「今世紀最高のライヴ・バンドのひとつ」と言っても過言ではないのが、このマイ・モーニング・ジャケットである。ケンタッキーの山熊みたいなルックスのおっさんをフロントに置いたこのバンドがNYのマディソンスクエアガーデンをソールドアウトにするバンドへと登りつめたのは、ひとえに彼らの頭抜けたライヴ・パフォーマンスの力によってであって、前回の初単独来日以降、ここ日本でもMMJのライヴ・バンドとしての力量は徐々に浸透しつつある。そんな中で決まったのが、最新作『サーキタル』を引っ提げての今回の東名阪ツアーである。
しかし今回はアクシデントもあった。ジム・ジェームス(Vo&G)の声の不調で名古屋公演がキャンセルとなり、最終公演のこの日の渋谷AXもジムの喉の回復によって直前に開催か否かがアナウンスされるという綱渡りの状況。ジムの山熊な風貌には似合わない流麗なファルセット・ヴォーカルはMMJの音楽の要でもあり、万全でない体調で喉を酷使してもいい結果は生まないという危惧もあった。しかしそんな不安の中で敢行されたAX公演は、蓋を開けてみれば120%のパフォーマンスに120%の声が乗る素晴らしい内容、最高のツアー・オーラスとなった。2003年のサマソニでの初来日を皮切りに4度目の来日にして単独としては過去最大キャパとなったこの日のAX公演、とは言え1700人収容のAXはMSG2万人を相手にしている彼らにしてみれば小規模なヴェニューであり、その貴重さを誰よりも実感しているのだろう外国のファンの方々が数多く見受けられたのもうなづける。
オープニングは“Victory Dance”で緩やかにスタート。暗闇の中ハンドマイクで歌うジムを筆頭にバンドは通常の5人編成……と、そこに加えて渋谷AX公演限定のスペシャルゲストとしてサックス、トロンボーン、トランペットからなるホーン隊がフィーチャーされていたこの日。彼らはMMJが日本でスカウトした凄腕ミュージシャン達で、“Victory Dance”をぐっと艶やかかつセクシーに聞かせる立役者になっていた。
この日のセットリストについて詳しい記述は控えるけれど、『サーキタル』、『イーヴィル・アージズ』、『Z』辺りのナンバーを中心に初期曲も随所でインサートされる鉄板の並びで、前半はカントリー・ライクなナンバーが最終的にサイケデリックなぶっとんだ地平へと昇華されていく飛距離が鮮烈なナンバーが並ぶ。MMJのカントリーの本質はライヴを観て初めて理解できるものだとつくづく再確認する。ジムの声もはリヴァーヴの美しさも含めて全く問題なし、3パートのハーモニーも完璧だ。初期のナンバーの刷新っぷりもこの日は顕著で、たとえば“Low Down”などはリリカルなアルペジオが際立つ未だかつてないほどのポップ・ヴァージョンに進化していて、これも『イーヴィル・アージズ』、『サーキタル』以降のMMJの脱ジャム・バンドの意思の成果ではないかと思う。
一方、後半はかつての彼らの代名詞であったジャム・バンドっぽい展開が随所で光るエクスペリメンタルな流れ。特にスタジオ・アルバムとしての精度を過去最高に上げてきた最新作『サーキタル』を再びライヴの現場で叩き直し、解釈し直していく過程が異様に快感だった。MMJのジャムっぽさはどこまで突き詰めても宗教にならない、スピリチュアルな酩酊に陥らない、アヴァンギャルドにも逃げない、あくまでも肉体的で明瞭な興奮を生むリアリスティックなそれであるのが素晴らしい。ジャム・ロック特有のヒッピー臭さやハッパ臭さがない、それはハード・ロックだったりメタルだったりというギターの具体性やマチズモもまたこのバンドの大きな魅力のひとつだからかもしれない。
延々のインプロで10分越えのナンバーがばんばん連打された最終コーナー、カール(G)がサックスで切り込んでくる“First Light”、ピアノ、キーボード、ハンドマイクのジムを主体にしたシンプルな序章から原初のマグマみたいなサイケデリックへと発展していく“Movin’Away”などは特に出色の出来で、場内には完全降伏状態で頭をぶっとばしているオーディエンスが多数。再びホーン隊を招いて始まったアンコールの数曲はさらに圧巻で、最後はジムのフライングVから弾き出されるハード・ロックのリフ・イントロ、カントリーの美メロ、ホーンてんこ盛りで天かけるサイケデリックと、MMJのすべてが詰まった“One Big Holiday”でフィニッシュ!!完璧!!
約2時間半、世界最高峰のライヴ・パフォーマンスを思う存分浴びれた至福の一夜だった。しかしMMJのライヴはいくら観ても観足りない、常に中毒性と飢餓感がついてまわる類のものなので、再来日は「ベリースーン」だと言っていたジムを信じてジリジリ待ちたいと思う。なお、そんな彼らのライヴの構造を探りたいなら先日リリースされた最新ライヴ盤『マイ・モニ』を、とにかくそのダイナミズムを追体験したいなら傑作ライヴ盤『オコノコス』をお勧めします。ぜひ。(粉川しの)
マイ・モーニング・ジャケット @ SHIBUYA-AX
2012.03.29