エンター・シカリ、全英初登場1位を記録した最新作『A FLASH FLOOD OF COLOUR』を引っ提げての来日である。2007年のデビュー・アルバム『TAKE TO THE SKIES』以降、ニュー・メタルだのニュー・レイヴだの様々な切り口で語られてきた彼らだけど、あれから5年の間にニュー・メタルもニュー・レイヴも完全に消え去っており、結果的にエンター・シカリはたったひとりでサバイブした、絵にかいたようなワン・アンド・オンリーの存在に上り詰めてしまった。ちなみに『A FLASH FLOOD OF COLOUR』はさらに最新のトレンドであるグライムやダブステップとの関連でも語られているけれど、数年後には本作もそんな2010年代のトレンドとは全く関係なく評価されていくアルバムになると思う。そう、エンター・シカリとは常にUKシーンの「規格外」を証明し続けてきたバンドであり、今回の来日公演はそんな彼らの規格外が圧倒的に正しいことをしらしめる最高の内容になっていた。
オープニング・アクトを務めたのは日本のCROSSFAITH。かつてはマキシマム ザ ホルモンとの対バンも経験済みのエンター・シカリだが、確かに彼らは日本のハードコア&デスコア系のバンドとすごく相性がいい。今夜もエレクトロ&デス・ヴォイスでがつがつと盛り上げにかかるCROSSFAITHにリキッドルームのムードはじょじょにヒートアップしていく。彼らの終演後の転換20分の間に早くも手拍子と掛け声が巻き起こり、いよいよエンター・シカリの登場だ。
ステージ上のバックドロップには『A FLASH FLOOD OF COLOUR』のジャケットにもフィーチャーされていた逆三角のネオンが点滅する。1曲目は『A FLASH FLOOD OF COLOUR』のオープニングをなぞって“System…”。すっかすかのイントロから一気にグルーヴが高速回転し始める中盤にかけて、ファンのコール&レスポンスががっつり彼らに並走する。続く“...Meltdown”はラップ・イントロからシンセと打ち込み、そしてダブステップへと移り変わっていくまさにエンター・シカリの最新モードを直反映したナンバーで、既にステージ前は地獄の釜が開いたかのようなモッシュが巻き起こっている。
来日ラッシュ只中の単独公演ということもあって満員にはならなかったリキッドルームだけど、彼らのダイハード・ファンが集結していることが分かる。そして3曲目は『A FLASH FLOOD OF COLOUR』からのシングルだった“Gandhi Mate, Gandhi”。“...Meltdown”のダビーでダンサブルなノリから一転、ごりっごりのメタル・リフが轟く激重のナンバーで、冒頭から新作のバラエティが次から次へと開陳されていく。
その後は新旧ナンバー乱れ撃ちの展開の中で、さらに多彩なエンター・シカリの表情が明らかにされていく。シンセが華麗にシャーシャー鳴り響くエレクトロ・ナンバーから、ハードコアというよりエモコアと呼ぶべきこってり男泣きのメロディアスなナンバー、4つ打ちのディスコテック・ナンバー、超本気なラウド・ロック・ナンバー、ポエトリー・リーディング調のラップがフィーチャーされたラップメタル・ナンバー、そして懐かしのニュー・レイヴ・パーティ・アンセムまで、エンター・シカリの5年間が無謀なまでのミクスチャーの冒険の歴史であったことを1時間で振り返る内容で、この過剰さ、このヘヴィネスは、ラーメン屋で「大盛り、トッピング全部盛りで!」と叫ぶようなカタルシスだ。
全編を通して音が少し小さかったのが気になったが、むしろこの内容でマックスの爆音だったら鼓膜が本気でやられていたかもしれないので結果オーライか。ラウ(Vo)は早い段階で客席に上半身を預けた半ダイヴ状態となったが、ローリー(G)は“Quelle Surprise”で満を持してド派手にダイヴ。オーディエンスはもちろん最初から最後まで間断なくダイヴ・ラッシュで、シンガロング系のナンバーでは肩車隊も登場する。こんな盛り上がりの様相を呈するUKバンドはそうそういないだろう。それにしてもラウの装い―-ニット・キャップ+ネルシャツ+ハーフパンツで生っ白い脛をマル出しにしたそのアウトフィットは、今のUKバンド、というか今の英国の平均的青年像から本当に気持ちいいほどかけ離れている。
個人的にめちゃくちゃ良かったのは“Stalemate”。「ライヴでみんなに初めて聴いてもらうよ」とラウも言ってたけど、アコギのアルペジオと3パート・コーラスで始まる超異色のナンバーで、殆ど60Sのアシッド・ロックみたいなことになっていた。アウトロのリヴァーヴとピアノの優雅も半端無くて、つくづく『A FLASH FLOOD OF COLOUR』がユニークなアルバムだったことを思い知らされた。
そんな“Stalemate”以降はエンター・シカリの最も攻撃的な部分がエッセンシャルに抽出されたナンバーが続き、本編ラストの“Fanfare for the Conscious Man”が文字通り最大クライマックスとなった。1時間強と短めのセットだったが、アンコールの2曲も含めて大満足の内容。密度・濃度・バラエティの全てにおいて過剰で、しかしその過剰がエンター・シカリの標準装備であることを証明する、まさに彼ららしい規格外のライヴだったのだ。(粉川しの)
2月23日 恵比寿リキッドルーム セットリスト
System...
...Meltdown
Gandhi Mate, Gandhi
Sorry You're Not A Winner
Destabilise
Mothership
Search Party
Stalemate
Quelle Surprise
Juggernauts
Arguing with Thermometers
Fanfare for the Conscious Man
(encore)
Hello Tyrannosaurus, Meet Tyrannicide
Sssnakepit
エンター・シカリ @ 恵比寿リキッドルーム
2012.02.23