“バビロンタウン”のBPMが速い。生活のリアルに押し潰されそうになりながら、そんな思いを燃やし尽くすようにしてDr.DOWNERのロックンロールは鳴らされる。その音と歌はまったく湿り気を感じさせず、驚異的なスピードでぶっ飛びながら、これしかない、というメロディのフックを残してゆく。頭に白いタオルを巻いて“まちぼうけ”の立ち行かない日常を歌い上げる猪股は、楽しそうに見えるのに気を抜いたらいつでも膝から崩れ落ちてしまいそうだ。
「20周年おめでとうございます! キューンじゃないんですけど、今日は呼んで頂いて。次に出るASIAN KUNG-FU GENERATIONってバンドの、ヴォーカルの人のレーベルからCD出してます。あと個人的には、ドラムの人とバンド(=PHONO TONES)やったりしてます。そんな縁もあって、イエーイ!! 特に言いたいこともないんですけど、CD買ってください。買った人はもう一枚買ってください。お金がね……。じゃあ、そんなお金のない毎日を突き抜けろって歌!!」と猪股が“ライジング”に繋ぐのだった。
高橋がフロア中央にまで割り入ってブルージーなギター・ソロを披露するなど、笑顔まみれの混沌とした空間と化すリキッドルームである。猪股も「俺も弾こうかな」と便乗して収まりがつくのか心配になってしまうぐらいだったが、思うさま弾きまくった高橋が柄モノのシャツを脱ぎ捨て、爆走ビートで再びバンドが転がり出す“暴走列車”から“ドクターダウナーのテーマ”へと連なる潔いぐらいのフィニッシュは見事であった。
「やばい、今日のセット・リスト、オメデトウ感がまるでない」と苦笑いするゴッチだったが、ここで彼が歌詞を噛み締めるようにじっくりと歌い出し、サビでとてつもない高揚感を生み出した“踵で愛を打ち鳴らせ”は、もうこれでいいじゃん、キューン20周年の再出発感もバッチリじゃん、という名演であった。孤独を立脚点にしたこの歌の次に、“マーチングバンド”が配置されてしまうというドラマティックな流れも素晴らしい。巨大な音量でこれ見よがしにスケール感をアピールするわけではないのに、楽曲の端々に、プレイの瞬間瞬間に、貫禄が滲み出てしまう。
闘争モードを象徴するような“N2”でソリッドなロック・サウンドを決めてみせると、“迷子犬と雨のビート”のイントロに歓声が上がる。喜多建介のメロディアスなギター・フレーズは、まるでフロアの宙空に像を結ぶようだ。「アルバムの制作が佳境に入っていて、作業浸けになっていて。あと何曲かのヴォーカルを録れば、レコーディングが終わります」とここでゴッチが喜ばしい現状報告を届けてくれる。「もう一度、アジカンらしいアルバムを作ろうかなって」。潔が作った楽曲も含められ、そのうちの1曲はいずれシングルのカップリング曲に採用するつもりだそうだ。
「これでメンバー全員が曲を作るようになって。前に、建ちゃんが作品に何割、貢献しているんだって話になったら、3割だっつって。そこは2割5分って言えよ(笑)、ウソでもいいから。誰一人欠けてもアジカンじゃないんで、ってさ」。この後に披露された新曲は、エモーショナルにならざるを得ない現実を丁寧に汲み取って歌い込んだような、とても美しいメロディを持ったナンバーであった。来る新作においても、きっとハイライトとなる一曲だ。そして山田貴洋(B.)の高らかなコーラスも巻いてグイグイと突き進む“センスレス”へとパフォーマンスが連なってゆく。瞬く間に辿り着いてしまった本編クライマックスだが、目一杯ダイナミックに叩き付ける“ワールド ワールド ワールド”からの“新しい世界”、そして万感の“新世紀のラブソング”で幕を閉じた。この辺りは何か、披露されるたびに楽曲が新しい命を吹き込まれているような、そういう手応えがある。
アンコールに応えて再登場したゴッチが語る。「『崩壊アンプリファー』をインディーズから出したとき、それでも3千枚ぐらいは売れたんだけど、俺たちはもっと行けると思っていて。雑誌のディスク・レヴューでは無視されたりもして、まあこれはロッキング・オン・ジャパンなんだけど(笑)。なのでロキノン系とか言われるとハラ立ちます。いや、いい雑誌だよ? そんで、社長が、もう一回出してやり直してみるか? って言ってくれて」。振り返れば、筆者も『崩壊アンプリファー』との出会いはキューンからの再リリース盤だった。今更ながら、あのときのキューンの英断には頭が下がる。
「3人に注文がある。アンコール2曲、もっと俺にパッションをくれ! それがASIAN KUNG-FU GENERATION!!」と気合入りまくりのゴッチの一声から、感謝の念がそうさせたのか、アンコールはまず“遥か彼方”に突入。歌詞においてもそうだけど、僕はゴッチが放つ「〜をくれ(よ)」というフレーズがなんか好きだ。「ちょっとロッキング・オンのことを悪く言い過ぎた(苦笑)。あの後、編集長の山崎洋一郎というおっさんがラブレターのような文章を書いてくれて、それが凄く嬉しかった。今は仲間内で罵り合うよりもやらなきゃいけなことがある!」と闘争モードを全開にして“羅針盤”と続く『崩壊アンプリファー』の冒頭2連打だ。パンキッシュなサウンドと扇動的な思いが炸裂である。熱い。「もう一曲やるわ! 俺たちの数少ない大ヒット曲!!」と更にはダメ押しの“リライト”へ。この日最大の盛り上がりも納得である。ゴッチはステージ下手のスピーカーの台に乗り上り、引き延ばされた演奏の中でオーディエンスを煽りまくる。クラウド・サーフまでが飛び出したのにはびっくりしたけれど、濃い熱気の中でステージは最高の幕切れを迎えるのだった。
バンド外での積極的な活動がありながら、よりメンバー同士の化学反応が高まっている印象のアジカン。新作完成目前の面白いタイミングで、シングル曲の連打という形ではなく、今の彼らの「バンド感」が想像以上に熱い形で噴出しつつキューン20周年を祝う、そんなライヴであった。ニュー・アルバムの続報を、首を長くして待ちたいところ。さあ、『キューン20イヤーズ&デイズ』も残すところ1日だ。最終日は電気グルーヴとギターウルフが激突。こちらも楽しみ。(小池宏和)
セット・リスト
■KANA-BOON
01: A.Oh!
02: ワールド
03: 夕暮れ
04: ないものねだり
■Dr.DOWNER
01: ユーウツ祭りスタイル
02: バビロンタウン
03: さよならティーンエイジ
04: まちぼうけ
05: ライジング
06: 暴走列車
07: ドクターダウナーのテーマ
■ASIAN KUNG-FU GENERATION
01: 暗号のワルツ
02: ブルートレイン
03: 踵で愛を打ち鳴らせ
04: マーチングバンド
05: N2
06: 迷子犬と雨のビート
07: 新曲
08: センスレス
09: ワールド ワールド ワールド~新しい世界
10: 新世紀のラブソング
アンコール
01: 遥か彼方
02: 羅針盤
03: リライト