取り戻されたサイケの優しさ

マイ・モーニング・ジャケット『ザ・ウォーターフォール II』
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ALBUM
マイ・モーニング・ジャケット ザ・ウォーターフォール II

15年リリースの『ザ・ウォーターフォール』(以下『I』)の時点ですでに本作(『II』)の楽曲は書かれて録音もされていたそうだが、この5年越しのアルバムはBサイド集ではなく、あくまで新作という位置づけだそうだ。当時はリスナーが消化できない可能性を考え2枚組のリリースを諦めたそうだが、カットされた楽曲をパンデミック下であらためて反芻した結果、いまこそ発表するのが望ましいと考えたそうだ。なんとも味わい深い話である。というのは、かつて音楽業界の消費のスピードの速さを鑑みて埋もれていったものが、世界中が内省に入った時期にこそ浮かび上がってきたということを示しているからだ。

実際、オープニングの“スピニング・マイ・ホイールズ”からとてもソフトなタッチの楽曲が並んでいる。人びとの疲弊に優しく寄り添うように。思い返せば『I』もソウルやヨット・ロックの要素が感じられるスウィートな側面が強めのアルバムだった。もともとハード・ロックのダイナミックなアンサンブルで聴かせられるバンドだが、この連作では彼らのソフト・サイケ・バンドとしての顔が前に出ている。楽曲を厳選した『I』に比べると『II』は統一感にこそ欠けるものの、その分カントリーやジャズ、室内楽などを消化したバラエティに富んだサウンドを聴かせてくれる。何よりも、とりわけ『I』から通して聴くと、なんて成熟したバンドになったのだろうと思う。ド派手なギター・サウンドを叩きつけなくとも、余韻たっぷりに響く弦のアンサンブルと透き通ったジム・ジェイムスの歌唱によって、流れる時間をゆっくりにするような演奏が広がっていく。とくにラスト2曲はとろけるように甘いサイケデリック・ロックで、聴く者の耳も心も溶かしてしまうだろう。 (木津毅)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。
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マイ・モーニング・ジャケット ザ・ウォーターフォール II - 『rockin'on』2020年9月号『rockin'on』2020年9月号
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