『SOUND SHOOTER vol.7』@新木場スタジオコースト

フォトグラファーとしての活躍をはじめ、ウェア・ブランド「STINGRAY」の共同展開でも知られる橋本塁が、自ら企画するロック・イヴェントの7回目となる開催(前回のレポートはこちら→http://ro69.jp/live/detail/55126)。今回も錚々たる顔ぶれの出演者が登場である。一方のフロアには、タオルなどの小物を含め橋本塁のトレード・マークともなっているドット柄を身に纏ったオーディエンスが詰めかけている。出演者の豪華さだけではなくて、『SOUND SHOOTER』がイヴェントとして、或いはより大きな意味を持ったカルチャーの記号として、広く愛されていることを証明する光景だ。では以下、各出演者をダイジェストでレポートしていきたい。

『SOUND SHOOTER vol.7』@新木場スタジオコースト - all pics by RUI HASHIMOTO(SOUND SHOOTER)all pics by RUI HASHIMOTO(SOUND SHOOTER)
■DOTMANZ (オープニング・アクト)
橋本塁のゆるい挨拶(オーディエンスも心得たもので、そのゆるさを乗りこなしているのが可笑しい)から、「DOTMANZって誰なんだってことだけど、ドット着てるってだけだからね」と紹介を受け4人のメンバーが登場。荒ぶるようなジャム風インストを放つ。一昨年の『SOUND SHOOTER』時に結成されその日のうちに解散したはずだったが、今回は再結成ということだろうか。紹介どおりに、ヴォーカリストは長袖シャツ、ギタリストは半袖+短パン、ベーシストはフードを被ったパーカー+ベースのボディ、ドラマーはタンクトップにドット柄を配している。ヴォーカリストが「心は●●●●です! カヴァー・バンドです!」と告げ、両翼のギタリスト&ベーシストが暴れ回りながら超人ドラマーと共に狂騒を生み出すさまは本家●●●●そのもの。というか全体的に●●●●よりもBPMが速くないか? 僅か20分ほどの持ち時間でフロアの熱気が跳ね上がってしまった。ベーシストが、どこかで見たことのある低姿勢スクリームを浴びせかけてフィニッシュである。

1:?
2:?
3: Discommunication
4: Beautiful Target
5: 新しい光
6: sector
7: Lovecall From The World

『SOUND SHOOTER vol.7』@新木場スタジオコースト
■mudy on the 昨晩
転換中は、おなじみ橋本塁・撮影のライヴ写真スライドショーが行われる。「最近は傘を持ったアー写とかも撮らせてもらって、まあギターが3本の、頭がおかしいバンドです。曲とか知らなくても、激アガりできるバンドなんで」と紹介を受けて5人が登場。ドットT姿のフルサワヒロカズ(G.)の掛け声とともに狂音アンサンブルが繰り広げられる。インスト・バンドでひたすら演奏に没入しているのに、視覚的にもライヴ映えしてしまうところが素晴らしい。今回のステージでは、外部プロデューサー(9mm Parabellum Bulletの滝善充!)を起用するという6月リリース予定のミニ・アルバムから新曲が披露された。がっちり関わってもらって、この翌日から録ると言っていたので、つまり滝は楽曲のアイデア段階から関わっているということだろう。もう、この新曲がいかにもムー昨×滝の私生児という感じで、鋭利なリフの連打がカッコ良すぎた。予測不可能なバカテク・コンビネーション“パウゼ”も投下。東名阪ツアーも予定されているそうなので、ミニ・アルバムと併せてぜひチェックを。

1: PERSON! PERSON!!
2: lookilus
3: ユアイへ
4: 新曲
5: moody pavilion
6: パウゼ
7: YOUTH

『SOUND SHOOTER vol.7』@新木場スタジオコースト
■FRONTIER BACKYARD
「同一バンドとしては最多の、3回目の出演です」と信頼感たっぷりで紹介を受けたFBY。それだけで、これを観て欲しい、という心意気が伝わる。ライヴ巧者ぶりを見せつけ、笑顔まみれのスタジオコーストを作り上げたステージだった。鍵盤サポートにチャーベ君、ベースのサポートはこの日だけTA-1に代わり村田シゲという、FBY+キュビみたいな5人編成。チャーベ君によるオルガン風のけたたましいシンセ・フレーズが打ち鳴らされる“wonderful world”ののち、STINGRAYのセットアップを身に纏ったTGMXは「塁くんありがとう! 惜しい人をなくしました」と笑いを誘う。パンクもソウルもラテンも手を取り合うタフでしなやかなアンサンブルがオーディエンスをバウンスさせ続け、“hope”では「すみません、せっかくなんで、ちょっといいですか」とTGMXが演奏中にステージ下に降り、フロアを後方まで縦断しつつタオル回しを煽る。それを食らいつきで追い回すカメラマン・橋本塁である。楽しい。

1: EVERYTHING
2: TWO
3: wonderful world
4: Putting on BGMs
5: hope
6: I can't let make her cry
7: missing piece
8: POP OF D

『SOUND SHOOTER vol.7』@新木場スタジオコースト
■細美武士
昨年はthe HIATUSでの出演だったが、今回はソロで登場。彼の弾き語りが素晴らしいものであることは承知していた。しかし、紹介を受ける細美の傍らにはギターとキーボードだけでなく、MakBookやサンプラー、ミキサーと機材が並んでいる。鍵盤を奏でながら歌い出すのは、驚きのストレイテナー“ROCKSTEADY”カヴァーである。クリック・ミニマルのビートを用い、サンプラーとミキサーも操りながらシームレスにエレクトロニックなダンス・ミュージックを構築してゆく。手際にはぎこちなさも感じさせるけれど、その音はとてもセンシティヴでナイーヴな、洗練されたものだった。アコギを奏でながらのダブステップ・ナンバーや、オートチューンを用いた“The Flare”も披露される。「ここ5日ぐらいで、徹夜しながら初めてエレクトロニックな楽器をいじって。でもなんか新しいことやらなきゃ始まらないじゃん、と思って。何も言わないでさらっと帰ろうと思ったんだけど、5分余っちゃった」と語る細美。というわけで最後はウィーザーをカヴァー。やはり弾き語りも素晴らしい。突貫工事はさもありなん、しかしそれ以上に音楽家としての底知れない才覚が迸るステージだった。

1: ROCKSTEADY
2: 新曲
3: The Flare
4: Butterfly

『SOUND SHOOTER vol.7』@新木場スタジオコースト
■ent
開演時に橋本塁は「entのときはみんなで体育座りして観てもいい」と冗談めかしていたけれど、改めて「ツアーのときにスクリーン映像を使っていて、これぐらい大きな会場で観たいな、と思って出演をお願いしました」と紹介されたent。サポート・ギタリストに大山純、ドラマー兼マニピュレーターには、本来レコーディング・エンジニアでentのためにドラム演奏をマスターしたという菅井正剛。先のツアーにおけるバンド編成を観ることができるのは嬉しい。“Zoe”を皮切りに、『Entish』の楽曲が多く並べられたステージが進む。ひんやりとした音像から徐々にエモーションが溢れてゆく、ent独特の世界観である。「一週間前に細美くんの家に遊びに行ったら、そのときはまだ(細美ソロで)何やるか決まってなくて。その集中力たるや、凄いね。昨日は寝てないらしくて、おかしなこと口走ってたけどね」「“やばい、楽しいんよ!”みたいなね」というOJとの舞台裏話にも笑いが上がっていた。生演奏と同期サウンドが調和した楽曲、そしてエフェクトの加えられた美しいCG映像が、目から耳から柔らかい刺激を与えてくれる。“Silver Moment”は、2本のギターのアルペジオが交錯するバンド・アレンジで届けられていたのも素晴らしかった。

1: Zoe
2: Watre Screen
3: Frozen Flowers
4: Airwalker
5: Silver Moment
6: Lens
7: At The End Of The Blue Sky

『SOUND SHOOTER vol.7』@新木場スタジオコースト
■the pillows
「中学のときから聴いていて、ファンクラブ会員だったこともありました。会員で一番の夢を叶えたんじゃないかと思います。泣きながら撮りたいと思います!」という橋本塁の熱い思いと共に呼び込まれたトリはピロウズ。佐藤シンイチロウはドット柄Tシャツで登場だ。まずは“この世の果てまで”を繰り出し、山中さわおが「今日は、金髪水玉野郎のイヴェントってことで、塁くんのリクエストを一杯やります!」と宣言する。そしてプレイされるリクエスト曲“TRIP DANCER”を、かぶりつきで聴きながら撮る橋本塁。嬉しいだろうなあ、これは。何のギミックもないロック・バンドの演奏が、信じられないほどキラキラと輝きだすピロウズの魔法だ。「話があるんで自宅に来てくれませんか、って言われて。ものすっごい美人の奥さんに、ものすっごいクオリティの高い手料理をふるまわれ。その場にはキューミリの卓郎くんもいたんだけど、昔のファンクラブ会報のこーんな束を引っ張り出し、昔のだっさい写真を見せられ。イヴェントに出てくれませんかって。わかったわかった!!」という出演の経緯説明byさわおにも爆笑である。更にはリクエストに応えて“パトリシア”がプレイされ、“エネルギヤ”や“トライアル”といった最近の楽曲も配置されるというスペシャルなセット。万感の“ハイブリッドレインボウ”の後、アンコールでは、「ついさっき、これやってくれませんかって。リハのときとかに言えよ! まあ、みんなで楽しく盛り上がればいいんじゃないかと思います」とここでも急遽リクエストに応え“LITTLE BUSTERS”を披露し、さわおは橋本塁にピックを手渡していた。優しい。ツアーを目前にしたピロウズの、実にスペシャルなライヴだった。

1: この世の果てまで
2: TRIP DANCER
3: エネルギヤ
4: パトリシア
5: Funny Bunny
6: トライアル
7: LAST DINOSAUR
8: ハイブリッド レインボウ
en: LITTLE BUSTERS

写真やウェア・ブランドがそうであるように、「これを観てもらいたい、広めたい」という志の高さに支えられたイヴェントだった。以前の開催で観たときよりも、とりわけ強くそれを感じた。出演依頼に応じたアーティストたちは、限られた時間の中、あの手この手で特別な空間を生み出そうとしていたのも印象に残る。「『SOUND SHOOTER』は特別な場所」。多くの来場者が、そんな思いを胸に、帰路に着いたのではないだろうか。(小池宏和)
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