plenty @ 日比谷野外大音楽堂

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plenty @ 日比谷野外大音楽堂
「いやあ、楽しみにしてました、ほんと。遠くの方の方も見えてますよ。ウソだけど(笑)。……ここ自体、立つのは初めてじゃないんだけど、でもワンマンで、いろんなすばらしいアーティストが立ったステージで歌うのは……ヤです。夢が1コなくなっちゃって。
だから今日、俺、立つの、ヤだったんだ」

以上、ライヴ中盤における江沼郁弥(vo&g)のMCより。もちろん本気でヤなわきゃないと思うが、初めて日比谷野音でワンマンやれて、しかもこんなにお客さんが集まってくれて(さすがにソールドアウトはしなかったが「ほぼ満員」って言っていいレベルでした)、うれしいに決まっているだろうが、でも、夢が1コなくなっちゃって寂しい、というのも本音だと思う。とりあえず、僕の世代はみんな「日比谷野音」というと特別な思い入れのある会場だけど、若いミュージシャンにとっては結構そうでもなかったりする、ということを知っているもんで、江沼のこの言葉には「なんだ、若いくせに」と、好感を持ちました。

「plenty 2012年 春 ワンマンツアー」という簡素きわまりないタイトルが付いた、初めてのフル・アルバム『plenty』のリリース・ツアーの1本目が、この初めての、そしてバンドのキャリア最大キャパの、この日比谷野外音楽堂。2009年5月に初めて吉祥寺WARPでワンマンやって以来、もう1回WARP→代官山UNIT→リキッドルーム恵比寿→SHIBUYA-AX→渋谷公会堂→で、この日比谷野音。インディーだし、タイアップとか大量露出とか無縁だし、PVがかかるのCS音楽チャンネルだけだし、というバンドにしては、この「階段順調に上がりっぷり」は、かなり、快挙だと思う。というか、うれしい。ただ、ここまで、ではなくて、まだまだいくだろうし、いくべきだし、じゃなきゃこのとんでもねえ才能とは見合わない、とも思うが。

なんせ初日だし、セットリストとかは書けませんが、いくつか箇条書きにします。

・始まったの18:10くらいで、終わったの20:10、つまりぴったり2時間のステージ。『plenty』収録曲は、全曲ではないがほとんどやりました。あとは、過去の全作品から何曲かずつ。

・セットも何もなくてドラムも床にベタ置き、一灯につき足1本で立てられたライトがステージ後方のあちこちに十数本立っているのが演出といえば演出。ピンスポなし、照明がパーッと明るくなる瞬間もほとんどなし、基本的にステージずっと暗いままで色だけが変わっていく、というライヴでした。plentyだからそれが普通なんだけど、日比谷野音でもそうだった、ということです。ほんと、まんま、いつものplentyだった。で、それで充分だった。

・日比谷野音って、「会場内で缶ビールと缶酎ハイを売っている」という都内でもめずらしいライヴ会場であって、バンドによってはもうお客さん呑みまくり、みたいなことになるんですが(私が知ってる中で一番すごかったのはハナレグミ。その次はCaravan)、今日ほど呑んでる人が少ない日比谷野音、私、初めてだった気がします。アンコール前に後方のゴミ箱をのぞいたら、空き缶、5,6本しか入ってなかった。
単にとても寒い夜だったから、というのもあるだろうが、バンドの音楽性のせいもあると思う。つまり、酔いながら観るようなものではない、ということなんだと思う。その逆の、「覚醒する」とか「とぎすまされる」とか「シリアスになる」とか、そういう作用を聴く人観る人に及ぼす音楽なので。一音たりとも聴き逃すまい、みたいな、異様なくらい真剣な空気に、会場中が包まれた2時間でした。

あと、観ていて、plentyというバンドに対して、改めて感じたこと。
シリアスなバンドだし、暗いか明るいかでいうと明らかに前者だし、内省的だし、作っているのはどれもプライベートな曲だが、ただし、江沼の作る歌って、「自分とはなんだ」とか「自分はこうしたいのに」とか、そういうものではない気がする。ある種、自分とかどうでもいい、と思っているフシすらある、と、僕は感じる。
自分を認めてほしいとか、自分をわかってほしいとか、自分を愛してほしいとか、あんまり思ってない。もっと言うと、幸せになりたいとすら思っちゃいない。じゃあ何を求めているのかというと、「正しくありたい」ということだと思う。ちゃんとコミュニケーションをとって、ちゃんと自分の意志を伝えて、ちゃんと相手のことや周囲のことを理解して、そしてどうするかを考えて、進んでいきたい。そして、間違ったことはしたくない。だから、許せないものは許せない。そんなような、「正しさ」とか、「倫理」とか、あるいは「正義」みたいなものを、江沼のどの楽曲からも、僕は、とても強く感じる。だから、それに向き合う方も、真剣にならざるを得ないんだと思う。

僕はplentyのすべての東京ワンマンに行っているわけじゃないが、彼らのワンマンで、客席がわーわー盛り上がっているのを見たことがあるのは1回だけだ。初めて吉祥寺WARPでやったワンマンの時。理由は、お客の多くが友人や知人やバンド仲間だったから。本来の意味でのお客(=ファン)で満員になるようになってから、まあ見事に演奏中=シーン、演奏終わり=拍手ドーッ、曲間でメンバーがチューニングとかしてる時間もシーン、というライヴばかり。
この空気のまま、どこまで行くんだろう。と、毎回思いながら観ていたんだけど、この日比谷野音も、まんまとそうだった。このまま日本武道館までいっちゃうかも。楽しみになってきました、また。

あとひとつだけ。サポート・ドラムで中畑大樹が加わってからのライヴ、私、もうことごとくタイミングが合わなくて観れてなくて、この野音でやっと! だったんですが、もう、めちゃめちゃよかった! 元々この人、syrup16gの頃は「暴れ太鼓」系のプレイヤーだったし、VOLA&THE ORIENTAL MACHINEで叩いてる時も基本的にはそうだけど、PERIDOTSではすごくいい感じに「みっしり」系のプレイをする。plentyでも、もう、理想的なまでに、そうでした。重いけど重すぎない。軽やかだけど軽すぎない。特にスネア、「ああ、これ、ヴォーカル、歌いやすいだろうなあ」と思わせる極上のタメ。バンドが解散したり、バンドを脱退したりしたあとも、こんなふうに成長しながら活躍し続けるプレイヤーを観ると、何か、とてもうれしくなります。元くるりのもっくんとかもそうですが。(兵庫慎司)
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