「会場が大きいとか小さいとか、人が多いとか少ないとか関係なしに、ここにいる一人一人と音楽を共有していきたいと思ってます。たくさんたくさん届けにきたので、たくさんたくさん受け取ってください。……あまりしゃべりが得意じゃないので、歌います」(内澤)。 andropのファースト・フルアルバム『relight』のリリースを記念して行われたバンド初のZeppツアー、「one-man live tour “relight”」(ツアー初日となった２月23日の追加公演は新木場スタジオコーストでの開催)のファイナル公演。首都圏を襲った強風の影響による交通機関の乱れもあってか、定刻を少し回った18時15分に場内が暗転。フロアに起こった割れんばかりの拍手に導かれるように、ステージ前方に張られた白い幕越しに、ギターをさげた(恐らく)内澤(Vo/G)のシルエットが浮かび上がる。そして彼が幕に手をかざすと、その部分に柔らかな明かりが灯り、光の拡散・集約を経て、ツアータイトルが表示される。そんなドラマチックなオープニングに息を呑んだのもつかの間、今度はメンバー４人のシルエットが浮かび上がり、颯爽と１曲目の“Strobo”がスタート。しばらくの後に幕が勢い良く落下して、眩い光を背負ったメンバーの姿が視認できるようになると、満場のZepp Tokyoが大歓声に包まれる。

シアトリカルな演出でオーディエンスの心をがっちりと掴んだオープニング以降も、“Bell”“Nam(a)e”を立て続けに投下して、フロアをじわじわとヒートアップさせていく４人。ファルセットを多く用いた透明度の高いボーカル、サウンドに奥行きを加える繊細なギター、どっしり構えて存在感のある重低音を響かせるベース、そして多彩なリズム・パターンで楽曲の方向性に最終決定を下すドラム。それぞれが強烈な個性を放ちながらも、極めて整然としていて、論理立っているのがandropのアンサンブルの妙。そういうバンドとしての地力の高さあるからこそ、“Pray”“Flashback”のようなロック的な疾走感溢れるアップ・ナンバーと、“ShowWindow”のようなエレクトロニック・ミュージック的な文法を用いたダンス・ナンバーを違和感なく並列させることができるのだろう。このあたりのハイブリッドな感性は、ここ最近シーンに台頭してきた新世代バンドの共通項ではあるが、その中でも彼らほどピュアな姿勢でポップ・ミュージックを吸収し、真っ向から再構築していくバンドはそういないはずだ。

「すごい人がいっぱいいるね。前の方とか大丈夫ですか。体調悪い人とかいたら無理しないでくださいね。今日という日は一回しかなくて、それで嫌な思いをする人が出るのは嫌なので、ここは一つのコミュニティなので、助け合いでお願いします！」。そんな内澤の真っ直ぐな人間性が垣間見えるようなMCを挟みつつ、瞬く間にライヴは中盤戦へ。ここで披露された“Puppet”や“HoshiDenwa”といったいくつかの曲では、映像を使って楽曲の世界観を掘り下げる試みがなされており、彼らの表現の根底にある「繋がりたい」という想いを一層際立たせていた。そして、浮遊感のあるシンセ・フレーズが飛び交う12曲目の“Q.E.D.”から、一気にダンス・モードへと突入。内澤が手元のシーケンサーを操ってテクノ系の硬質ビートを響かせた“World. Words. Light.”では、グリーンのレーザーライトがフロアに向かって照射され、場内を包む高揚感はどこまでも高まっていくばかりなのであった。 アグレッシブな曲展開にオーディエンスが飛び跳ねた“Train”、フロアの盛大なハンドクラップに彩られた“MirrorDance”を終えて、内澤は丁寧に言葉を選びながら、「悲しいことや辛いことが起きて沈んでしまった人々の心にもう一度光を灯したい」と思って『relight』というアルバムを作ったこと、そうした音楽をライヴの場でオーディエンスと共有したときに、みんなの姿がキラキラ光って見えたことを語った。そして、「何回倒れても前に進めるように、眩しいくらいの光が灯るように、願いを込めて最後の曲を歌いたいと思います」と、“Relight”を披露。徐々に灯っていく照明の光が、最後は目も眩むほどの強い輝きで会場を包み込んだところで、ライヴ本編はクライマックスを迎えた。

アンコールでは、メンバーが一言ずつツアーを振り返っての感想を語り、いくつかの告知を済ませてから、「みんなまだまだ元気ありますか！　ツアーファイナルなんで、全部出し切ってください！」(内澤)と、ダイナミックなスラップ・ショットが炸裂した“Colorful”、甲高いギターからはち切れんばかりのエモーションが溢れ出した“Meme”の２曲を披露。その後のダブルアンコールでは、内澤がバンドを裏で支えるスタッフへの感謝を述べてから、「僕らが初めて一緒に音楽を合わせた曲をやって、今日は終わりにしたいと思います。大切な曲です聴いてください」と“Image Word”を打ち鳴らし、深々とお辞儀をしてからステージを後にした。ポップ・ミュージックの新たなる地平を、人と人とが真っ当に繋がる理想的な世界を目指し、真摯に音楽と、オーディエンスと向き合い続けるandrop。彼らの放つ音楽の光は、これからまだまだ大きくなっていくはずだ。(前島耕)

[セットリスト]
1. Strobo
2. Bell
3. Nam(a)e
4. Pray
5. Flashback
6. ShowWindow
7. Tara-Reba
8. Yurariri
9. Puppet
10. HoshiDenwa
11. Bright Siren
12. Q.E.D.
13. World. Words. Light.
14. You
15. Roots
16. Train
17. MirrorDance
18. Relight

アンコール
1. Colorful
2. Meme

ダブルアンコール
1. Image Word