カルツ @ 代官山UNIT

ニューヨークの大学で映画を学んでいたブライアン・オブリヴィオンとマデリーヌ・フォーリンの2人が、インターネット上でオリジナル楽曲3曲を発表したのは2010年のこと。作品は瞬く間に話題を呼び、メディアでは2010年ベスト・ニュー・アクトのひとつとして騒がれることになる。大きなバックアップも得ぬままスターの座に駆け上がってしまった2人は、リリー・アレンが興したレーベル〈In The Name Of〉の第1号アーティストとして契約を結び、2011年にはセルフ・タイトルのデビュー・アルバムをリリースした。バンド結成から2年での来日公演である。



オープニング・アクトには国内からOLDE WORLDEが招かれていたが、このブッキングは気が利いていて素晴らしかった。少年性を残した沼田壮平のヴォーカルが、甘く柔らかいバーズ風ギター・ポップから強力なバンド・サウンドで繰り出される美しい爆音までの間をくぐり抜けて来る。ロック・サウンドのライブラリから自由にアイデアを引き出し、しかも歴史の重さに絡めとられず想いを優れた旋律に集約させるという点で、アプローチは違えどカルツと同調するような現代的なパフォーマンスであった。



さて、いよいよカルツが登場である。ブライアンは裾を出した白シャツに細いタイをぶらさげ、マデリーヌは赤茶色のライダース・ジャケットにスカート姿。ライヴのサポート・メンバーはベース、ドラムス、キーボード兼ギターという5人編成でのステージだ。幻想的なイントロを経て、アルバム冒頭に配置されていたナンバー“Abducted”へと向かう。軽快なハンド・クラップを求めながらマデリーヌが歌い出すのだけれども、いきなり腹に響くベースとドラムスの音のバランスが、過剰に意図的でおもしろい。



フィジカル・リリースはされていないが、カルツがネット上で話題を呼び始めた頃にbandcampで発表していたナンバー“The Curse”。おどろおどろしく情念的なソウル・ナンバーで、ユニークなコンビネーションを聴かせる。かっこいい曲なのに、なんでアルバムには収録されなかったんだろう。そして一転、暖かくチャーミングなサウンドとメロディが溢れる、ガールズ・ポップ・コンシャスな“Never Heal Myself”へ。まるでガイド・メロディのようにユニゾンで鳴らされるグロッケンシュピールやキーボードの旋律が、なんか可笑しい。



ブライアンが初来日についての挨拶を済ませると、“Most Wanted”だ。曲調そのものはシンプルでポップなのに、相変わらずベース・ミュージックの類いのようなバランスが強烈である。フリフリッとポーズを決めて笑顔を見せるマデリーヌ。アルバムのジャケット・アートワークのように髪を振り乱して暴れ回るようなロック的なステージングを見せることはほぼ無いのだけれど、まあ間違いなく可愛いからいいか。



序盤から、正直に言えば懸念していたとおりに、マデリーヌの歌声は頼りなく届けられていた。彼女は、バンドが過剰な爆音を鳴らすほどに、それに拮抗しようとして声を張り上げる。技術や経験のソウルではない、環境の中で瞬発的に放たれるソウル。カルツのライヴ・パフォーマンスというのは、若者がバンドを始めて声を上げる、そのダイナミックな力学そのもののように感じられていた。



個人的に前半のハイライトだったのは、沸々と盛り上がるソウル・バラード“You Know What I Mean”だ。けたたましいキーボードが盛り込まれる展開が最高である。カルツは、世界にその名が伝わる最初のきっかけがそうだったように、やはりメロディの素晴らしさそのものが際立っている。マデリーヌとブライアンが交互にリード・ヴォーカルを務める“Bumper”では、ブレイク部で囃し声を浴びてご機嫌な素振りを見せていた。



“Never Saw The Point”や“Rave On”に続いては、レナード・コーエン作品にしてドン・ヘンリーやルーファス・ウェインライトのヴァージョンでも知られる名曲“Everybody Knows”。こうした名曲と並べても、カルツのオリジナル曲の素晴らしさは見劣りすることがない。そして“Walk At Night”では、シンセサイザーのループに2本のギターが掻き鳴らされる鋭利な爆音を繰り出してみせた。



クライマックスはやはりこの曲、“Go Outside”のイントロがオーディエンスの歓声を呼ぶ。マデリーヌの歌は音源とは異なってリヴァーブを噛まさずに届けられるが、カルト・リーダーのサンプリング・ヴォイスはしっかり盛り込まれていた(他の楽曲についてもそうだった)。カルツにとっては重要なコンセプトなのだろう。「アンコールはないから、しっかり盛り上がってくれよ」と告げるブライアンと、はしゃぐ素振りを見せるマデリーヌである。



レパートリー数は少なく、作品の大半とカヴァーを含めて12曲。演奏についても危ういところが見受けられたけれど、自分たちのアイデアで2010年代の世界を謳歌する、そのフレッシュなスタンスはしっかり伝わってくる。そんなステージであった。ラストはスペイシーなシンセ音と強烈なグルーヴで披露される“Oh My God”だ。予告通りに盛り上がりのピークを形成してみせる。こらマデリーヌ、最後の「ドモー!!」が一番ソウルフルだったぞ。(小池宏和)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする