ボンベイ・バイシクル・クラブ @ 代官山UNIT

ボンベイ・バイシクル・クラブ @ 代官山UNIT - pics by Ryota Moripics by Ryota Mori
ボンベイ・バイシクル・クラブ @ 代官山UNIT
3作目のアルバム『ア・ディファレント・カインド・オブ・フィックス』が、UKチャート初登場6位という自己最高位をマークしたロンドンの4人組、ボンベイ・バイシクル・クラブ(以下BBC)。2009年の『BRITISH ANTHEMS vol.8』、及びジ・アンサリング・マシーンと帯同した『ニュー・ブラッド vol.83』以来の、2年ぶりとなる来日公演にして初ワンマンである。年明けから台湾、ジャカルタ、シンガポールと諸地域を巡ってきたアジア・ツアーを締め括る、ここ日本での一夜限りのステージ。デビュー以来、若い探究心の赴くままにミュージック・アドヴェンチャーの道を突き進んできた彼らが今、一体どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか。興味は尽きない。

ほぼ開演時間ジャストというところで、ファットなビートのヒップ・ホップがプレイされていたSEとミックスされるように、小気味好く跳ね上がるギターのループが響き渡り、すっと登場したメンバー4人がそのまま最新アルバムのリード曲“シャッフル”をプレイし始める。バンドは新作について、ダンス・ミュージックからの影響を公言していたが、それにしてもこのオープニングには多くのオーディエンスが意表を突かれたのではないだろうか。そりゃそうだろう。2年前には自己耽溺型のいかにも若者らしい、痛々しくてそれゆえに切実なUKギター・バンド然としていたBBCが、こんな洒落た真似をするなんて。続いてはスレンが4つ打ちのキックを繰り出し、ジェイミーがクリーン・トーンのギターを奏でる“ユア・アイズ”だ。新作の、ハイファイなサウンド指向が同時代性を捉え、バンド・キャリアの落とし所を見つけた部分が早くも発揮されている。オーディエンスは手を打ち鳴らして、そんなBBCに食らいついていった。

ボンベイ・バイシクル・クラブ @ 代官山UNIT
ボンベイ・バイシクル・クラブ @ 代官山UNIT
デビュー・アルバムの、ダイナミックな陶酔感を呼び込むビート・ポップ“ダスト・オン・ザ・グラウンド”を披露すると、フロントマンのジャックが「グッド・イヴニング、トーキョー! 戻って来れて嬉しいよ。ジェイミーは初めてだよ」と挨拶する。前回の来日時には、ジェイミーは残念ながら体調不良のため欠席したのだった。彼にとってはさしずめリヴェンジ来日でもあるというところか。ジャックとサポートのプレイヤーが2人がかりで重厚なシンセ・フレーズを折り重ね、メンバーの体が次第に激しいアクションを見せてゆく“バッド・タイミング”。「ずいぶん昔の曲だよ」とジェイミーが紹介してデビューEPに収録された“オープン・ハウス”と、BBCの世界に引き摺り込んで高揚感を募らせるステージが進められていった。美しいコーラスのリフレインが印象的な“リーヴ・イット”や、同期を用いた滑らかでファンキーなナンバー“ライツ・アウト、ワーズ・ゴーン”にも、悲嘆に暮れる情景がそのまま現代型のポップ・サウントにアップデートされた、最新作に寄せるBBCの自信を伺わせるパフォーマンスになっている。

再びジェイミーの曲紹介を経て、フォーキーな作風へのシフトがファンを驚かせたセカンド・アルバム『FLAWS』から、アコースティックな響きを含むトリプル・ギター編成の甘美なサイケ・フォーク曲“リンス・ミー・ダウン”が、そしてメンバーが揃ってカウントの声を上げ、ウエスタン/カントリーの疾走感に満ちたビートで転がる“Ivy & Gold”がプレイされた。そのままスレンのドラム・ソロで見せ場を作ってしまうのも面白い。今回の公演でセカンド作から披露されたのはこの中盤の2曲だけだったが、とても効果的なアクセントとして機能していたと思う。どんなことをやっても、BBCの音楽偏差値の高さは揺るがないということが伝わってくる。

ボンベイ・バイシクル・クラブ @ 代官山UNIT
新機軸のポップ・ダイナミズムを叩き付ける前半から、秀逸なアクセントを挟み込み、そして後半戦は、デビュー・アルバムからの楽曲群が数多く披露された。これが最高だった。エドの歪んだベース・フレーズが導く“イヴニング/モーニング”、そして個人的にも大好きな、ジェイミーによる確信のギター・リフが轟き、ジャックの切々とした歌が届けられる1曲“キャンセル・オン・ミー”。伝えるべき表現に対し徹底的にひたむきで、それと同じくらいに自己中心的で、青臭く、垢抜けない。だからこそエモーションがくっきりと浮かび上がる。ジェイミー不在の2年前の来日では今ひとつ掴み切れなかったのだけれど、そもそもBBCとはこうだったのだ、という、デビュー・アルバムと同じ手応えを、ようやく得ることが出来た気がする。

静と動のコントラストでギター・バンドとしての表現力を存分に発揮する“ランプライト”、ドリーミーな女性コーラスと口笛が差し込まれる“ハウ・キャン・ユー・スワロー・ソー・マッチ・スリープ”、強烈なディストーションを効かせてコーラスと共に走る“マグネット”、そして右肩上がりにメンバーがアクションを大きくしながらポップの地平に着地する“ホワット・ユー・ウォント”。近年のUKロック・バンドの中には、冒険を恐れず、作品毎にガラリと作風を変えてみせるバンドも多く、そんな野心と自由な志が頼もしい。BBCもそんなバンドの中のひとつではあるし、冒頭で触れたように最新作はセールス面でキャリア最高の成果を挙げた。なのだが、実は彼らの表現するエモーションの源泉はデビュー時からまったくブレていないのだな、ということがこのステージ後半でわかった。

ボンベイ・バイシクル・クラブ @ 代官山UNIT
本編ラスト2曲を、アップリフティングな“オールウェイズ・ライク・ディス”とドラマティックな美曲が轟音へと連なる“ザ・ジャイアンティス”でフィニッシュ。アンコールには大振りなロック・ナンバー“ホワット・イフ”を叩き付けて、片時も熱の冷めやらぬまま今回のステージは幕を閉じた。セット・リストの流れも見事なステージであった。今後の、メキシコから始まる北米ツアーにおいては、こんなふうにしなやかに成長を遂げたBBCを見せつけて来て欲しい。巧みなソング・ライティングは元々の持ち味だし、あとはシンガロングを誘うような必殺曲がひとつでも生み出されれば完璧だ。BBCの次なる展開には、個人的にそんなところを期待してみたい。(小池宏和)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする