴らし切るように炸裂した新曲が、すべてを如実に物語っていた。

蒼きイメージの湖底で響くような345の歌声が印象的な“illusion is mine”、「久々にアコースティック・ギターの曲をやります」というTKの言葉から流れ込んだ超絶アコギ・ストロークの宝庫“Tremolo+A”、聴く者のありとあらゆるセンチメントとルサンチマンを燃やし尽くすように真っ白にスパークする“夕景の記憶”のサウンドとTKの咆哮……ストイシズムの極致の如きシリアスな演奏の後、「こんばんは! 恵比寿リキッドルームへようこそ!」というピエール中野の絶叫から一転、男気と悪ノリあふれまくるコール&レスポンス大会へ突入するギャップがまた心地好い。「無事にツアー・ファイナルを迎えることができました! 記念にギター弾き語りを……」と言って嵐“A・RA・SHI”や湘南乃風“純恋歌”を歌い上げ(“純恋歌”ではご丁寧にミラーボールまで回してみせる念の入れようだ)、「みんな調子はどうだい! 『セイ、バイブス!』って言ったら『バイブス!』って言ってくれよ! しばらくコール&レスポンスできないからな!」と「バイブス!」「タマスジ!」「リキッドルーム!(これはB'z“ultra soul”調で)」「チョコレイト!/ディスコ!」「We are!/X!」と次々にコール&レスポンスをキめ、極めつけは子供番組でお馴染みの“ぐるぐるどっかーん”大合唱でリキッドルームを埋め尽くす亜空間DJぶり。さすがとしか言いようがない。そのまま流れ込んだピエールの爆裂ドラム・ソロから、再び“JPOP Xfile”でフロアを瞬間沸騰させ、“Telecastic fake show”“感覚UFO”を連続投下!
凛として時雨 @ 恵比寿リキッドルーム
「こんなにたくさんの方が来てくださって、本当に嬉しいです。凛として時雨でした」という345の挨拶の後、圧倒的なステージを締め括った楽曲は、ひときわヘヴィなスロウ・ナンバー“傍観”。《僕になりすましている自分を ゼロというナイフで切り裂きたい》という冷徹な言葉、そしてすべてを振り絞るように壮麗に響き渡る3人の渾身の轟音とせめぎ合う《僕は知らない 僕は見えない 僕は汚い 僕は消えたい》のリフレイン……轟々と鳴り響くフィードバック・ノイズの中、345が、ピエールが、そして何かに憑かれたようにテレキャスをかき鳴らしまくったTKが姿を消して……終了。むせ返るほどの熱気と、雷を目の前にしたような緊迫感と痺れが入り混じるフロアに、アンコールの声はまったくと言っていいほど湧き起こらない。「時雨がアンコールをやらないことをほぼ全員が知っている」という以上に、この日のアクトが描き出した濃密な世界が、圧倒的な厳粛さとともに完結したことを、この場にいた誰もがその音と表現を通して身をもって感じていたのだろう。最高のロック・アクトだった。やがて見せてくれるであろう「その先」の姿が、今から楽しみで仕方がない。(高橋智樹)


[SET LIST]
01.nakano kill you
02.想像のSecurity
03.COOL J
04.DISCO FLIGHT
05.I was music
06.knife vacation
07.a symmetry
08.テレキャスターの真実
09.ハカイヨノユメ
10.新曲
11.illusion is mine
12.Tremolo+A
13.夕景の記憶
[P'S CORNER ~DRUM SOLO]
14.JPOP Xfile
15.Telecastic fake show
16.感覚UFO
17.傍観
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