ヴァクシーンズ @ リキッドルーム恵比寿

RO69の洋楽ライヴレポートを頻繁にチェックしている方ならお気づきかと思うけれど、年が明けて1月2月と鬼のような来日ラッシュが続いている。東京ではそれこそ連日のように新旧英米大小問わずの来日公演が行われていて、これだけ海外のバンドを連日連夜観ることができる状況はロック・ファン冥利に尽きるというものだが、同時にこれだけ来日が重なるともちろん会場が埋まらない公演だって出てくる。特に新規ファン、若いファンが多い新人バンドが単独来日の集客に苦しむのはよくある話だけれど、ヴァクシーンズの初単独来日となった昨夜は例外だったと言っていいだろう。恵比寿リキッドルームは見事にびっしり埋まり、まさに壮観。新人バンドの、特にUKのギター・バンドの初来日としては久々の盛況っぷりに嬉しくなってしまった。

事実このヴァクシーンズは、UKロックの苦戦が続いた2011年に殆ど唯一と言っていい大ブレイクを記録した新人バンドである。彼らのデビュー・アルバム『ワット・ディジュー・エクスペクテッド・フロム・ザ・ヴァクシーンズ?』は新人バンドが、と言うよりそもそもギター・ロック自体が聴かれなくなりつつあるかの国にあって、そのニヒリズムをシンプル&オーセンティックな直球UKギター・ロックで正面突破してしまった奇跡の一枚だった。そしてその彼らの勝利の興奮がUKインディ・スケールに留まることなく、きっちりここ日本のファンにも伝播しているのが確認できたのが、今回の単独来日だったのである。

ちなみにこの日のオープニングを飾ったのは前日には単独公演も敢行した新星ハウラー。米ミネアポリス出身の期待のロックンロール・バンドである彼らはヴァクシーンズのUKツアーにも帯同した弟分と呼ぶべき存在で、デビュー・アルバム『アメリカ・ギヴ・アップ』も間違いなしの名作なのでぜひ聴いてみてください。ここリキッドルームに限らず、だいたいオープニングアクトの演奏時間というものはバーフロアが賑わうものだけれど、ハウラーの演奏中はバーフロアが閑散としていたのも印象的だった。そう、ヴァクシーンズのファンの殆どはハウラーの段階から場内を埋めてフロアの温度を上げていたのだ。それだけヴァクシーンズとハウラーの親和性が高いということだろうし、それだけギター・ロックを真っ直ぐ愛するオーディエンスが集ったということなのだろう。本当に最高のお客さん達だった。そんなハウラーとヴァクシーンズのセットチェンジ中のBGMはビートルズ、そしてアンダートーンズの“Teenage Kicks”でおおおおっ!ともう一段階盛り上がったところでヴァクシーンズが登場だ!

ヴァクシーンズの長い長い初ワールドツアーの最終国となった日本公演の初日の初っ端を飾ったのは“Blow It Up”。オアシス級のメロディにフィル・スペクターばりのウォール・オブ・サウンドに加えてマッドチェスター風のリヴァーヴという、もうなんだか笑っちゃうほどギミックてんこ盛りのナンバーにも拘らず2分半ですぱっと終わる潔さに惚れ惚れする間もなく、そのまま手拍子からシームレスで転がり込んだ先の“Wreckin Bar”に至っては1分半で即着火!即バーンダウン!簡潔にもほどがある足取りであっさり空気を掌握していく反射神経、無駄を排除して正しいことしか行わない言い訳無用のひと筆描き感覚――そんなヴァクシーンズの特性、彼らがニヒリズムとモラトリアムのUKロックの現状を切り裂き一人勝ててしまった理由がのっけから100%証明されていく、文句無しのスターターである。

そんな“Blow It Up”から“A Lack Of Understanding”までの冒頭4曲は簡潔にまとまったひとつのブロックになっていたが、以降はそこに隙間や遊びが加わりほぐれていく、ライヴらしい即興を感じさせる内容へと徐々に移り変わっていく。オルガンが通奏する“Wetsuit”は聖歌のような奥行きを感じさせるプレイで、彼らの十八番のリヴァーヴも教会の天井への反響を思わせる。一方の新曲、その名も“Teenage Icon”はファスト&ラウドなパンクから切ない泣きメロへと展開していくナンバーで、ヴァクシーンズとしては新機軸のナンバー。ちょっとアンダートーンズっぽいと感じたのは冒頭で“Teenage Kicks”を聴いたからか。“Post Break Up Sex”、“All In White”はサイケデリックを強調したヴァージョンで、気づいた頃には冒頭のタイト&ショートな世界観からかなりかけ離れた壮大な世界がそこに広がっている。

ただしヴァクシーンズの音楽が面白い、と言うか凄いのは、前述のように彼らのタイト&ショートな楽曲の中には信じられないほど多くのギミックが詰め込まれているし、逆に彼らの壮大かつ長大なナンバーには信じられないほど大胆に「隙」が存在する。そう、それぞれの空間に対しての質量が本来はアンバランスなはずなのに、絶妙なバランスでそれぞれが正しくかたち作られている、それがヴァクシーンズの音楽がオーセンティックでありながらユニークな理由であるということを、改めて確認させてくれたのが今回のライヴだったのだ。

ダイバー続出でこの日最大の盛り上がりを記録した“If You Wanna”は再びソリッド簡潔なひと筆描きに戻っていく前述タイプのナンバーで、逆に本編ラストの“Family Friend”はアルバム中でも超異質な8分超えのナンバーだけあって大展開に大展開を重ねていく後述タイプのスーパー壮大なエンディングとなった。ほんとこのバンドは涼しい顔をして、「僕らはただシンプルにギター・ロックをやりたいだけなんだ」ってナイーヴそうな顔をして、実はとんでもなくクレバーなバンドなんじゃないかと思わせるエンディングだった。ヴァクシーンズは王道愚直にギター・ロックをやっていたらたまたまブレイクしてしまったラッキーなバンドではない。ヴァクシーンズはこの2010年代にブレイクすべきモダンな構造と知性をそのオーソドックスな音の土台としたバンドであることを改めて思い知らされた一夜だった。(粉川しの)
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