ファウンテンズ・オブ・ウェインの昨年のフジロックぶりの来日、最新作『スカイ・フル・オブ・ホールズ』を引っ提げての単独ツアーのオーラス公演となる恵比寿リキッドルームに行ってきた。いつも観るたびに思うことは、FOWほど日本のファンにいつ何時も変わらず愛され続け、日本を殆ど「ホーム」にしているUSオルタナ・バンドは稀だということだ。その変わらない、というのは15年以上に亙ってパワー・ポップを牽引し続けてきたFOWの音楽性においても言えることで、『スカイ・フル・オブ・ホールズ』も最新のFOWであり普遍のFOWでもあるという理想的なアルバムだった。いつでも此処にくれば変わらず愛しい彼らの音楽に出会えるという確信というか安心のようなものが、FOWのファンにホーム感をもたらしているのかもしれない。
リキッドルームはもちろん最初からみっしりとすし詰め状態で、そんな場内をまずは温めたのがFOWの盟友と呼ぶべきオープニング・アクトのマイク・ヴィオラ。今回の来日の各所に帯同した彼は『スカイ・フル・オブ・ホールズ』ツアーの重要なファミリーだ。そしていよいよFOWが登場する。1曲目は大名盤『ウェルカム・インターステイト・マネージャーズ』(2003)からのこれまた大名曲“Bought For A Song”。見事なスタートダッシュ、けれんみたっぷりの初期~中期のナンバーが中心にプレイされた前半で、早くもこの日のライヴも「いつもの」そして「最高の」FOWのそれだということが確信できる。まさに品質保証、FOWのアルチザン・ポップな側面を再確認する流れだ。
「今日は新曲を何曲かやるつもりなんだ。次の曲は“Summer Place”、ぜひ聴いてください」とクリス(Vo&G)が紹介して始まったのは『スカイ・フル・オブ・ホールズ』のオープニング・ナンバー。この曲は最新作中でも際立ってメロディアス&メロウなポップ・ソングでFOWの新定番誕生!といった趣のナンバーなのだが、実際にイントロ一音でわっと歓声があがって最新アンセムとして早くも定着していることが分かる。「次は架空の2人の男の歌なんだけど」とアダムが紹介して始まったのはこれまた新曲の“Ricie And Ruben”。クリスがアコギに持ち替えて歌うこの曲以降の中盤は徐々にカントリー・ライクなシンガロング・ナンバーが増えてくる。パワー・ポップと言うよりネオアコと言ったほうが適しているようなナンバー達だ。
そんなカントリーな流れを一旦リセットするかのようにドロップされたのが必殺の“Hey Julie”! マラカス隊としてリクルートされた3人のファンがステージに上がると、フロアのあちこちから「わー!いいなぁ~!」と悲鳴があがる。2本のアコギに3人衆のマラカス、そしてアダムのキーボードのアンサンブルは贅沢に隙を残したシンプルなもので、そのシンプルなアンサンブルにファンの合唱がほとんど主役クラスの鮮やかな華を添えるというフォーメーションが、FOWの究極のシンガロングの型を示すナンバーだ。名誉すぎる&重要すぎる役割を十分に理解しているらしき3人衆のマラカス・ワークも秀逸!エンディングと共に3人がアダムと握手してステージを降りると、場内は温かな拍手で満ちていく。
そんな“Hey Julie”までの中盤がアコースティックで親密なセクションだったとしたら“A Dip In The Ocean”からは一転してど迫力のパワー・ポップ・ナンバーが立て続けに連打される。リミッター解放して思う存分ワウりまくるギターといい、腹にずっしり重く響くバスドラのキックといい、これぞパワポの牽引者としてのFOWの本領発揮のパフォーマンスだ。『ファウンテンズ・オブ・ウェイン』(1996)、『ウェルカム・インターステイト・マネージャーズ』のクラシック・ナンバーを中心に構成された後半はまさにファン感謝セットでもあって、ハードな演奏にまったく引けをとらないファンの大合唱が次から次へと繰り出されていく。この日一番の合唱ナンバーになった“Mexican Wine”、そしてハードロックっぽいインターミッションも素晴らしかった“Radiation Vibe”で場内の熱気が最高潮に昂ったところで本編が終了する。
アンコールはマイク・ヴィオラをフィーチャーしての“Fire In The Canyon”の緩やかなカントリーで一度はクールダウンさせるも、そこからの4曲はセットリストを見ればご理解いただけるだろう、FOWの代名詞ナンバーに次ぐ代名詞ナンバーの大盤振る舞いだった。FOWのライヴとは今も昔も目新しい何かが示される機会ではない。しかし今も昔もそしてこれからも、色褪せない何かがずっと守られていくだろう聖域には違いないのだ。(粉川しの)
セットリスト
Bought For A Song
Bright Future In Sales
Barbara H.
Someone To Love
Denise
The Summer Place
Richie And Ruben
Valley Winter Song
A Road Song
Hey Julie
A Dip In The Ocean
Red Dragon Tatto
Mexican Wine
Radiation Vibe
(encore)
Fire In The Canyon
Cemetery Guns
Survival Car
Stacy’s Mom
Sink To The Bottom
ファウンテンズ・オブ・ウェイン @ 恵比寿リキッドルーム
2012.03.31