岡村靖幸 @ SHIBUYA-AX

昨年9月に行った約4年ぶりのツアー『エチケット』のアンコール・ツアー『エチケット+(プラス)』の初日、SHIBUYA-AX。「アンコール・ツアー」ということになっているが、『エチケット』は東名阪全5本だったのに対し、今回は東名阪に加え仙台・札幌・名古屋・広島・福岡・新潟まで含めた全12本なので、こっちの方が本編っぽい気がしないでもないですが、とにかく「アンコール・ツアー」だし、アルバム『エチケット』2枚のリリース・ツアーであることは同じなので、前回とそんなに大きく内容は変わらないと思います。まったくおんなじではないででしょうが。終演後にばったり会った大根仁監督も、そうおっしゃってました。
って、なんで「思います」とか「おっしゃってました」とか書いているのかというと、私、前回のツアーも、夏の「SWEET LOVE SHOWER」も、観ていないからです。観られなかった、というより、「観なかった」という方が正しい。理由を端的に言うと、「観たい」という希望よりも、「観て、よくなかったらどうしよう」という恐怖の方が勝っていたからです。そのへんのことについては詳しく書き出すときりがないし、誰もそんなもん読みたくないと思うのではしょりますが、「なんじゃそれ」「ダメだこいつ」という扱いをされてもしかたないというか、されるべきだと自分でも思います。要は、逃げていたわけなので。
で、「SWEET LOVE SHOWER」やツアーを観た知人のみなさんから「本当にすごかった」「本当に完全復活だった」ときいて、めちゃめちゃ後悔したけどあとの祭りだし、自分のせいなので誰も責められない、という按配だったので、このアンコール・ツアーは、何か、ズルしたのにやり直しのチャンスを与えていただいたような気分でした。でも、観せていただきました。すみません。あ、12月31日のCOUNTDOWN JAPANへの出演に関しては、私の現場での業務上、モニターで断片的に観ることしかできなかったので、「観た」にカウントしていません。

で。ようやく、観た。1曲目が始まったところから、アンコールが終わって客電が点くまでの間ずっと、命まるごと胴上げされているような気持ちだった。
本当に完全復活だった。過去の復活の時とは違った。あの歌。あのメロディ。あのアドリブ。あのステップ。あのダンス。いつの間にか過去の映像の中でしか観ることができなくなっていた岡村ちゃんが目の前にいる。何か、現実のこととは思えない、という気すらした。
というようなことを書くと、細かいところで……たとえば「曲の中のキー高いところは、昔みたいに声が出なくなってて、歌い方変えてたじゃん」とか、「昔だったらCDでもライヴでもシャウト気味に歌ってたあの曲のあのフレーズ、抑えて歌ってたじゃん」とか、「ダンスに注ぎ込む総エネルギー量、昔より減ってない?」とか、揚げ足とられそうな気もするが、そんなこと全部ほんとにどうでもいいくらい、完全な復活だった。
ちょっと冷静になって書くと、岡村靖幸がコンスタントに音楽シーンにいた時代からは20年以上の月日が過ぎ去っているわけで、声の高さとか動きとか体力とかが、その当時と同じわけはない。岡村ちゃんに限らず、どんなミュージシャンだってそうだ。人間は動物なんだから。ただ、その、今の己の状況やコンディションでもって、いかに、当時のテンションや思想やメッセージ性を、できる限り最高の状態で伝えるか、ということが、今の岡村靖幸はできている。という意味で、完全復活なのだ、と思った。逆に言うと、その「今の己の状況やコンディションでもって」というところを冷静に考えないで、気合いとか勢いとかでもって無理矢理やってしまおうとしていたのが、かつての岡村ちゃんのライヴだったのかもしれない。だから、開演時間がとんでもなく押したり、ツアー途中でケガして延期になったりしていたのかもしれない。と、今、書いていて思いました。あくまで私の「思いました」ですが。

そして、やはり、岡村靖幸の代わりになる人は、昔も、今も、ずっと、誰も、いないのだなあ、ということを痛感した。そんなこと最初からわかってたつもりだけど、改めて、つくづくそう思った。そういえば、前述の大根監督、「岡村ちゃんが復活して、ハマケンの在日ファンクは俺にとって岡村ちゃんの代用品だったんだと気づいた」とか「だからもうあいつはいらなくなりました」とか以前から公言しているし、このライヴの終演後にも、観に来ていたハマケンに出くわして、「おお、ハマケン、よかったよなあ、やっぱ本物はすごいよな?」とか本人に直接言っていて、私でさえ「ちょっとちょっと」と思いました。笑ったけど。ただ、少なくとも、ハマケンに限らず、僕は誰にも岡村ちゃんの代わりを求めたことはないです。無理なので。あと、ハマケン本人も、そんな大それたことは考えていないと思う。

全然ライヴレポじゃないですね、これ。まあ、初日なのであんまりネタバレできないんだけど、「5曲くらいは曲名出していいですよ」って言われたので、それだけ書きます。
“だいすき”やりました。“あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう”やりました。“どぉなっちゃってんだよ”やりました。“カルアミルク”やりました。つまり、そのあたりの、「どうしてもやってほしい」「というかやってくんないと困る」曲は、かなりやってくれた、ということです。
あと、“モン・シロ”あたりの最近の曲もやってくれた。って全然最近じゃないか。出たの2004年だし。まあ、『家庭教師』までが「昔の曲」で、「禁じられた生きがい」以降は「最近の曲」ということです、私的には。

それから。今の岡村ちゃんがすごいのはわかった。でもそれ、結局は懐メロじゃん。現在進行形のアーティストじゃないじゃん。という批判の声に、何よりも、夏から公式サイトで無料配信中の最新曲“ぶーしゃかLOOP”の存在が勝っている、というのも、すばらしいと思う。やばすぎる、あの曲。岡村ちゃんの音楽の次のドアがバカーンと開いている、という意味でも、「こんな曲作れるミュージシャン、昔も今も未来もほかにいる? いないでしょ?」という意味でも。(兵庫慎司)
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