神聖かまってちゃん @ 新木場スタジオコースト

すでにニコ生配信&オフィシャル配信でも伝えられている通り、神聖かまってちゃんの『26才の夏休みツアー』追加公演(現状まだツアー・ファイナル=12月23日:札幌PENNY LANE 24公演を残している)として行われた新木場スタジオコースト公演は、大混乱のうちに終了した。ここRO69にも掲載されていた初日=六本木ニコファーレ公演の様子と読み比べていただければ、稀代のお騒がせバンドぶりを誇るかまってちゃんのアクトの中でも、この日のステージがどれだけカオティックなものだったかがおわかりいただけると思う。が、その「何がどう大混乱だったのか」という点にこそ、かまってちゃんの他のバンドと異なる理想と野望が凝縮されていた。そんなライブだったと思う。

19時ほぼオンタイムで、まずゲスト・アクトのNATSUMENが登場。山本達久(Dr)が「この人(AxSxE)誰か知ってる? かまってちゃんの録音した人だよ!」という紹介にもほぼノー・リアクションだったところからも、いかにかまってちゃん×NATSUMENの顔合わせが「異色」を通り越して「?」としてこの日のオーディエンスに受け取られていたかがわかる。が、いきなりキング・クリムゾンと高速ファンファーレを直結したような“No Reason up to the Death”で満場のオーディエンスの度肝を抜いてみせる8人の変幻自在なアンサンブルとビートは、そんな「?」を「!」に変えていくのに十分すぎる衝撃に満ちていた。「どうもNATSUMENです! みんな、夏休みしてる?」という挨拶にキョトンとする会場の温度を「夏休みしてるうう?」と力技で上げてみせるAxSxE。「次は、正式タイトルではないけど、メンバー間で“夏休み”って言ってた曲を……あれ、違う?」といった調子でMCは終始ぐだぐだだが、いざ演奏に入った時の超絶プレイと爆発力、何よりギターの気迫一発で8人のアンサンブルと巨大な空間そのものを統率してしまう支配力には改めて驚かされる。ハードコア・フリージャズというかプログレ・オーケストラというか、不穏さも静寂もカオスも歓喜も1つの楽曲の中に配置し、トランペット/テナーサックス/アルトサックス/ギター×2/キーボード/ベース/ドラムの旋律を織り重ねた中から雄大なメロディを立ち上げてみせるセンスはさすがだ。「俺らは普通のロックやってるだけなんで。どっかで見かけたらよろしくお願いします」とAxSxE。ラスト“Natsu No Mujina”のビートに合わせてぴょんぴょん飛び跳ねるホイン(元BOATのAIN)。全神経を焼き尽くすようにギリギリとスパークする轟音! 見えない何かと闘うようにギターのネックを振り回し、肩から外したギターを倒してマイク掴んで叫びまくり、ビールをぶちまけ……と衝動の限りを出し尽くしてボロきれのようになって退場していくAxSxEに魅入っていたオーディエンスはやがて、魔法から解けたようにその背中に拍手を送っていた。

配信スタート予定の20時を過ぎ、20:20を回った頃、いよいよ神聖かまってちゃん登場……の前に、前説に立ったのはマネージャー劔樹人。「気分の悪くなった人がいたら、みなさんで助け合っていただいて……セルフ・プロデュース? いやトータル・プロデュースしていただいて」というMCで軽く場をあっためたところで、SEとともにステージ背後のヴィジョンに「最前女でうめつくされとる」「女大杉」「さんま御殿みてます」とニコ生のコメントががんがん流れ始め、いよいよメンバー登場! ドラム・セットから会場を見回して「わ! めっちゃいっぱいおる! 人がゴミのようだ! ありがとうございます!」と『ラピュタ』の名台詞を持ち出して喜びをあふれさせるみさこに、「どうもこんばんは!」(mono) 「すごい数ですねお客さん!」(ちばぎん)も続く。そして……VAIO片手にゆーっくりと姿を現しながら早速「『の子かわいい』じゃねー!」と悪態をつくの子。待ちわびたフロアにもヴィジョンにもあふれ返る歓喜の大歓声とコメント! 「やっぱ今日来てよかったっしょ! 言ったろ?」と不敵に笑うの子……そう、この時点までは、まだ「かまってちゃん必勝パターン」の空気の片鱗は残っていたのだ。

みさこの「よし、行きますか!」という掛け声を遮って、なおもニコ生のコメントをいじり倒すの子。「『レスよめ』? 読んでんじゃん!」「俺、途中で雑談配信するかんな!」と、危うくステージにいる4人(とサポート・ヴァイオリンのビビさん)までもが生配信の視聴者になりかけたのを、「新木場スタジオコースト、俺ら初めてですね」というmonoの言葉がようやく現実に引き戻す。「たぶんライブでやったことない曲」(mono) 「照明さん、冬の感じにしてください!」(の子)というコールから、1曲目はなんと“雨宮せつな”へ。だが、各パートのバランスがまだ馴染みきっていない音像に、場内にもコメント欄にも戸惑いが広がる。で、そんなコメント欄を見て、「『悪かった』? なんだこのやろ! 別のチャンネル観てろ!」「アニマル・コレクション(アニマル・コレクティヴのこと)なんか全然似てねーよ!」「『さんま御殿』なんか観てんじゃねー!」とさらにヤジを飛ばすの子。しかし、続く衝動逆噴射パンク“あるてぃめっとレイザー!”で大歓声と「888888888(パチパチ)」のコメントをあふれ返らせて勢いづいたところで、そのまま“ねこラジ”“レッツゴー武道館っ”とロックンロール・ナンバーを畳み掛け、フロアをがっつりうねらせてみせる。「お前ら、ビッグウェーブの波ができてんじゃねーか!」。満足げなの子。このライブ当日から、1月1日に行われる「重大発表」へ向けて特設サイトでカウントダウンが始まったことを受けて「これから重大発表があるらしいんですけど、とりあえず俺ら解散するんですよ(笑)」と軽やかにうそぶきつつ、“ベイビーレイニーデイリー”ではフロアのみならず場外のニコ生視聴者も「あえてーーーー」の文字の嵐ででっかい「シンガロング」に巻き込んでみせる図は実に爽快だ。

いつも通りのスカスカ感を差し引けば、演奏自体はそこまで悪くなかったし、“自分らしく”“制服b少年”と後半に進むに従ってかまってちゃんならではのグルーヴ感は増してきていた。の子のラップがスタジオコーストの空気をかき混ぜ、コメント欄には「4番が打てますように」「恋できますように」と星への願いが満ちた“夜空の虫とどこまでも”。「次はみんなと一体で曲を作っていきたいと思うんですけど、協力してくれますか!」というみさこの声に応えるように、おどろおどろしいの子の歌い回しとがっちりギアを合わせた「はーい先生!」の歌声がフロアに響き渡り、カオティックな極点へと昇り詰めた“算数の先生”。だが、monoの「あと2曲なんですけど……」というMCに「うそ! 俺5曲しかやってねーよ!」(実際はこの時点で9曲やってた)との子が答えたあたりから、どこかに転がり落ちるようにタガが外れていった。

“ゆーれいみマン”を歌い上げながら、ありったけの焦燥感をマイク・スタンドにぶつけてなぎ倒すの子。「やべ、目からなんか流れてきた」「の子いい顔」と賛辞がヴィジョンを駆け巡った“いかれたNEET”で本編終了……のはずが、他のメンバーが去ってからも1人ステージに残って「6曲しかやってねえじゃねえか!」と叫び回るの子。「『いい解散ライブだった』? ふざけんな! 『限界までやれ』? あたりめーだ! 何のためにスタジオコーストまで来たと思ってんだ! 熱い魂と魂のぶつかり合いから生まれる摩擦熱、メラゾーマが欲しいんだ!」と、ここだけなぜか演説のような口調で熱く語るの子に、驚き混じりの歓声が湧き起こっていく。そんな中、mono/ちばぎん/みさこも戻ってくる。「一応アンコールでーす!」とみさこ。この時点で22時近い時刻であることを気にしたみさことちばぎんがしきりに「や、もう時間が……」とアンコール1曲目“夕暮れメモライザ”に行こうとするところを、「時間なんかどうでもいーんだよ! 時間なんか存在しねーんだよ!」とさらに悪態で引き延ばすの子。続く“Os-宇宙人”のイントロではメンバーそれぞれ別の曲を弾き始めてぐしゃぐしゃになり「喧嘩配信キター」のコメントが流れる中、「『8888』な内容じゃねーよこんなもん!」との子の苛立ちも次第に募っていくのがありありと伝わってくる。「今日の重大発表って何だったの?」(みさこ) 「重大発表ないよ。『カウントダウンが始まったよ』っていうことで」(mono)という脱力なMCも、この場の妙な緊迫感をほぐすには至らなかった。そんな空気を、“友達なんていらない死ね”のの子のボコーダーがさらに煽るように響く。

そろそろ帰りの電車が気になる、でもまだ観たい、という想いが渦巻くオーディエンスが、スタッフに耳打ちされたらしいちばぎんの「あの、めちゃめちゃすぐやったら、あと2曲やっていいそうです」の声にうおーっと沸き立つ。が、それでも全然満足いかない様子のの子は「短えよ! 全然わけわっかんねーよくっそ! 金返せ!」とさらに常軌を逸した感情暴走ぶりを見せていく。
mono「じゃあ、“ロックンロール(は鳴り止まないっ)”を……」
の子「そういうのはアンコールでやればいいの!」
mono「アンコールだよ!」
の子「死んだらそういうの関係ないんだよ!」
そのままなんとか“コタツから眺める世界地図”へ雪崩れ込んだが、次の“天使じゃ地上じゃちっそく死”でアンコール終了という流れに納得いかないの子はすっかりやる気なし。《死にたいな》のダルな連呼と、ヴィジョンを埋め尽くす勢いの「しにたいなーーーー」のコメント大合唱(?)のシュールなコントラストを残して、mono/ちばぎん/みさこは退場。またも1人残って、何やら朗々と歌い回るの子。この時点で、時計は22時30分を回っていた。

再び3人がオン・ステージ。風邪で体調がすぐれないちばぎん、「すぐやったら、あと1曲だけやっていいそうです!」と伝える声にもさすがに疲労の色がにじむ。それでも「全然短えんだよ! あと10曲やるぞ!」と叫び散らすの子。「みんなが喜ぶ曲やろうよ」と言うmonoに「は? なんだそれ!」との子が突っかかる。の子とmonoが今にも掴み合わんばかりのテンションで睨み合いののしり合い……嫌な緊張感はあっという間に沸点を超え、の子がボディに拳を繰り出すのとほぼ同時に、monoのパンチがの子の顔面にクリーンヒット。慌てて2人を引き剥がすスタッフ。なおもの子をなじるmono。一方、口元を血に染めながら、子供かってくらいに顔をくしゃくしゃにして「痛くねえよお!」と泣きじゃくるの子――というところまでは、会場内外のファンも「ああ、またかよ」的な空気で見守っていたし、ヴィジョンのコメントを見ながらの子自身も「こんなのまた『茶番だ』とか言われんじゃねえか!」と言う余裕もあった。で、ひとしきり泣いて落ち着き(?)を取り戻したのか、「いや、スタッフのみんなにも迷惑かかるから……」となだめようとするメンバーに対して「そんなのどうでもいいんだよ!」となおも駄々をこねるの子。それを聞いて、ちばぎんとともに極力にこやかにライブの進行に務めていたみさこがついにキレた。「ここでライブやるために何人の人が関わってると思ってんだよクソ野郎!」。怒りを籠めてドラムを打ち鳴らすみさこ。今度はみさこに飛びかかろうとするの子――に対し、ドラムセットを飛び越えて掴みかかろうとするみさこ。再び懸命に止めに入るスタッフが、さすがにもう暴れる気力もなくぐったりした様子のの子を機材のように担いで退場。失望感を隠そうともせずにとぼとぼとステージを去るmono、ちばぎん、みさこ。

不穏などよめきが収まらない中、マネージャー劔氏が申し訳なさそうにステージに姿を見せる。「今日はちょっと、あの、これで終わり……です」。客出しのSEすら霞むほどのどよめきが起こる中、今度はちばぎんが登場。悔しそうな表情で、「『かまってちゃんだからこれで許してもらえる』とは思ってないんで。またライブ観に来てください」と一言一言絞り出すように告げて、22:43終演。駅へ急ぐ人たちの間に、拭いきれないモヤモヤ感を残しまくった一夜。劔氏のブログによれば、monoは以前骨折したところが腫れ、の子も足の指を骨折したかもしれないということで、終演後そのまま病院へ向かったそうだ。

ニコ生の配信を誰よりも面白がっていたの子自身が、明らかにこの日はニコ生のコメントに振り回されすぎていた。同じツアー内でも、初日の六本木ニコファーレや、直前に行われた11月27日の広島公演では、かまってちゃんの鋭利さと破壊力が十二分に発揮されていたようだが、この日はちょっとした熱意のボタンの掛け違いが混乱を招いた。バンドとしてファンの熱意に真っ正面から応えたいというメンバーの想いと、21世紀日本屈指のアナーキストとしてファンもシーンも世の中も丸ごと驚かせ裏切りながら最後には熱狂の渦に叩き込みたいというの子の想いが、最悪の形ですれ違ってしまった。しかし、だからといってニコ生配信やめて粛々とライブをやっていくバンドになるかといえば、そんなはずはない。ライブハウスの中も外も関係なく、フロアもコメントも一丸となって怒濤の狂騒空間を描き出していくこと、それによってロックもパンクもSNSも超えるほどのエキサイティングなコミュニケーションを生み出していくこと……の子の頭の中にはそんな理想型が明確にあるのだろう。だからこそ、ネットに自らの姿を曝し、ライブの最中に主観と客観を行き来して心を引き裂かれながら、己の理想とのギャップに焦り、もがいている。そう考えなければ、の子が見せていたあの天の邪鬼な苛立ちと涙の説明がつかない。『26才の夏休みツアー』はあと1本、23日の札幌公演を残している。ここで4人がどんな姿を見せてくれるのか。そして、本人たちもライブ中に繰り返し言っていた、カウントダウンの先にある「重大発表」は何か。今はただただ心待ちにしている。(高橋智樹)

セットリスト
1. 雨宮せつな
2. あるてぃめっとレイザー!
3. ねこラジ
4. レッツゴー武道館っ!☆
5. ベイビーレイニーデイリー
6. 自分らしく
7. 制服b少年
8. 夜空の虫とどこまでも
9. 算数の先生
10. ゆーれいみマン
11. いかれたNEET

アンコール
1. 夕暮れメモライザ
2. Os-宇宙人
3. 友達なんていらない死ね
4. コタツから眺める世界地図
5. 天使じゃ地上じゃちっそく死
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