フローレンス・アンド・ザ・マシーン @ 赤坂BLITZ

フローレンス・アンド・ザ・マシーン @ 赤坂BLITZ - pics by Yoshika Horitapics by Yoshika Horita
フローレンス・アンド・ザ・マシーン @ 赤坂BLITZ
フローレンス&ザ・マシーンの、ついに実現した初来日公演である。ご存じの方も多いと思うけれど、フローレンスはデビュー・アルバム『ラングス』(2009)のタイミングでの初来日が止むなき事情で一度キャンセルになった経緯もあり、しかもその後の3年間で押しも押されぬ世界的大スターになったフローレンスの来日の仕切り直しはますます難しいんじゃないか?と思っていた。しかし、そんな事前の心配が完全に杞憂に終わったのが今回の初来日公演だった。何しろこの夜の赤坂ブリッツは見事にソールドアウト!ぎっちぎちに埋まったフロアには彼女の来日を3年待ち続けたファンの熱気が充満し、フローレンス&ザ・マシーンの初来日に相応しい華やかなムードが醸成されていった。

ショウの冒頭、まずはステージにフローレンス以外のメンバーが登場する。アブストラクトな弦の爪弾きが徐々にリフを形成していき、キーボードの不協和音に不規則なリズムが乗り、それがまた徐々にメロディを編み出していく、そんな深い森の奥から這い出してくるかのようなイントロの最後にフローレンスその人が遂に登場……う、美しい!まずは彼女のその完璧な美貌と、破格のオーラに圧倒されてしまった。最新のアーティスト写真だと強くて恐い女傑タイプの美女に見えるフローレンスだが、生で観る彼女はもっと柔らかくて可憐なイメージの人だ。白のシンプルなロングドレスの上に桜色の美しい着物の打ち掛けをはおったその姿は、まるでグスタフ・クリムトやアルフォンソ・ミュシャの絵から抜けだしてきたかのよう。足元は裸足だ。

フローレンス&ザ・マシーンの陣容は総勢8名、中でも抜群の存在感を放っていたのがステージ下手に置かれた大型のハープだ。美しい流線型を描くそのハープ、バックドロップに描かれたアール・ヌーヴォー調のデザイン、そしてアール・ヌーヴォーのミューズのごとき美貌のフローレンス……と、一見して極めて欧州的でエレガントな要素が配置されているステージだが、1曲目の“No Light, No Light”が始まった瞬間、その欧州的でエレガントな「額縁アート」的なムードが一気に情熱と胎動によってぶち破られていく。

フローレンスが歌の上手い人だというのは百も承知していたが、こんなにも声量があるソウルフルな歌い手だとは思わなかった。フローレンスの作る曲のベースにあるのはゴシックとニューウェイヴで、無茶苦茶重いバスドラのキックを筆頭にリズム隊がヘヴィなのがこのバンドの特徴でもあるが、その重量級のリズム隊がガチガチに固めるボトムと、フローレンスのハイトーンかつ大迫力の歌唱が舞う天上のギャップに早くも鳥肌が立つ。

しかも彼女のソウルフルな歌声はたとえばエイミー・ワインハウスやジャニス・ジョプリンのように「己の身をボロボロに削って声を震わせています」的な情念型・破滅型のそれではなく、もっとドライでマスキュリンな逞しさを感じさせるものだ。そんな彼女の歌声の逞しさ、そして歌声の逞しさに象徴される精神的な強さがフローレンス・アンド・ザ・マシーンのロック・バンド然とした佇まいの源になっている。スージー・スーやケイト・ブッシュら、UKが誇る天才女性アーティストの系譜上に位置するフローレンスだが、そんな先達と比べると彼女が「女性アーティスト」であることの意味はもっとニュートラルだし、むしろ彼女が凄まじく美しい女性である以上の意味はそこにはない。そう割り切れる彼女の「女」の情念の薄さ、ロックをやる上でのトラウマの薄さがすごく今っぽいなぁと感じるステージだった。

ショウの前半は最新作『セレモニアルズ』の特徴である壮大な構築型のナンバーが目玉となっていた。けっして音数が多いアンサンブルではないが、要所要所にがっちり杭を打つようなリズム隊と弦楽隊の織りなす繊細なドレープが、フローレンスの歌声をのびのびとどこまでも響き渡る広大な空間を築いていく。“Shake It Out”ではそんな緻密な構築を決壊させるかのごときどキャッチーなサビと同時にぴょんぴょん飛びはねながら歌い始めるフローレンスに煽られて、フロアから何度も何度もどよめきと歓声が沸き起こる。

後半はファースト・アルバム『ラングス』からのナンバーも散りばめられた、よりキャッチーかつロックンロールな展開になっていく。独楽のようにくるくる回りながら、打ち掛けの裾をひらひらさせながら、そして時にスキップしながら歌うフローレンスの顔には常に笑顔が溢れ、前半の麗人然とした雰囲気から一転、ロック・バンドを率いる姉御的なフレンドリーさを垣間見せている。ハープのイントロでスタートした“Dog Days Is Over”、そしてアンコール・ラストの“Spectrum”はそんな後半のハイライトだったと言っていいだろう。深い森の奥の神秘のイメージからスタートしたこの日のライヴ、最後に待ち構えていたのはどこまでも開けた広大な原野の開放感だった。(粉川しの)
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