情熱&リビドー逆噴射型爆裂ドラム・ヴォーカル=ゲイリー・ビッチェをはじめ、オルガン/エレピ/クラビネットに加え「完全にディストーション・ギターにしか聴こえない音色」まで自在に操る爆裂鍵盤娘=ユコ・カティ、地の底からブリブリゴリゴリと衝動そのものの重低音を立ち昇らせる爆裂ベーシスト=T-マルガリータ。メンバーそれぞれをメインにして1つずつバンドを作ってもいいくらいの熱量とテクニックを持っていながら、そこに“パンティー泥棒の唄”や、安田美沙子への想いをひたすら勝手に連呼する“美沙子に捧げるラブソング”など、爆苦笑必至の歌を乗っけることで、途方もない快楽のマジックを生み出してきたのがモーモールルギャバンなわけだが、スタンディングのライブハウスとしては都内最大クラスのZepp Tokyoまで来ても、彼らのやり方は1mmも変わらない。いや、変わらないどころかさらにタチ悪いくらいにパワーアップしていて、それがまたとんでもなく痛快で、という無限のエネルギー拡大再生産状態の真っ只中に、3人はいた。ジャズもロックもディスコもハードコアも消化して変幻自在な楽曲として繰り出す3人それぞれの演奏のパワーがとんでもなさすぎてアンサンブルのギアが外れる瞬間もなくはないし、特にこの日はゲイリーの感激だだ漏れっぷりがそれを加速している部分もあったが、それも含めて狂騒の彼方へ押し流すだけの歓喜が、この日のステージには渦巻いていた。“美沙子に~”の前にゲイリーが叫ぶ。「拝啓! 安田美沙子さん! 東京の街に、ライブをしに来ました。相変わらずわけのわからない唄ばかり歌ってます! 恥ずかしいことばかりの人生だけど、お前らに会えて、ほんっとうに幸せです! 愛する安田美沙子さんと、愛するお前らに捧げる!」。最高だ。
「ロングロングタイムアゴー! モーモールルギャバンには、野口というドラマーがいました!」というゲイリーの絶叫から始まるのはもちろん、3人の音楽的キャパシティの極致である破壊的ナンバーにして、元メンバーへの悪ノリ怨念ソング“野口、久津川で爆死”。「俺はその時、爽やかにギターヴォーカルやってたけど! 率直に言うと、バンプ・オブ・チキンみたいなバンドになりたかったんですよ! しかーし! 野口は、弁護士を目指してバンドを抜けたであります! 弁護士にはなれなかったけれど!」と展開されるお馴染みのゲイリーの絶叫口上が、「北欧の風みたいな音楽をやろうと思ってたのに、気づけば北斗の拳のようになっていたー! こんなモーモールルギャバンに誰がした! 俺だよ! おかげでお前らに会えた! アイラビュー!」と「今、ここ」への最大限の感謝へと直結していく瞬間も最高だったし、ヴォイス・チェンジャーで女の子みたいな声になったT-マルガリータが曲のブレイク部分で「いやー……いい人だったんだけどね、爆死しました(笑)。っていうのはもちろん嘘で、結婚してました! その上ね、一軒家まで買いやがってですね。愛の巣だか何だか知らないけど……でもね、離婚したから(笑)。ついでにね、奥さんに家も取られちゃったから。最近ではね、小学校の時に好きだった女の子にね、メールをしてるみたいです。でもね、返事は返ってきてません! 野口、東京で……彼女募集中!」という暴露ネタでMAXの爆笑を誘った瞬間も、そのひとつひとつがいちいち名場面として胸に焼きついていく。
そして、“POP! 烏龍ハイ”“ユキちゃん”から怒濤の終章へ! 「金曜の夜が寂しくないって素晴らしい! 最後まで燃え尽きようぜ!」というゲイリーの言葉から、クラビネットの鋭利なリフから“サノバ・ビッチェ”に雪崩れ込み、そこからオルガン・スカ的ナンバー“いつか君に殺されても”へ……と『僕は暗闇で~』の曲を畳み掛けた後、本編最後に披露したのは名物ナンバー“サイケな恋人”。毎日プレステのダメ男への幻滅をユコ・カティがクール&ポップに歌い上げる前半から一転、ゲイリーの熱唱をきっかけに会場一丸「パンティー!」のでっかいコール&レスポンスへ突入! 「悪ふざけから始まったパンティー・コール、まさかZepp Tokyoのみなさんにやってもらえる日が来るとは、思ってなかったよー! ありがとう!」と、最初から感激あふれっ放しのゲイリーも、この光景にはさすがに驚きを隠せない。「みんな、モーモールルギャバンのワンマンが観たいなんて……どうかしてるぜ! 俺のほうがどうかしてるぜ! ワイルドだぜ~!」。コスチュームの下を脱いでパンツ一丁になったところから、歓声に応えて勢いよくパンツを脱いだ!……と見せかけてその下にもう1枚はいてて「これがJ-POPの限界だ!」とドヤ顔して見せるいつものネタも、「お決まり」ではなく最高の「必殺技」として、むせ返るような会場の熱気をさらに煽り立てていた。
アンコールを待つオーディエンスの「パンティー! パンティー!」のコールに導かれて、本編の爆演ですでに全精力を出し尽くしたはずの3人が再びステージに登場。「もう結構やりましたよ。お前らまだ聴きたいのか? 聴きたいのか! ありがとう! 『早く引っ込め!』って言われてた時代が嘘みたいです!(笑)。よーし、じゃあ調子に乗って、あと20曲ぐらいやっちゃおうかな!」(ゲイリー)の声にフロアがまた沸騰! 「嘘! うそ! 死んじゃう! あたし死んじゃうよ! もうちょっとグーパーがおぼつかなくなってきて……」と言いつつ、アンコール2曲にWアンコールまで堂々と鳴り響かせたモーモールルギャバン。正真正銘ラスト・ナンバー“スシェンコ・トロブリスキー”で歌い上げた、コーラス4人も加わっての発狂したクイーンみたいなハーモニーが、ツアーのグランド・フィナーレの余韻を強烈に胸に刻んだ。
開演時からUstreamで生中継されていたほか、10月3日にはライブDVD『Live at Zepp Tokyo 2012.6.22:エンペラー』として発売されることが決定しているこの日のライブ。メンバー/観客一体となっての記念撮影の後、「以上をもちまして、本日の公演はすべて終了といたします」という終演の陰アナの声が、そのまま「モーモールルギャバンは、2012年、ワンマン・ライブを予定しております。ユコさん、発表して……ほら、マイクのとこ行きなさい!」となぜかユコに指示を飛ばし始める。「11月23日、ステューディオ・コーストで! 11月30日、なんばHatchで!」と叫びあげるユコに、でっかい喜びの声が沸き上がる! さっきまで観てたはずなのにまた観たい、もう1回観たい、という気にさせられるモーモールルギャバンという名の磁場は、なおも留まるところを知らずに拡大の一途を辿っているのである。(高橋智樹)
[SET LIST]
01.パンティー泥棒の唄
02.美沙子に捧げるラブソング
03.BeVeci Calopueno
04.Hello!! Mr.Coke-High
05.細胞9
06.琵琶湖とメガネと君
07.ユキちゃんと遺伝子
08.午前二時
09.僕は暗闇で迸る命、若さを叫ぶ
10.コンタクト
11.Smells Like SURUME!!
12.ATTENTION!
13.愛と平和の使者
14.裸族
15.Good Bye Thank You
16.野口、久津川で爆死 "Long Version"
17.POP! 烏龍ハイ
18.ユキちゃん
19.サノバ・ビッチェ
20.いつか君に殺されても
21.サイケな恋人
Encore 1
22.悲しみは地下鉄で
23.MY SHELLY
Encore 2
24.スシェンコ・トロブリスキー